EPISODE2-9
「さて、どうしようかな。」
開会式終了後、明と東条は交流戦の準備や何やらで会場に行ってしまった。
その場に残された琥珀は、これからの予定を考えていた。
不意に声をかけられ顔をあげると、
「一緒に見に行きませんか?」
いつものように爽やかスマイルを惜しげもなく振りまく桜井要の姿がそこにあった。
外見も悪くないその顔に、さらにその笑顔、周りにはいくらでも行きたがる女子はいるだろうに。
「わざわざ俺に声をかけるとは変わり者だな。」
そう言いつつも、どうするか決めかねていた琥珀にはちょうどよかった。
「要はどれ見に行くんだ?」
そう聞きながら、空の競技の始まる時間を聞くことを忘れていたことにいまさらながら気がついた。
(まあ、空のことだどうせ優勝とかするだろ。)
「そうですね、今年の競技は"火"と"水"、"風"と"土"の合同実施のようですね。どっちに行きましょうか。」
「へえ、そうなのか。そういえば競技内容とか聞いてなかったな。」
「僕も詳しいことは聞いていませんが、とりあえず会場に行きましょうか。」
桜井要曰く、第一グラウンドで空、泉、東条の出る火と水の競技
第二グラウンドで、明の出る風と水の競技が行われるらしい。
「明は9時からか。明には悪いが空たちを見に行くか。」
ということで、明には申し訳ないが空たちがいる第一グラウンドの方に桜井要と琥珀は歩き出した。
第一グラウンドの近くの掲示板に競技内容が詳しく書かれていた。
「えっと、
あらかじめ決められたペアと2人1組で行う。
ペアは火にエントリーした者と、水にエントリーした者がペアとなる。
競技内容は、全20組のサバイバル形式でまず水属性にエントリーした者が規定の大きさの氷球を作る。
それを相手の火属性の選手に壊されなければ勝利で、逆にペアの火属性にエントリーした者は相手に壊される前に壊せばいいわけか。
なお、相手の選手への直接攻撃は禁止…。」
「これはまた変わった趣旨の競技ですね。」
楽しそうに聞いた感想を告げる要。
そしてグラウンドに目をやると、試合開始まであと5分と迫っていた。
ここに来る間に聞いたことだが、空と泉は9時からの部らしい。
人数の関係で4組に分けて行われるようだ。
空と泉は1部で、東条は最終の4部だった。
「それには同意するよ。ん、あれは空みたいだな。」
グラウンドに空と泉が立っていた。
2人は少し話して、離れていった。
どうやらペアではないらしい。
「そうですね。お二人はペアではないようですね。」
桜井要と第一グラウンドへと続く道の途中にある階段に腰を下ろした。
あたりには木々が生い茂り、ちょっとした影を作り出していた。
まだ春とはいえ最近の太陽はぎらついている。
「そりゃSクラス同士でペアになったら不公平だろ。」
「確かに。お、始まるようですよ。」
要の声でグラウンドに目を向ける。
スピーカーで流される審判の声を聞きながら要と話を続ける。
「みたいだな。交流戦って毎年こんなもんなのかな。」
目の前では水魔法を使って空気中の水分を集めて氷球を作っていた。
呪文を唱えること一つとっても人それぞれだ。
使えるものは上位魔法で作り出すもの、下位魔法だが工夫を凝らすもの。
もう一度スピーカーから合図が流れて、それに続いてペアが思い思いの場所に散っていった。
どうやらこれが本格的な開始になるようだ。
その中の一人の空の姿を見つけた。
「どうでしょう。僕も今年が始めてですからね。」
木陰で桜井要と談笑している間にも空の足は止まらない。
5分もしない間に空は10個以上の氷球を破壊していた。
特に呪文を唱えることなく破壊していく。
「なんか空が浮いているように見えるな。」
「そうですね。空さんはSの中でも特別ですからね。」
空のペアの氷球も魔法を受けていたが、なんとか守っていた。
だがそれもそろそろ危ないかも知れない。
ペアが集中力を切れかけている。
「そろそろ終わりですかね。」
試合開始からもうすぐ30分だ。
もう残りも5ペアもいない。
空と泉は残っていたが、どうやら泉は限界らしく年上と思える人の全力の魔法を受けてなんとか耐えていた氷球が溶けてしまった。
空のペアの氷球はもう半分以上溶けていた。
空がそれに気がつき急いで戻ってきたが、少しの差で氷球は溶けきってしまった。
「ん、2人とも負けたな。」
「そうですね、残念です。まあ1年にしては健闘した方だと思いますよ?」
「まあ、そうだな。」
要と話しているうちに、試合の終わった空と泉が歩いてきた。
特に悔しそうな表情はないものの、それでも残念な気持ちは拭えない様だ。
「お疲れ。」
「お疲れ様です、二人とも。」
座ったままの体勢から二人に声をかけた。
「んー負けちゃった。」
こちらに来た空はあっけらかんと言った。
泉はさっきの試合のせいで少し疲れて見えた。
「二人はこれからどうするんだ?」
「うーん。一緒に見て回ろうよ。」
「そうですね。そうしましょう。」
午前は東条の試合を見てから、みんなで昼食をとって終わった。
ちなみに東条も明も1回戦で敗退だった。
(そういえば明の競技内容聞き忘れてた。
ま、いいか。)
昼ごはんの後に、交流戦のメインとなる闘技大会が行われることになっていた。
「そういえばまだ対戦相手見てないや。」
何気ない琥珀の言葉を聞いて、全員が驚いた。
特に空は驚いていた。
「えっ!?まだって何してるの??早く見に行こうよ!!」
とのことで、全員で対戦カードを見に行くことになった。
場所は第一闘技場
対戦相手はーーー
「立花…なんか聞いたことがある気がするけど…」
「あれ、立花くんって予選のとき琥珀と試合した子だよ?」
琥珀の疑問に空が答えた。
立花というやつと空は同じクラスだった。
「ああ。そんなことより…西野とは2回戦か。」
西野は第一シードということで、一回戦は免除
試合開始は13時からだった。
「ねえ、何で琥珀はそんなに西野先輩を気にしてるの?」
空に西野との話のことは言っていない。
「まあ、ちょっとした賭けをしてるんだ。」
「賭け?」
「それは秘密だ。」
そう言って琥珀は空に話さなかった。
試合まで少し時間が残っていたが、琥珀は準備のために空たちとは分かれて控え室に向かった。