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EPISODE2-8

「あれ、琥珀くん。昼休みはあきらちゃんと特訓じゃなかったっけ??」

 

 東条の一言で、教室でパンを食べていた琥珀の手は止まった。

 どうやらまたやってしまったらしい。

 

「…あ、すっかり忘れてた。」

 

 残りのパンを口の中に放り込んで、すぐに泉が待つ場所に走って行き、約束の場所に着くとすでに泉と空が待っていた。

 

「遅れてごめん。」

 

「いえ、大丈夫です。」

 

 泉は特に怒る様子も無く、その後の特訓も滞りなく行われた。

 最初に比べるとずいぶん泉についていける様にはなったが、泉はまだまだ本気には程遠い様子で、昼休みが終わるころには、琥珀の服はドロドロに汚れていた。

 近くで見ていた空は、最近少しずつ暖かくなり始めた春の陽気に負けてウトウトして、起こすのがもったいないほど気持ちよさそうだったが、放っておくわけにはいかずぐずる空を泉が連行していった。

 その様子を見届けてから琥珀も自分の教室に向けて歩き出した。

 

(度忘れじゃなかった。

 アレは完全に忘れてた…)

 

 教室までの間に、琥珀は泉との約束を忘れていたことについて考えていた。

 しかし、教室に着くとすぐに明が話しかけてきてすぐに考えていたことを忘れることにした。

 

(まあ、少し疲れてるんだろう。)

 

 そう自分を誤魔化して。

 席から見える景色は、春らしさをどんどん増しており、冬の凍てつく様な風も、風景も消えていた。

 桜の樹には新緑の葉が増えてきていた。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 本戦までの数日間、特に変わったこともせずいつものように放課後にみんなで集まって練習をしていた。

 唯一変わったといえば、その中に桜井要が加わったことだろうか。

 要は闘技大会のみの参加だったので、特にすることもなく全員の練習風景をみていた。

 そして、時々何かを話しかけていた。

 その様子からはすっかり馴染んでいる様に見て取れた。

 気になることは、西野のことだった。

 少し聞いた話だと、西野は前年度、前々年度の闘技大会の優勝者だったらしくワイルドカードとしての参加だった。

 そのため予選も免除されており、まったく相手のことが分からなかった。

 分かることはファイターという事から、近接戦闘という可能性が高いことだった。

 

「…うぉっ!!」

 

「考え事してちゃ、危ないですよ??」

 

 その間にも泉の小さい手のひらを握って作られた拳が琥珀の顔のすぐ横を通過した。

 一瞬でも気を抜くと吹っ飛ばされて意識を刈り取られてしまうような早さだった。

 それでもまだ余力は十分ありそうで、琥珀の息だけがあがっていた。

 琥珀は身体を捻り、右手を繰り出した。

 それを意とも簡単にかわして、お返しとも言わんばかりのカウンターが琥珀の右わき腹をめがけて飛んできた。

 

「やばーーー」

 

 ーーーい、と言う前に泉の左フックは琥珀に直撃していた。

 

「ぐっ…」

 

 女の子のパンチとは思えないほどの重さと威力だった。

 琥珀は意識を保つことに必死になっていたので、泉からのトドメの一撃にまったく反応することができなかった。

 そのままみぞおちに決まったのを見届けることなく、琥珀の意識は混濁していった。

 

「あっ、えっと…ごめんなさい。」

 

 泉の謝罪の言葉が琥珀に届くことは無く、そのことに周囲も驚くことも無かった。

 またか、と言わんばかりの視線を投げかけるだけでまた練習に戻っていった。

 ただ、相変わらず空だけはすぐに琥珀に駆け寄っていた。

 泉はどうしたらよいのかわからず、オタオタしていた。

 こんな光景が日常となりつつあった。

 

 ~~~~~~~~~~

 

 次に琥珀が眼を覚ますと、近くの壁にそっと背をもたれるような形になっていた。

 となりには心配そうに空が琥珀をみていた。

 

「あっ、起きた!!もう大丈夫??」

 

 心配しすぎる空の顔を見ながら起きることもいつものことであったが、毎回この表情をされることには未だに慣れることは無かった。

 

「ああ、大丈夫だよ。」

 

 そう言ってから、近くの時計を見てまだ少し時間が残っていることに気が付いた。

 さすがに今からもう一度泉に練習に付き合ってもらうのも申し訳なかったので、魔法の練習をすることにした。

 偶然とは言え、この間の魔法同時展開の練習を少しでもしておきたかった。

 立ち上がろうとした琥珀に空が心配そうな顔を向けた。

 

「大丈夫。魔法の練習だから。」

 

 そう言ってから、空に笑いかけて立ち上がった。

 眠っていた場所から少しはなれたところに移動した。

 周りの生徒達の中には帰りだす者もいたが、興味深そうに琥珀を見ている者もいた。

 本戦出場を決めてからさらに注目を浴びることが増えた。

 

 顕著なことを言えば、朝の靴箱にラブレターが入っていたりとか。

 古典的なやり方で、これだけ発展した世の中なのに未だに風習として根付いていた。

 始まりは桜井要との試合の次の日だった。

 朝いつものように空と登校して、靴箱を空けた瞬間にいくつか入っていた。

 なだれを起こすとか、そんなレベルではなかったが琥珀にとっては初めての経験だった。

 その光景にしばらく我を忘れていて、空に声をかけるまでどうしたら良いのか呆然としていた。

 

「どうしたの…」

 

 琥珀の眼の先、靴箱の中にラブレターが入っていることを見つけた空は、大騒ぎだった。

 何を言っていたのかまではわからなかったが、その声で琥珀はやっと目が覚めた。

 とりあえず、入っていたものをかばんに詰めてその場を去った。

 それ以上にその日の昼休みは大変であった。

 

「おいおい、まだ中見てねえのかよ。」

 

「あ、ああ。」

 

「なら今から開けてみようぜ。」

 

 明の意地悪そうな意見に、誰も反対するものはいなかった。

 いつものメンバーに、詰め寄られていた。

 みんな興味津々といった様子で、事の成り行きを見ていた。

 その中には桜井要もおり、助けてくれるかと琥珀は視線を向けた。

 が、彼は笑うばかりで助けようとしないどころか

 

「早くしないと昼休みが終わってしまいますね。」

 

 と、こともあろうにそんなことを言いやがった。

 その先のことは、琥珀はもう封印したいほどのことだったのは言うまでもあるまい。

 それに比べると、好奇心の視線になど耐えることは難しくなかった。

 ただ、あまりおおっぴらに魔法の練習をすることは相手に情報を与えることに繋がるので、その日は基本的な魔法の練習だけにとどめておいた。


~~~~~~~~~~


「おはよ。今日は交流戦だな。」


教室に入って、明に会うと開口一番に言い放った。

言われなくとも学園の中はまるで祭りのような浮かれぶりだ。

交流戦は朝から行われ、今日一日の授業はなくなる。

名目としては、各個人で自分の一番興味のある会場の戦いを見て学ぶ。

と言う事にはなっているが、実際は賭けをしているなど日常茶飯事なようだ。

実際に今朝の校門の近くで、闘技大会の賭けの倍率が張り出されていた。

ちなみに琥珀は一番倍率が高かったのは言うまでもない。


「そうだな。明は何時からなんだ?」


系統別に大会は分かれていて、時間帯がバラバラになっていた。


「んと、9時からの一番初めみたいだな。まぁ闘技大会と違って観客が少ないのが救いだな。」


「空と時間がかぶってるな。どうするかな。」


空の大会も9時スタートとなっていた。

闘技大会のように前の段階から予選を行わないため、大体の競技が朝のうちに予選を済ますみたいだった。


「あと東条は10時って言ってたかな。」


「見れるかギリギリだな。まぁ気が向いたほうに行くことにするさ。」


そう言って、琥珀はいつものように自分の席に座った。

今日は授業がなく、かばんには昼食のパンと筆記用具ぐらいしか入っていなかった。

そのかばんを机にかけると、外を見てのんびりとすることにした。

1時間目の開始の時間に、全体での開会式のようなものが開かれるので、それまでのんびりできる。

緊張して落ち着かない生徒も多い中、琥珀だけはいつものようにぼんやり景色を眺めていた。

3階ということもあり、街の遠くまで見ることができる。


電車と呼ばれていたものは、その姿を消し、リニアに成り代わった。

車もガソリンでなく、すべて動力は電気になり運転もオートが主流になった。

そのおかげで事故も激減した。

石油などのエネルギーは使われることがなくなり、変わりに太陽光や、風力、原子力が主流になった。

昔、二酸化炭素の増加を騒いでいたことが琥珀には信じられないほどだった。

それでも依然として、人と人の争いはなくならない。

それに比べて、この街は平和であった。


「そろそろ、グラウンド行こうぜ。」


ぼんやり物思いにふけっていた琥珀の頭上から声がかけられた。

顔を上げると、明と東条が待っていた。

2人はすでに準備が終わっていて、琥珀も慌てて用意をした。


「それで、琥珀君は明と空ちゃんのどっちを見るの??」


意地悪そうな笑みを浮かべた東条に苦笑しながらも、まだどちらに行くかを決めかねていた。


「空ちゃんと方に行ってやれよ。俺は応援は恥ずかしい。」


明は少しうんざりとした顔で琥珀に言った。


「俺が行くのがそんなに嫌なのか??」


東条にされた仕返しと言わんばかりに、明を弄った。


「男に言われてもうれしくない台詞だな。」


3人で笑いながらグラウンドまでの少しの距離を並んで歩いた。

2人ともあまり緊張の色は見えなかったが、それでも少しは緊張しているようだった。

外はもうだいぶ暖かく、動けば汗をかくぐらいにはもう夏に近づいていた。

そんな陽気の中で交流戦は始まった。

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