表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/42

EPISODE2-5

闘技大会の予選は放課後開催となっていた。

予選は全部で3回戦で、今日と明日と明後日というなかなかしんどい日程となっていた。

交流戦と言う名目なので、1年生の予選の相手は1年生であった。


「なぁ、ホントに大丈夫なのか?」


昼休みに琥珀がパンを頬張っていると、明が心配そうに声をかけてきた。

その隣には東条もいて、2人して同じような表情をしていた。


「ああ、相手も同じ1年なら何とかなる…と思う。」


琥珀の自信のあまりなさそうな発言を聞いて、2人の表情はさらに険しくなった。

琥珀はあまり気にもせず、続きのパンを食べにかかっていた。

泉に頼んで、昼休みも練習の相手をしてもらうために多少急いで食べ終わった。


「じゃあ俺泉さんと練習してくるから。」


そう言って席を立った琥珀に、明と東条は追いかけるようにして着いていった。

昨日のように練習場所がちゃんと取れていないので、人気の少ない校舎から少し離れた芝生の上で練習することになっていた。

約束の場所に着くと、泉と空がすでに待っていた。


「ごめん、遅れた。」


「いえ、大丈夫です。」


短いやり取りを交わして、昨日のような練習が始まった。

昨日と違うのは、練習をしているのが、琥珀と泉だけであるというところである。

2人の練習風景をみた3人は、しばらくの間驚きで声が出なかった。

その沈黙を初めに破ったのが、明であった。


「な、なあ、琥珀って確か初めてだっていってなかったっけ?」


2人の壮絶な練習を見つめつつ、残りの2人に話しかけた。

話しかけられた2人も、琥珀と泉から目を離さずに答えた。


「うん。私、琥珀のこと昔から知ってるけど、武道なんてやってなかったと思う…」


その間にも、二人の組み手は激しさを増していった。

琥珀の放った右の正拳に対して、泉は少し身体を動かしただけで避け、すかさず琥珀の懐にもぐりこんで空いた右わき腹に左足で蹴りを入れようとした。

その蹴りを瞬時に見極めた琥珀は、身体を捻って左手で払いのけて、一歩下がり間合いを取った。

これだけの動きを2人は一瞬のうちにやってのけた。


「すごいですよね、冴原さん。」


東条の驚きを隠しきれない声を聞きつつ、残りの明と空もうなずいた。


「こりゃ、ホントに本戦まで行くかもな。」


「でも、闘技大会は魔法も使いながらだから、まだわからないよー。」


空の言うことももっともだが、それを差し引いても明には琥珀なら本戦出場も夢ではないと思っていた。

その後も、2人の練習と言う名の特訓は昼休みの終了5分前を告げるチャイムが鳴るまで続いた。


~~~~~~~~~~


午後の退屈な授業もあっという間に終わり、放課後がやってきた。

予選のことを終始考えていた琥珀にとって、授業の内容など微塵も覚えていなかった。

ただ、琥珀にとって学園の授業はもはや聞かなくても何ら困ることはなかったのだが。


「琥珀、体育館行くか。」


明と東条の声を聞いて、机の横にかけてあったかばんをひっ掴まえて、立ち上がった。

3人で並んで体育館に着くと、入り口のところに今日の予選の対戦カードが掲示されていた。

(…最後の方か)

体育館は2階建てになっていて、1階は剣道部や柔道部などの武道系の道場になっていて、2階が体育館になっていた。

入り口の正面には大きな舞台があって、入学式などに主に使われる。

また両側には階段が付いていて、そこから上の見学席に行くことができるようになっている。

実質は3階建てなのかもしれない。


琥珀の試合は最後から3番目で、今日だけで試合は10試合あった。

予選は今日から3日間の計30試合となる。

初日ということもあって、体育館の中に見に来ている人はまだ少なかった。

本戦になると、人でいっぱいになって見えない人のために中継までされるらしい。


「琥珀の試合はまだ大分先みたいだな。空ちゃん達も来てるのか?」


「いや、泉さんはわからないけど、空は執行部だから取締りで来るって行ってたぞ?」


みんなで周りを見渡してみると、制服の右腕に執行部と書かれた腕章をつけた空が、舞台の上に立っていた。

空意外にも何人かの執行部が、同じように腕章をつけた生徒が舞台に立っていた。

舞台の近くにつけられた時計は、4時を指していた。

第一試合がそろそろ始まる時間になった。


「それでは、闘技大会予選第一回戦を始めます。

2年の芳野君と同じく2年の三明さんは体育館中央に出てきてください。」


放送と共に、男女1ずつが出てきた。


「これって、女子も出てるんだな。」


琥珀はてっきり男子ばかり出場すると思っていたので、少しあっけに取られた。


「そりゃ魔法に男女差はあんまりないからだろ。でも珍しいみたいだぞ。」


話しながらも3人で見学席に行き、空いているところを探した。

少し歩いて探していたら、泉が一人でぽつんと座っているのを見つけたので、一緒に座ることになった。

舞台側に近い奥の方になったが、ここからでも十分観ることはできた。


「ルールは大丈夫ですね?それでは、はじめ!」


放送での合図と共に二人の選手は一気に魔力を高め始めた。

二人とも遠距離タイプなのか一向に接近する気配はなかった。

それからの内容もほぼ両者が魔法を打ち合うだけの消耗戦に終わった。

琥珀とはタイプが違うので、あまり参考にはならなかったもののしっかりと見ていた。


「そろそろアップしてくるよ。」


5回戦が終盤に近づいたときに、3人にそう告げて琥珀は立ち上がって体育館の外に出て行った。

外には同じように身体を温めるために何人かの生徒が身体を動かしていた。

(この中に対戦相手いるのか?)

辺りを見回してみたが、よく考えると相手の名前も覚えていなかったのでもちろん相手が分かるわけが無かった。

簡単に準備運動を済ませて、精神集中して、それから遅くならないうちに体育館の中に戻った。


「おっ、帰ってきた。もうすぐ出番だぜ。」


さっきと同じ席について、今行われている試合を見た。

どうやら琥珀の前の試合らしかった。

内容は一方的な展開で、すぐに決着がついた。


「闘技大会予選7回戦を始めます。

1年の立花君、同じく1年の冴原君は体育館中央に出てきてください。」


初めに聞いた時と同じアナウンスが告げられ、琥珀は階段を下りて中央に向かって歩いていった。

見学席のいる明たちが、なにやら声をかけてくれているようだったが、周りの見物人の声などでよく聞き取れなかった。

時々周囲からは


「おい、アイツ"F"らしいぞ。」


とか


「うわ、調子乗ってんじゃあねえの?」


と揶揄する声もちらほらと聞こえてきた。

琥珀はもちろんそんな声を気にするでもなく堂々と指定された場所まで歩いていった。

そこには対戦相手が着ておらず、辺りを見渡してみると見学席から1人の男が飛び降りてきた。

(派手好きなやつ)

内心で思ったものの、顔には出さずにじっと相手の顔を見ていた。


「おい、俺が勝ったらもう一条さんに付きまとうなよ!!」


突然の相手からの宣言に、琥珀は一瞬きょとんとしてしまった。


「えっと、どういう意味?空のクラスメイト?」


「…忘れたのならそれでいい。ただ、負けたら従ってもらうからな!!」


琥珀には身に覚えの無い喧嘩を売られたが、どうも承諾しない限りこの話は終わりそうに無いのでとりあえずうなずいておくことにしておいた。

そこでようやく納得したのか、中央に書かれた線のところまで下がった。


「それでは、はじめ。」


審判兼アナウンスの声を合図に相手の男子生徒は集中し魔力を収束し始めた。

相手の魔法が発動する前に、琥珀は相手のところめがけて猛然と走り出した。

それを見て、一瞬ひるんだ相手は、それまで収束させた魔力を霧散させてしまっていた。


「くそっ…」


立花はもう一度魔力を高めることをあきらめて、琥珀との距離をとるため右横に走り始めた。

それを確認した琥珀は、走りながら一瞬にして魔力を収束させた。


「風よ、わが身を疾風のごとく動かせ、ムーブ」


呪文の一瞬後、魔法でゆがめられた自然の風が琥珀を取り巻いた。

その後の一瞬で、琥珀は先ほど空けられた立花との距離を詰めた。

立花が魔法が発動したと理解したときにはすでに眼前にまで琥珀が迫っていた。

慌てて防御壁を張ろうと魔力を高めるものの、やはり詠唱する前にその魔力は霧散させられた。

琥珀は風の魔法で加速された体のエネルギーをそのまま利用して、利き手である右の拳にすべての力を込めた。

拳が立花の左頬に食い込んだ。

パンチ自体に魔法が込められていた訳ではないので、威力は普通のパンチに毛が生えた程度だった。

それでも1メートルほど飛ばした。


「っつ…」


立花はうめき声を上げて、ひざを手で支えて立ち上がった。

琥珀としては、確実に決めにいったはずなのに立ち上がられたことに対して、少し落胆してしまった。

そしてもう一度ファイティングポーズをとった。


「おぉ、琥珀の奴考えたな。」


明は一連の琥珀の動きを見て、感嘆のため息をついた。

それは東条も同じだったようだが、1人の少女だけが冷静なまなざしでその戦いを見つめていた。

それは、厳しくも見守るような視線だった。


「ちっ、今のはちょっと油断しただけだ。」


強気に言って、まだ戦う姿勢を崩さなかった。

(どうする、もう同じ手は通用しないか?)

そう考えていたが、立花は先ほどより多めに距離を空けて魔力を収束させ始めた。

それは先ほどより大きく、また密度も高かった。

(遠距離攻撃魔法か!?)

瞬時に判断して、琥珀も魔力を収束させ、先ほどと同じ魔法を使い立花との距離を詰めた。


「甘い!!

土よ、すべてを飲み込む流れとなれ、マッドフラッド!!」


詠唱の刹那、魔法で作り出された泥が濁流となって襲い掛かってきた。

幸いなことに、体育館の中には土自体が存在しなかったので、それを作り出す分に多くの魔力を必要としたようで、威力はあまりなかった。

それでも流れに飲み込まれてしまったらひとたまりも無い。

琥珀は、立花に向かっていた加速を、体育館の見学席に加速しなおして濁流を避けることに成功した。

そして間髪いれずに立花に向かって飛び出した。

魔法の使用で、一瞬隙ができた立花には琥珀の攻撃を避けるだけの余裕がなかった。

そして、今度は琥珀の振り出した渾身の右ストレートは相手のみぞおちを捕らえた。


ウッ


と低い声がもれ聞こえて、次の瞬間には相手の作り出した濁流が跡形も無く消え去っていた。

そして、一瞬の静寂のあとに、割れんばかりの声援が聞こえた。

琥珀は、腕の中で意識の失った相手をそっと地面に置いて、何事も無かったかのように見学席に戻っていった。

席に戻るなり明や東条に賛辞を浴びせられ、琥珀もうれしそうに表情を崩した。

舞台にいる空に目を向けると、空も周りを気にしながらも手を振ってくれた。


こうして琥珀の闘技大会第一次予選はあっけなく幕を閉じた。

そして次の日には、"F"クラスの奴が、"S"クラスの奴を倒したと言う衝撃的なニュースは瞬く間に広がるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ