EPISODE2-1
事件から1週間後
「なぁ琥珀、結局あの事件解決したの誰だったんだろなー。」
「明、いつまでそのネタ引っ張るつもりなんだ?」
1週間たっても明はこの調子だった。
あの事件は表向きには政府の圧力で相手が逃亡して解決したということになっている。
しかし、生徒たちの間では、政府の秘密機関が解決したとか、はたまた執行部が解決したとか数々の噂が広がっていた。
「琥珀は気にならないのか?だってどう考えてもおかしいじゃねぇか。」
そう言われてもな、
(まさか俺がやったと言った所で果たして信じてもらえるか…)
そんなやり取りを朝の教室の中で繰り広げていた。
周りの生徒もどうせ同じようなものだろう。
辺りを見渡して今日何度目かのため息をついた。
「そういえば、今日魔法基礎の教師が来るんだっけ?」
適当な話題を見つけて、話題をそらした。
主犯だった杉下は、一身上の都合で退職となっていた。
まあ、身内から犯罪者がでたことを学園側は隠したのだ。
それも生徒たちの間ではもっぱらの噂なわけだ。
「ああ、なんでもすげえ美人とか聞いたけど。」
それを聞いたクラスの男子たちが飛びついてきた。
そんな明の姿を横目で見ながら机の中へ授業の用意を詰め込んだ。
学校というものは、どれだけ時間が経っても大して変わらない。
授業は退屈だし、ノートは手書きだし。
科学は中々発展しないものだ。
のんびりと考えながら、トイレにでも行こうかと思ったとき、突然校内放送がかかった。
特に思い当たることもなく、席を立ったとき自分の名前がスピーカーから聞こえてきた。
「繰り返します、1-Fの冴原クンは、昼休みに生徒会室にきてください。」
さて、自分がなぜ呼ばれたのか理解できなかった。
何か重大なことをしたのだろうか。
「おい琥珀、お前何したんだ?」
「さあ、俺にも思い当たることが無いんだがな…」
そういえば、前に一度空の付き添いで行ったっけ?
そのときの会長さんの声のように聞こえたような気がした。
とりあえず、昼休みに行ってみることにした。
~~~~~~~~~~
ドアをノックして名前を言って、生徒会室に入った。
中には、男の生徒が1人いるだけだった。
「あの、昼休みに来るように言われたんですが、会長はいますか?」
たぶん先輩であろう人物になるべく丁寧に言った。
部屋はがらんとしていて、床も綺麗に掃除されていて、棚も整理されていた。
以前来たときは、そんなところにまで目はいかなかったが今日は自然と目に入ってきた。
「ん?お前が冴原か?」
部屋を見渡していた目を男に戻した。
長机の上にあぐらをかいて座っていて、制服も着崩されていて、お世辞にもこの部屋に似つかわしくなかった。
「そうですけど…会長がいないようなら帰ります。」
そう言って背を向けたときに、男がまた話しかけてきた。
「まあ、待ちーな。呼んだんは俺や。今帰られると、呼んだ意味ないやんか。」
男の話した内容に疑問を持ちながらもう一度振り向いて男に向き合った。
それにしてもひどい関西弁だな、聞き取れるからいいものの。
「おお、そや自己紹介がまだやったな。俺は西野哲平や。」
西野は言ったきり、人懐こそうな笑顔を浮かべた。
ここで俺の自己紹介は改めて必要ないと、思い直して気になる本題に入ろうとした。
昼休みに入って、ご飯を食べずに来ておなかが空いていた。
「それで、そろそろ本題に入ってもらえますか?」
「ホンマせっかちやなぁ、自分事件の日なんで廊下なんかにおったんや?」
聞いてきた西野の目の色が変わった。
鋭い輝きを放ち、見極めるような表情になった。
どう答えようかと悩んだが、とりあえず誤魔化すことにした。
「事件の時ですか?教室で気絶してましたよ。あの時クラス全員が魔法で眠らされていましたから。」
とりあえず用意しておいた答えをそのまま答えることにした。
これをどう受け取るかその様子を見ることにした。
西野は大きくため息をついた。
「やっぱ茶番なんかやるもんちゃうな。」
そう言って、表情を崩した。
「もうわかってるんやで、死神ゼロ、いやコードゼロだったかな。お前のこと調べるん時間かかったんやで?」
なんでもないことのように言い切った相手の顔を驚きを隠せない表情で見つめた。
なぜこの男だ知っているんだ?
まさか、どこからか情報が漏れたのか?いや、まさかあの機関に限ってそんなことはないはずだ。
「なぜそのことを知ってるんだ?」
出来得る限り冷静な声でたずねた。
生徒会室の中は異様な静けさと、二人の放つ殺気で満ちていた。
すると西野は机から下りると、隅においてあったコップにお茶を入れ始めた。
疑問は解決されることは無かったが、先ほどまでの殺気はなくなりとりあえず警戒を解くことにした。
「ほれ、とりあえずお茶でも飲めや。」
コップを渡し、飲み始めた。
こいつは俺に何の用があって呼び出したのか。
「先輩に対してそんな警戒するもんちゃうで。」
「先輩である前に、俺の情報を知ってることに警戒してるんですよ。いい加減教えてもらえませんか?」
静かに、だがはっきりと言い切った。
「自分で考えてみればすぐ分かることやろ?」
西野は笑っていた。
バイトのことを知っているのは、榊さんと…
「もしかして、同業者ですか?」
考えたら簡単なことだ。
知らないはずのことを知っている人物、そらは同業者しかありえない。
「ごめーとー。改めて始めまして、俺はコードファイターや。お前同業者に会ったことないんか?」
「必要がないから会う理由が無い。」
相手の正体が分かった以上、警戒することもあるまい。
それ以上に、同業者ならなおさらか。
しかし、依然として疑問は残る。
「それで、その同業者が何の用ですか?」
「そんな冷たくすんなや。何ちょっとお前のことが気になったんや。どや、俺といっちょ勝負してみーひんか?」
呆れてしばらく何を言うべきなのか思い付かなかった。
ようやく思い浮かんだ言葉を言うことにした。
「俺には興味ありません。話はそれだけですか?」
これ以上話すことはないので、教室を後にしようとドアに手をかけたところでまた引き止められた。
「3年前の事件について、知りたいことがあるんだろう?」
そんなことまで知られているのか。
こいつはいったいどれほどの情報を持っているんだ?
もしかしたら、本当にすべて知っているのか?
「…何すればいい?」
今までどこで調べても分からなかった。
事故ではなく、故意であった。
それ以上のことは誰も知らなかった。
「よっしゃ、そうこな。」
うれしそうに笑っている目の前の男に軽く嫌気が差した。
「ちょうど来週に全校生徒の交流戦があるやろ?それに出てもらうわ。」
交流戦か、明がこの間話していた気がするな。
毎年4月に全校生徒で魔法を使った勝負をするって言ってたな。
いくつも競技があってそれに各個人がエントリーして勝負して、優勝者を決める大会。
「出るって、確かいくつも競技ありましたよね?」
「そやな、なら闘技に出てもらうわ。そこで俺に勝てたら俺の知ってる情報教えたるわ。」
そう言ってまたお茶を飲んでいた。
どうにも緊張感が足りてない奴だな。
「それでお前はどうしたいんや?」
「えっ?」
突然の会話に一瞬何を聞かれたか理解できなかった。
それは今まで一度も考えたことの無い疑問だった。
「お前は俺の情報を聞いて、それでどうしたいんや?」
「俺は…」