第 九十 話
「違う。あなたは、お父…さ…んな訳がない。偽者なら、早くいなくなって。
少し、落ち着いたら、元の場所に帰られるように頑張ってみるから」
私は、余裕がなくなって、お客さん扱いも出来ない。
「アキ…」
「ちょっと、いくら働いている先のお客さんでも、急に呼び捨ては、困惑します。前の呼び方で…」
「ハンバーグ」父に似ていると思えてきた人が、急に、私たち家族では意味がある、言葉を言った。
「やめてください」私は、信じられなくて、拒絶する。
「アキ。ある日、お父さんが、長距離バスの用心棒の仕事から帰って来て、稼ぎが良かった日の夜、ハンバーグを家族三人で食べたよな。お母さんがメインのハンバーグを作って、お父さんが添える野菜を炒めたりして担当をした。アキがお皿とか食器を、用意した。
それで、食事が美味しくて、アキが言ったんだ。『こんな料理を用意出来るなんて、私たち、最高の家族だって』
それからだな、うちは私がいる、ほとんど毎食を出来るだけ三人で一緒に作って食べるようになった。幸せだった。
それがあるから、用心棒なんて危険な仕事を途中で逃げ出さずに続けることが出来たんだ」
「違う、お父さんは、この人じゃ…この人はお父さんじゃ」
私は、壊れた蓄音機のように、なりかけて、おかしくなっていた。
「私は、影に記憶を読み取られて、どうやら悪魔の遊び道具にされていたようだ」父の可能性が強まった人が、話す。
嫌な、話だ。
「影に記憶を読み取られて、悪魔の遊び道具?」
私は、信じられない気持ちで、父かもしれない人の言葉を、なぞり口にするぐらいしか出来なかった。
続く
悪魔の遊び道具。酷い。




