第 九 話
お婆さんの黒目はさらに出て、六個。お婆さんの顔の辺りを、飛んでいる。目はどうなっているのかというと、変わりがない状態だ。ただ、その後ろには、丸い闇の世界の入口が出来ていて、化物人間なのが分かる。
「アキ、大丈夫か!?」
ハルトは運んできた料理を他の店員に任せ、直ぐ私のところへ来てくれた。まさに、救いの天使。ハルト様と呼びたい気分だ。
「ハルト。お客さんのお婆さんが、お腹空いたって、怒っちゃって…」
「お客さん。当店のおすすめメニューでしたら、直ぐにご用意しますよ。嫌いな料理など、おっしゃっていただけないですか?」
「黙れ!」
お婆さんの周りの黒い玉が、速さを出して、飛び回る。
「この小娘を闇の世界へと連れて行くんじゃ」
「何でですか?この子は、そんなに酷いことをしました?」
ハルトは、ゆずらない感じで聞く。
「そ、それは、義理のお母さん…」
ハルトの勢いに押されたのか、お婆さんは過去の話をした。
子供の頃、義理の母親に外食に連れて行ってもらえなかったことを。血の繋がった、弟や妹は構わないのに。
表面上の理由は、その頃、字が読めなかったのだお婆さんのせいだった。だから、せっかくの外食なのに世話が嫌と義母は言ったのだ。本当は、前の妻の子で好きになれなかっただけなのに(そういうことを実際言ったので、総合的に判断すると、そうなるそうだ)。「お前は、堅くなったパンとお湯で薄くしたスープで充分だよ」と、義母は言って、置いていかれた。
そして、その後必死で字が読めるようになったのに、目が見えずらくなった。だから、私にあの時の怒りをぶつけてしまっているのだ。
「お客さん、この子に当たるのやめましょうよ」
ハルトは、何とか怒りを抑えようとしている。
「うるさい」
黒い玉の一つが、お婆さんの目の中へと戻った。
と、その時、「アキ、危ない」
ハルトが私を押した。そして、二人で地面に倒れ込む
すると、お婆さんの身体が光った瞬間、黒い玉が凄い勢いで飛んで行った。そして、お店がない草原の方で、ブシュルシュルシュルッ。と、音がした。
テントの柱の方に掛けてあったランプを持って、ハルトと音がした方へ行ってみる。すると、凄い勢いで当たった、穴の跡があった。そこに、黒い玉が、めり込んだ穴から出てきた。持ち主のところへ、飛んで帰っていった。
「あんなの当たったら、大ケガするよね。当たり所悪ければ、死ぬかも」
私は、穴の印象を、伝える。ハルトも、その可能性はあるよねぐらいの、反応だ。
テントに戻る。他のお客さんは、大体、離れた場所の席へ移動していた。
「少年。あんた、中々素早いね。いい仕事するようになるよ。そこの、女の子を闇の世界へ送ったら、もう帰るから邪魔しないでおくれよ」
お婆さんは、目をつり上げて、笑いながら言う。
「そんなこと出来る訳ないだろ。お客さんは自分が、何をやっているのかを分からなくなっているんだ」
「何を…。小僧」
お婆さんは、角や牙が生えてきた。
黒い玉が続々と、お婆さんの目の中へ入っていった。六つ全部。
「ハルト。私、もう闇の世界でも何でも行くから。やめて!」
ハルトは思考を巡らせている顔をしている。
「アキ…。待ってろよ。直ぐ、仕事に戻るから」
お婆さんと、ハルト。ジリジリと、二人は動く。
派手な動きは、出来ない。何か、攻撃をされてしまうから。
お婆さんが動く。黒い玉が目から撃たれる。まるで、パチンコで、石を飛ばしているみたいだ。
もしかして、ゴムが張った状態みたいでいるのが苦しいから、目から出して、飛ばしていたのかもしれない。防御や、軽めの攻撃ぐらいは出来そうだけど。
ハルトはテントの入口辺りにある、まあまあ大きい、花を生けた壺を手に持った。
あんなの、撃ってくるお婆さんには、あまり攻撃出来ないよ。
「ハルト……!」私は、心配になって叫ぶ。
ハルトは、口角を上げ、笑ってこっちを見た。
「これで、おしまいじゃ…。少年よ…」
狙いを定め、お婆さんはハルトに撃った。
「壺よ。飛んでいる黒丸を収めよ。半封印」
ヒュヒョ――ッキ――ッズッド。
お婆さんの黒い玉は、次から次へと収まった、全部。
それにしても、凄い。半封印を直ぐにパッと使えるなんて、そんな人、あまりいないだろう。さすがに、ちゃんとした封印は時間を掛けなければ、無理そうだけど。
ハルトは自分の、髪の毛を一本抜いて巨大化(ゴムに質も変化させたらしい)させて、栓にした。
「お客さん。もう、いいでしょ、これで」
ハルトは、お婆さんをストップさせようといった感じで、言う。
「まだじゃ、まだじゃ…」お婆さんは、血の涙を流す。黒い玉が二つ。ポシャリ、ポシャリと出てきた。
ハルトは身体を光らせた。壺まで光っている。栓を抜いて、中身を出さないような、魔法状態なのだろう。
「クアッ…!」
お婆さんが二発、玉を撃ったが、途中でゆっくり壺に吸い込まれた。
「お客さん。やめま…」
その時、「危ない――っ」
私の前に、小さい、馬に乗った戦士が空を飛んで現れたのだった。剣と盾で、黒い玉を止めた。
「えっ…」
戦士は、玉を二つに斬った。
お婆さんが、「ああ――っ!」と、苦しむ。
地べたに膝を突いて、丸くなった。
大丈夫なの!?狙われておいて、心配するとは私もお人好しが過ぎるが。
「大丈夫だ。九つのうちの一つが無くなっても命に別条はない。パワーが落ちて、大人しくなっていいくらいのものかもしれない」
戦士の持ち主が、私が心配になってしまったのに気が付いてか、説明をしてくれた。
この人は、私がしばらくと少し前に、接客した化物人間の人。
化物人間が、助けてくれたってこと?どういうこと??
終
小さい、馬に乗った戦士は味方か?




