第 八十八 話
ビュ――ンッ。また、強い風が吹く。あの時と、同じように砂煙が起きて、中からトツタが出てきた。
ただ、ランニングシャツにトランクスという姿だった。丁度、着替えようとしていたらしい。
すみません、って感じだ。
「スゲーッ、アキ。そんなこと出来るようになったのか。二日で」まあ、トツタはあんまり気にしないで褒めてくれたが。
さて、これでお父さんを出しても問題ない状態になった。トツタを優先させないとってのが、あったからね。
「ハルト、私、お父さんを出すよ」
「アキ。落ち着いていけよ。とても、急がなきゃいけない状況じゃ、ないんだから」
「うん」
本当なら、こんな会話しなくてもいいんだ。さっさと、魔法を使えば。怖い。何かしらの、失敗。もしかしたら、もう死んでいたりしたら…。ショックで、悲しみで動けなくなるかも。
だけど、ハルトがいる。ハルトは、励ましてくれるだろう。他の人たちだって、優しいと思う。
でも、とにかく父が亡くなっていたら、肉体が小さくバラバラになるくらい辛い気がして。恐ろしい。
けれど、やっと会える時がきたんだ。化物の王様を説得するのだって、無事帰られるのか、分からないんだ。残されてしまうかもしれないお母さんのためにも、お父さんをここへ現さなきゃ。
お父さん、戻って来て。私は、転送魔法を使った。
続く
ただでさえ、自分の力がまだ不安があるのに、安否が分からなかったら、怖いと思う。
けれど、知ることは明日を生きる力になるから。頑張れ、アキ。




