第 四十二 話
「〈あたくしは、子供の時から、親戚の人の家によくいました。
父も大臣をやっていて、母もそのフォローや社交界に顔を出すのが忙しくて、母方の伯父は伯爵の地位でしたが、宮廷の研究職に就いていて、魔法薬学博士でした。
だから、毒の知識の本も、たくさんありました。そして、ある日、伯父の同じ職場の研究者が用事でたまたま、伯父の家にやって来た。
すると、あたくしをチラッと見て、『坊っちゃん、毒好きだろ?私と、同じ目をしている』と、まるで夢の中の人物のようにサラッと言ってきました。その研究者は、手帳に、さらさらと自分の家の地図を描いて、あたくしに渡しました。『私の家には、このうちの書物より、もっといい物、それに毒がありますよ』
あたくしは、その頃、キュウジロウ王子と同じ十代半ば。怖いもの知らずの年齢でもありますから、その言葉が気になって研究者の男の家に行きました。
そこには、本当に毒の本と、本物の毒がたくさんありました。なぜ本物の毒と分かるかというと、ネズミを飼っていて、そのネズミに使うことによって本物と分かるからです。
その男は、あたくしが熱心に本を読んでいるのを見て、こう言いました。『ハハハッ。まるで、昔の自分を見るようだ。私はね、自分の嫌いな上司を毒殺したことがあるんだよ』
あたくしは、びっくりしました。何と、あたくしと同じようなことを思って、本当に実行した人がいたのですから。
『その上司のね、お弁当箱の中に、毒を入れといたのさ。そして、その上司の手帳に、[死にたい。…自殺したい]と、筆跡を上手くマネして書いた。そしたら、あれよあれよと周りの人間が自殺と信じてね。まあ、運が良かっただけかもしれないがね』〉
驚くことに、少年の頃の大臣に、こんな知り合いがいたなんてな。しかも、その男は殺人犯だった。
やっぱり邪悪な考えを強くもつ者には、同じく邪悪さがある人間が、近付くのかもしれない」
続く
類は、友を呼ぶ。こうしてジュウビョサイは、悪の知識を蓄えていった。




