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第999話 『ロウ』



 ルシエルは、私達が冒険者である事を族長達に話した。


 ザカに話した時の反応。冒険者は、魔物の天敵だとは思うし、それは当然な反応かもしれない。だけどこの村で私達は、自分達を偽らずに正直に話した方がいいと思った。誠意は、通じるものだから。


 族長達は、私達が冒険者であると解ると怪訝な顔をした。でもザカがフォローしてくれたお陰もあり、先に私達の仲間にカルビのような魔物もいて、私達が魔物全てと敵対関係にない事を伝えていたので、続けて話を聞いてくれた。


 それから、パスキア王都にいるラトスさんという人の息子、カトル君がこのフィッシュフォレストで行方不明になっている事。その子を心配し、探し続けている事。ザカから、カトル君がこの村にいるらしいという事を聞いたので、探しにやってきたと話した。


 ルシエルは、族長の目をじっと見つめた後、カトル君の事を聞いた。



「族長。カトルを父親のもとへ返してやりたい。カトルに合わせてくれ」


「ワカッタ、イイダロウ。アワセテヤル」


「え? いいの!? おいおいおい、こんなに話が上手くいくなんて思ってもみなかったよ。話の解る族長でよかったぜ」


「はい、良かったです」



 族長は、合わせてやると私達に言った。っという事は、カトル君は無事だという事だし、これから会う事ができる。



「デハ、ツイテコイ」



 族長は、そう言って外へ出た。後ろからは、他にはザカしかついてこない。



「アノムコウダ。ツイテコイ」


「おう!」


「はい、ありがとうございます!」



 村の中を歩く。足もとは、相変わらずぬかるんでいて、靴はビショビショに濡れていて泥で汚れていた。だけど、この森にいる間は何処にいてもこうなるから、綺麗にするのは王都に戻ってからでいいと思った。



「ニンゲン……」


「ニンゲンガ、イルゾ」



 目立つのは、しょうがなかった。村の中には沢山のフィッシュメンやフィッシュガールがいて、私達を物珍しそうに見つめている。だけど族長とザカが一緒にいてくれているので、危険な者達ではないと判断してくれたのか、その表情からは好奇心だけが覗いていて、恐怖は特に感じられない。



「ツイタ、コノサキニ、イル」



 村の隅の方に、この村に入ってきた時に通ったような洞窟のような場所があった。草木や、その蔓が固まってできたトンネル。奥にカトル君が、いるという。


 私は少し不安になって、族長に尋ねた。



「こ、ここはなんなんですか?」


「ロウダ」


「ろ、ろう?」


「ダレカヲ、トジコメテオク、ロウゴクダ」



 牢獄!! それを聞いたノエルは、背負っている戦斧に手を伸ばす。それをルシエルが止める。ノエルの腕に手を素早く添えて、顔を左右へ振った。


 ザカが何かを察して、前に出て私達の先を歩く。



「オデガ、サキニイコウ。ダイジョウブ、ツイテコイ」



 何かあった……でも、この先にカトル君はいるのだとすれば、まずは彼に会ってからその場で、族長に詳しい話を聞けばいいと思った。ルシエルやノエルも、同じ風に思っているみたい。


 牢獄――洞窟の中を歩くと、いくつもの牢が目に入った。使われているものもあって、その中にはフィッシュメンが入れられている牢もある。きっとこの村で、何か悪い事をしたのかもしれない。


 ザカの足が、ある牢の前で止まる。



「ツイタ、ココダ。カトル、コッチヲムケ。オマエヲ、サガシニキタモノダ」



 ザカは、壁にかけていた松明を手に持つと、それを牢の方へ向けて中を照らした。するとそこには、人間の男の子がいた。



「え? 誰?」



 ルシエルは、少年の顔を確かめると名前を聞いた。



「ラトスの息子、カトルだな」


「うん、そうだよ。え? でもなぜ父さんの名前を知っているの?」


「オレは、冒険者ルシエルだ。そんでもって、こっちがルキアでそっちがノエル。王都でお前の父親に、この森で行方不明になったお前を探し出して欲しいって言われてその依頼を受けたんだ」


「そうなんだ。父さんが僕の事を……」


「ああ、そうだ。そういう訳で、これからお前を王都へ連れ帰る、いいな。族長、こいつがいったい何をしたのか解らねーけど、今話した通りだからここから出してくれ」


「お願います」



 ルシエルと共に、頭を下げた。すると、族長は溜息を吐いた。カトルも壁の方を向いた。え? これってどういう事? ルシエルが続けた。



「駄目なのか? こいつがなんかしたって言うなら、どうすれば許してくれる?」



 ノエルが口を挟む。



「その前に、カトル。こいつが何をして、ここに入れられているかだ」



 確かにノエルのいう通りだと思った。


 ザカもそうだし、族長もそうだけど……フィッシュメンという魔物……種族は、冒険者は嫌っているみたいだし、人間を警戒はしている。だけど、温厚な感じがした。


 そこから考えても、カトル君が牢屋に入れられているという事は、何かそれなりの理由があって入れられていると思う。


 カトル君を見ても、痛めつけられているようにも見えないし、食べ物や飲み物を与えられていないようには見えない。顔色もいいように見える。


 だから、何か理由があると思った。


 ノエルの質問に、カトルは口を閉じた。ノエルは、族長に聞いた。



「おい、教えてくれよ。カトルは、いったい何をしたんだ? どうしてこんなところに入れられている? ちゃんと説明してくれ」



 俯く族長。するとここに、別のフィッシュメンがやってきた。その目は、カトル君を睨んでいる。もしかして、このフィッシュメンとカトル君の間に、何かあったという事なのだろうか。


 族長は、頷いているように小さく何度か頭を下げると顔をあげて私達の顔を見た。



「コノワカモノノナハ、ウオッシュ。チカヂカ、フーナト、メオトニナルヨテイダッタ」


「え? フーナ? そりゃめでたい。でもそれが、カトルに何か関係があるのか?」


「アル」



 族長はそう言って、ウオッシュに目を向けた。ウオッシュはカトルを睨んで言った。



「コイツハ、オレノフーナヲ、ウバオウトシタ!!」


「え?」


「コイツハ、フーナヲツレテ、オウトヘツレテイコウトシタ!! ダカラ、オイカケテイッテ、フーナトコイツヲツカマエテ、ココヘイレタ」


「え? どゆこと?」



 理解が追い付かず目をパチパチとさせる、ルシエルとノエル。私は、もう少し解りやすい説明をカトル君に求めた。



「カ、カトル君……それって、どういう事ですか?」


「言った通りさ。僕はフーナに恋をした。でもウオッシュとフーナは、夫婦になるっていうから僕は……決心してフーナを奪って逃げる事にしたんだ。でも失敗した。だけど僕をここから出せば、また同じことをする。諦めるなんてできない。だから僕は、ここへ入れられている」



 ルシエルは、声を震わせて聞く。



「え? え? でも、フーナっていうのはさ?」


「ああ、人間じゃない。フィッシュガールのフーナだよ。とてもチャーミング女の子なんだ」


『ええええええ!?』



 ルシエルはひっくり返り、私とノエルは驚いて口が開いたままになってしまった。


 ま、まさか人間が、お魚の魔物に恋をするなんて……こんな時、アテナならどうするんだろう。必死になって考えてみたけど、何も浮かんでこなかった。

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