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第998話 『フィッシュメン族長』



 私とルシエルとノエル、それにカルビの4人は、ザカの案内のもと、彼が普段住んでいるというフィッシュメンの村にやってきた。


 ザカの話では、この村に私達が探しているカトル君がいるみたいだった。


 とりあえず、村に到着して中へと入る。村のゲートにいた見張りのフィッシュメンとは、ちょっとした問答があったけれど、ザカが上手く説明してくれた。


 村には、沢山のフィッシュメンとフィッシュガールがいた。見た目的には、雌の方がやや大きいみたい。あと、色も違う。フィッシュガールの色はピンクか、それに近い色。


 ルシエルが、ザカに呟くように言った。



「へえー。ここに族長がいるのか」


「ソウダ。オデガ、ウマクハナシヲツケル。ダカラ、オチツイテイロ」


「解った。任せたぜ、ザカ」


「マカセロ」



 ルシエルが、ザカの身体をポンと触った。


 そんな二人の関係を見ていると、この森で出会ったばかりなのに、親友に見える。それが凄く不思議に見えた。それは、なぜか……


 実は以前、アテナからこんな話を聞いた事があったから。


 私は獣人という種族で、アテナはヒューム。ノエルはハーフドワーフ。そしてルシエルは、ハイエルフだと。それでハイエルフっていうのは、エルフの中でも更にエルフらしいエルフみたいだって。


 エルフというのは、森の知恵者とか守護者って言われているらしいんだけど、ハイエルフは、そんなエルフの中でももっとエルフらしいエルフ。だからその森の守護者とかそういう印象は、更に強いらしい。エルフは、冒険者でも見かけるけどハイエルフは、他種族との交わりを好まず、深い森の奥地でひっそりと暮らす。


 皆が皆、絶対そうって訳ではないってアテナは言っていたけど、基本的にハイエルフは自分達が住んでいる森を出たがならないって……


 その話を聞いて思ったのは、好奇心旺盛で自由奔放、更に物凄くアクティブな性格のルシエルには、全く当てはまらないなって。


 マリンも首を傾げていた事があった。ルシエルは、カルビと仲が良すぎるって。エルフ自体、動物を手懐けている者を目にする事はあっても、まず魔物を手懐けたりしている者は稀すぎるって。


 理由は、エルフという種族は生まれながらにして精霊の加護を受けていたり、その力を身体に宿していたりする。


 精霊や聖獣は、魔物とは対極の存在みたいで、エルフはいわば聖なる種族なんだって。だから聖なる種族が、対する魔の力を糧とする魔物と仲良くしている事なんて、普通はないんだって……


 だから不思議に見えた。ルシエルは、ウルフであるカルビとも仲がいいし、今もザカと友達になっているみたい。


 ノクタームエルドでは、アテナはソイルスパイダーっていう荷運び蜘蛛に乗ったり、抱き着いたりしていた。獰猛なリザードマンとも仲良くなって、ギーって友達もできたみたいだし……私だって、ウィニーやテガーとか、世界には優しい魔物は沢山いるし、そういうのと仲良くするのは好き。


 でも魔物と仲良くできるハイエルフは、非常に珍しいっていうのを知った時に、ルシエルは、なぜそんな事ができるのだろうかって最近、特に不思議に思うようになってしまっていた。


 ルシエルは、ひょっとしてエルフの中でもとても特別なエルフなのかもしれない……



「ん? どしたー、ルキア? 悩み事かー?」


「え? いえ、ちょっと……」


「まーたアテナの事を考えてたなー。ほら、しゃんとしろ。族長に会うぞ」


「あ、はい!」



 族長がいるという大きな家。木や枝などを利用して、作られている家。でも族長の家というだけあって、とても大きい。中へ通されると、何匹かのフィッシュメンが座っていた。私達の姿を見て、慌て始める。



「ニ、ニンゲン!!」


「タイヘンダ!! コノムラニ、ニンゲンガハイリコンダ!!」


「セ、センシ!! ムラノセンシヲ、ヨベ!!」



 ザカは、族長の家の中にいたフィッシュメン達に、私達の事を説明してくれた。



「マッテクレ。コノニンゲンハ、オデノユウジンダ」


「ナ、ナニ? ナニヲイッテイル?」


「ユウジン。トモダチダトイッタ」


「ナンダ、ソレハ? ワレラハ、フィッシュメン。コイツラハ、ニンゲンダ。サッサト、オイダセ」


「ソレハ、デキナイ。モシ、オイダスナラ、オデモデテイク」


「ナッ……クルッタカ……」


「クルッテナイ。ルシエル」


「ん?」


「ゾクチョウタチニ、マズハ、ジコショウカイシテクレ。ソレ、レイギ」


「お? お、おう! 解った。えっと、あんたが偉大なるフィッシュメンの族長さんね。オレは、ハイエルフのルシエル・アルディノア。こっちがハーフドワーフのノエル・ジュエルズで……」


「私は猫の獣人の、ルキア・オールヴィー。そしてこの子が」



 私は背負っていたザックを目の前に置くと、中に両手を突っ込んでカルビを抱き上げた。



「カルビです」


 ワウ。


『オオオオオオーーー!!』



 カルビを目にしたフィッシュメン達は、皆声を高らかにあげた。



「コ、コノマモノハ!!」


「ウルフダ! シカモ、ウルフノ、アシュ」


「マダ、コドモ。トテモ、ウマソウダ」



 え? 美味そう?


 ワウ?


 じりじりとこちらに詰めてくるフィッシュメン。先ほどまで私達の事を、恐ろしいものでも見るかのような目で見ていたけど、今はその視線はカルビに集中している。更に目は爛々と輝いている。



 ワ、ワウ?


「ちょ、ちょっともう一度、ここに入ってようか? おいで、カルビ」


 ワウ!



 私は、カルビをまたザックの中へ入れた。族長らしきフィッシュメンが前に出た。



「ソレハ、ワシラヘノ、オクリモノデハ?」


「違います! この子は私達の仲間です!」


「ナカマ? タベモノデハ、ナイ?」


「はい、違います。名前はカルビ。私達の仲間で、大切な家族です


「カ、カゾク……オマエハ、ニンゲンデハナイノカ?」


「人間で、種族は獣人です。ルシエルは、ハイエルフですしノエルは、ハーフドワーフです。でも皆、仲間ですし家族のようなものです。もしも仲間に何かあれば、全力で助ける関係なんです」


「シンジラレン。ナラ、コノオイシソウナ、タベ……ジャナイ、コノウルフノタメニ、シネルト? ソレハ、ナイダロ?」



 私は族長に頷いて見せた。



「はい。でもここにいない私のパーティーの仲間なんですが、その人ならきっと――いくら仲間の為でも死にたくはないから、命は投げ出さない。でも命を賭ける事はできる。っていうと思います。私も同じ気持ちです」


「オレもだぜ」


「あたしも右に同じだ」



 族長達は、暫く口をあんぐりと開けて驚いていた。駄目押しでザカが続ける。



「コノモノタチ、オデノ、ダイジナトモダチ。オデモ、コノモノタチノタメナラ、イノチ、カケテモイイ」


「……ザカ。コレハ、オドロイタ」



 族長達は、そう言うと今度は大笑いをし始めた。そして言った。



「ワカッタ。チカラニナロウ、ニンゲン……イヤ、ルシエル・アルディノア。ノエル・ジュエルズ。ルキア・オールヴィー。ソシテ、オイシソウナ、カルビ。ワガドウホウノ、ユウジントシテ、ウケイレヨウ。ソレデ、オマエタチハ、ワシラノムラニ、ナニヲシニキタ?」



 ルシエルは、私とノエルの顔を見たので、私達は頷いた。するとルシエルが族長にカトル君の事を聞いた。

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