第997話 『いざ、フィッシュメンの村へ その2』
歪にくねった無数の木と、いくつもの草や蔓が重なってできた村への入口。
その前までやってくると、村への入口を守っていた2匹のフィッシュメンが、私達に銛を向けてきた。
「ギョ!! オイ、ソコデトマレ!!」
「ギョギョ!! アヤシイヤツラ! ナ、ナニモノダ!!」
ザカは前に進み出ると、2匹のフィッシュメンに言った。
「イマ、カエッタ」
「ギョギョ! ヨクミレバ、ザカジャナイカ!!」
「ナンダ、ザカカ! ドコノ、サカナノマモノカトオモッタ!!」
「ソレハ、コッチノセリフ!」
ザカ達の会話を聞いていたルシエルが、吹きだしそうになった。ノエルは直ぐに、ルシエルのお尻をつねる。
ギュッ!!
「ぎゃん! っいったい!! オレの可愛らしい尻をつねるな!! 痛いだろーが!!」
「自分で可愛らしいっていうな!!」
あはは……でもルシエルは、なんとか笑いを堪えられたみたい。
『ギョッギョッギョッギョッギョ!!』
ザカとフィッシュメンの2匹は、誤解が解けたみたいで互いに笑っている。
でも次の瞬間、2匹のうちの1匹がルシエルに銛を向けた。
「トコロデ、ザカ!! コイツラハ、ナンダ!?」
銛をルシエルの胸に突き付けた。先が少し刺さったのか、ルシエルは痛いという顔をして銛を手で払いのける。
「痛いし、危ないわー! こんなので、人を指すな!」
「ギョヌヌヌ! アヤシイヤツ!」
プスリッ!
「いてっ! だから、やめろって!!」
「ギョギョーー!! マスマス、アヤシイヤツダ!!」
銛を持った見張りは、またルシエルに銛を突き付けた。
プスッ!
「いって! だから、やめーっちゅーーに!!」
再び、銛を手で払う。
「ギョギョーー!! アヤシイ!! スゴイ、アヤシイ!!」
プススッ!
「だから、すな!! 痛いわ、こんな尖ったので胸を刺されりゃ痛いわ!!」
「ウゴクナ、オマエ!!」
プスッ!
「すなっちゅーーに!」
「ギョギョ―!」
プスッ
「すなっ!」
「ギョギョ―!」
プスッ
「すなっ!」
「ギョギョー!」
ルシエルが銛を何度も手で払うと、フィッシュメンの見張りも、また銛を突き付ける。それの繰り返し。いったい何をやっているんだろうって眺めていると、ザカがフィッシュメンの見張りと、ルシエルの間に割り込んで言った。
「ヤメロ! コノモノラハ、オデノユウジンダ!」
「ウソツケ」
「ナゼ、ウソダトワカル?」
「コイツラハ、ニンゲンダロガ!」
「オデニ、ニンゲンノユウジンイタラ、ヘンカ?」
「ヘンダ」
「ナゼ?」
「オレタチニ、ニンゲンノナカマイナイ。ニンゲンハ、ドチラカトイエバ、テキ!!」
「ソレ、オマエダケ」
「ナンカ、キズツイタ」
「ギョギョ、ゴメン。デモオデニハ、ニンゲンノユウジンイル!」
ザカは、物凄い頑張ってくれている。だから私達は、ザカのやり取りを後ろで見守っていた。
「ソシテオマエ、ニンゲンノナカマ、イナイトイッタガ、ムラニハ、カトルガイル」
「アイツハ、カワリモノ」
「オマエモ、カワリモノ」
「ナンカ、キズツイタ」
「ギョギョ、ゴメン。デモ、カトルハニンゲン。ココニイル、オデガツレテキタコノニンゲンハ、トテモシンライデキル」
「ソウカ。デモ、コイツラ、ムラニイレテ、ナニカアッタラドウスル?」
「ソノトキハ、オデガ、ゼンブセキニンヲトル。ヤイテモ、ニテモ、モンクハイワナイ」
「ギョ…………」
2匹のフィッシュメンの見張りは、お互いに顔を見合わせた。動揺。対してザカは、毅然としている。すると2匹は、私達の警戒を解いて道をあけてくれた。ザカは、こちらを振り向くと言った。
「ソレジャ、ナカヘハイロウ」
「お、おう!」
「はい! 行きましょう!」
私達はザカに続く。フィッシュメンの村、その入口に足を踏み入れると…そこは洞窟のようになっていた。
草木が寄り固まってできた天然のトンネル。足下は凄くぬかるんでいて、靴は泥で汚れてビシャビシャに濡れていた。でももうここまでくれば、今更って感じもする。このフィッシュフォレストは、全体的にジメっとして沼地が多いし、気にしていてもキリがない。
トンネルを抜けると、拓けた場所へ出た。
そこは沢山の木々や、大きな苔むした岩に囲まれている場所だった。地面は相変わらず、ぬかるんでいる。そして沢山のフィッシュメンがいたる所にいて、それぞれ生活の為の作業をしている。
銛を磨いていたり作っているもの、この森で獲れた魚を干したり、それを使って何か調理をしているものなどもいた。
同じ種族なので当たり前だけど、全部ザカに見える。
「うわああーーー、す、凄いですね!! こんな所にこんな場所があったなんて」
「ああ、確かに村だな」
「うっひょーー!! すげえな!! 全部、ザカみたいな魚人がいるぜ! おい、ルキア。あっちにいるの、子供じゃないか?」
「え?」
見ると小さい子供のフィッシュメンがいた。あれ、ピンク色をしているフィッシュメンもいる。でもあれは……女の子……っていう事は、フィッシュメンではなくてフィッシュガール。ザカの種族は、男女で呼び名が違うらしい。でも、なんていうのか……
私達、人間がかなり珍しいのか、じっとこちらを見ている。でもこちらも見返すと、怯えて木の陰に隠れてしまった。その様子に、なんて可愛いんだろうって思ってしまった。
「カトルニ、アウマエニ、マズハ、ゾクチョウニ、ハナシヲツケル」
族長? ノエルが言った。
「かなりあたし達、よそ者的な目で見られているし、警戒されているみたいだからな。その方が、手っ取り早いかもしれないな。だが、あたしら人間がいきなりそこへ行って大丈夫なのか? 族長の怒りをかわないか?」
「シンパイスルナ、ノエル。オデガ、ホショウスル」
「そうか。それなら、任せる」
ザカの自信があるという顔を見たノエルは、納得した。ノエルの心配をよそに、まったく他人の視線とかも気にもしないで、辺りをキョロキョロと見て回るルシエル。
ふう。まったくもー、ルシエルは。緊張感というか、もうちょっと落ち着いて欲しいな。




