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第995話 『アサハ、コレダ』



 耳に違和感を感じて目が覚めた。



 ハムハムハムハムハム……


「うう……ん? え?」



 目を開けて見ると、ルシエルに抱きしめられていた。しかも私の耳を齧っている。



 ハムハムハムハム……


「ちょ、ちょっと!!」



 突き放そうとしたけど、ルシエルは私にしっかりと抱き着いていて、手を離さない。しかもこの状況でぐっすりと眠っている。



「ちょっと、ルシエル!! 耳を噛まないでください!! ちょっと、やめて……」


「ムニャムニャ……アルデンテ、アルデンテ……ムニャ……」


「ア、アルデンテ? ちょっと、離れてくださーーい!!」



 ルシエルから抜け出そうともがく。だけど、離れない。それどころか、私の耳を噛むだけでなく頬ずりまでしてきた。に、逃げなきゃ!!



「ムホホホーー、ルシエルお姉ちゃんでちゅよーー」


「やめてえええ!! 離れてください、ルシエル!!」


「ムチュチュチュチューーー!!」


「きゃああああ!! ちょ、ちょっとおおおお!!」


 バササササッ!!



 ルシエルと格闘していると、テントの出入口が開いた。ノエルが覗いている。



「おはよう……朝から元気だな」


「お、おはようございます!! ち、違いますよ。ルシエルが……なんか寝ぼけているみたいで、私の耳を齧るんです!!」


「フェッフェッフェ、これはいいものだ。ハムハムハム……」


「きゃああああ!! やめてーー!! 耳がベトベトになっちゃううう!! 助けて、ノエル!!」


「はあ、ったく……面倒くさいが、しょうがないな。おい、起きろルシエル!! いい加減に目を覚ませ!!」



 ノエルは溜息を吐くと、テントに入ってきて私とルシエルの間に入った。そして私からルシエルを引き離す。


 私は、慌ててルシエルから抜け出すとテントから表に出た。やった、脱出できた。そう思った刹那、今度はノエルの悲鳴。見ると、今度はルシエルは、ノエルに抱き着いていた。



「ムチュチュチュチューー!!」


「ひいいいい、やめろおおお!! どけ、離れろ!! このバカエルフーー!!」


「フェッフェッフェ、恥ずかしがっちゃって。可愛い子だねーー。ムニャムニャ……」


「ギャアアア!! やめろ、あたしの腹に顔面を埋めるなああああ!!」



 私はテントから脱出すると、そっと出入口を閉じて、目を閉じて手を合わせた。



「やめろおお、バカエルフ!! こら、バカ!! なんてとこ、触るんだ!! やめろって、こら!!」



 ノエルの悲鳴に背を向けて辺りを見回すと、一面真っ白だった。これは、霧。焚火はメラメラと燃えがっていて、その前にはカルビとザカが既に起きて待っていた。



「ギョ! オハヨウ、ルキア」


「おはようございます。ザカ、カルビ」


 ワウ!



 ザカとカルビの間に座る。すると、ザカが私の方を見て言った。



「ウワサ」


「はい?」


「ウワサニキイタ」


「なにがですか?」


「ウワサデ、ニンゲンハ、アサ、コーヒーヲノムトキイタ。チガウカ」


「ああ、そうですね。特に冒険者は、旅したり冒険したりするので、気付け薬に珈琲とかお茶を持ち歩いている人が多いです」


「ソウカ。コーヒー、ウマイモンナ」


「はい。私大好きです」


「オデハ、キノウハジメテノンダ。ウマカッタ」



 そう言えば、ここでキャンプして気が付いたらザカは、私達と一緒にいた。入り込んでいたという方が正しいかもしれないけど、ルシエルに至っては直ぐに気づいていたくせに、あまりにも面白い状況だったからかそのまま様子を見ていた。


 カルビはザカに特別脅威を感じていなかったし、ノエルはあまりの事にとりあえず様子を見ていたのかもしれない。


 私は……正直、アテナの事や、行方不明のカトル君の事とかラトスさんとか、いろんな事が頭の中を巡っていたのと、ザカがあまりにも自然に私達の中へ入り込んでいたから気が付かなかった。


 そんなバカな事って思うし、思い出すと笑ってしまう。


 この面白い話を早く、アテナ達にも話したいと思った。アテナならきっと、へえーって言って驚くだろうし、ザカに会いたいって言いだすだろう。


 気が付けばまた、アテナの事で頭がいっぱいになっていた。王都に戻れば、そこにアテナはいるし、今は一時的に別行動をしているだけに過ぎないのに。


 そんな私を見ていたザカが言った。



「コーヒーノ、ハナシヲツヅケタイ」


「え? はい、いいですよ。でもザカは昨日、初めて珈琲を飲んだんですよね。そんなに気にいったんですか?」


「キニイッタ。メッサ、キニイッタ! ソシテ、ホッシテイル。スデニ、ホッシテイル。マタ、ノミタイナッテ、ジツハ、オモッテイル」


「あっ!」



 ザカは、じっと私を見つめていた。座っている前には、何も入っていない空になったマグカップ。


 やっと解った。ザカは、私に珈琲を飲みたいのだと言っていた。



「アサハ、コーヒーヲノムンダロ、ニンゲンハ。ソシテイマハ、アサ」


「あはは、いいですよ」


「ナニガ、イインダ?」



 ザックの中から、コーヒーサーバーやドリッパーなど珈琲をおとす為の道具を取り出す。そして大量の水を含んでいるドリンクヴァインの蔓を切断すると、そこからポットに水を貯めて焚火にかけた。


 水が沸騰すると、それで珈琲を淹れる。まだテントから出てこないけど、ルシエルとノエルの分も。



「はい、どうぞ」


「ギョギョ、コーヒー! イタダキマス」



 ザカの目の前に置かれていたマグカップを一度洗って、そこに淹れたての珈琲を注いだ。ザカは、それを手に取るとゴクリと呑んだ。



「オオ! ウマイ、ヤハリ、コーヒー、ウマイナ!」


「上手に淹れられていたなら、良かった」


「ジョウズダ。ルキアハ、コーヒーヲイレル、テンサイ。トテモ、オイシイ」


「本当に?」


「ホントウダ。ジシン、モッテイイゾ」

 


 キャンプをすると、朝はモーニング珈琲で始まる。その時、だいたいはアテナが珈琲を淹れてくれるんだけど、そうでない時は私がクロエと一緒に淹れる。


 だいぶ上手に落とせるようになったかもとは思っていたけど、こうして褒められるとちょっとくすぐったい感じと、嬉しい気持ちになる。



「だあああああ!! いい加減に起きろおおお!!」


「はあーーー。なんだ、このミルクの甘い香り……癒されるーーん」



 抱き着くルシエルを引きずって、ノエルがテントから這い出してきた。私は自分自身と二人の分の珈琲をマグカップに注いだ。

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