第989話 『ルキアの頑張り料理 その4』
フライパンに大量のオリーブオイルを注ぐ。
そして醤油、ニンニク、ショウガ、葡萄酒などで作った特製のタレに深翆魚の切り身を浸す。その間にも、お味噌のスープがどんどん出来上がっていく。
辺りには、特にスープの美味しい匂いが漂い始める。ルシエルやノエルだけでなく、カルビも私の方にやってきて、鼻をピクピクと動かしている。晩御飯ができるのを、今か今かと待ち続けていた。
「それじゃ、皆さん、私からちょっと離れていてくださいね」
「ほえ?」
「はあ?」
ワウ?
お腹が空きすぎているからなのか、ルシエルもノエルもカルビも、私の言葉に気の抜けた返事をした。だけど私は、気にせずお料理を続けた。
キャンパーとしても、冒険者としてもアテナと同じようになりたいだけでなく、お料理の腕も同じように上手くなりたい。だから真剣だった。
オリーブオイルがたっぷり入ったフライパンを焚火にかけた。フライパンは片手で持ったまま。そしてその辺に落ちている木を使って、ノエルに長めの箸を作ってもらうと、それで特性のタレに付け込んだ深翆魚の切り身を掴んだ。
さあ、いよいよこの切り身を、片栗粉を入れたもう一つの器に入れる。臭みを完全に抜いて、たっぷりと特製タレを染み込ませた深翆魚の切り身を片栗粉につけて纏わせる。そしてそれを、フライパンの中でグラグラと煮えるオリーブオイルの中へ放り込んだ。
ジュワアアアアアアアーーー!!
「ひ、ひいいいいい!!」
「う、うわああああ!!」
ワウ?
油の弾ける音に、情けない悲鳴をあげるルシエルと驚くノエル。カルビ。3人供、私の注意を聞かずに、フライパンの近くまで寄っていた。油が跳ねて、3人に襲い掛かる。悲鳴。
「熱い熱い熱い!! 油だ!! 油がとんだぞおおお!!」
「いたたた!! 油が!! な、なんて危険な料理なんだ!!」
キャンキャンッ!!
ひっくり返って慌てて距離を取る3人。その様子を見て、私は爆笑した。でも目は真剣。油が飛んできても、このフライのパンを握る手は離せない。最後まで、全部切り身を揚げきる。
少し離れた距離から、心配そうに私を見守る3人。そうこうしている間に、全部の切り身を油で揚げ終えた。しかも上手くできた。切り身は全て、カラっといい感じの色になって仕上がっている。
「できました。それじゃ、食べましょうか」
「うおおおーー!! 待ってましたーー!! やっと食べられる!!」
ワウワウーー!!
「す、凄いな、大したもんだ。正直、驚いたよ。あたしには、とてもこんな感じに作る事はできないからな」
「えへへ。深翆魚と野草の味噌スープ、それと深翆魚の唐揚げです。以前、アテナが言っていたのを思い出して作ってみました。鶏とかのお肉で唐揚げも美味しいけど、お魚の唐揚げも美味しいって。あとその……臭みのあるお魚であれば、唐揚げにする事でそういうものも消し去って、美味しく食べられるって言っていたから」
「なるほど、やるなールキアは。これだけ作れれば大したものだ」
「うっひょーー、たまんね! もういいか、食べても?」
「待ってくださいルシエル。それじゃ、皆の器とコップ、それとお箸も準備してください。それで頂きますしてからですよ」
「はーーい。だってよ、ノエル、カルビ」
「聞こえてるよ!」
ガルウ!
やっと晩御飯が出来上がった。一時は水の確保ができないんじゃって思って困ったけど、まさかこんな植物があるなんて驚いてしまった。ノエルが作ってくれたまな板は、凄く使い勝手が良かった。
皆がいれば、何処でだってキャンプができるんだって思った。
「それじゃ、頂きまーーーす」
早速唐揚げに箸を伸ばす、ルシエル。
ノエルとカルビは、先にスープに口をつけた。スープは具沢山で、それだけでもかなりの満足感と栄養補給ができる。
「シャク……モッッグモッグモッグ……うんめえーーーー!! こりゃうまいぞルキア!!」
深翆魚の唐揚げを大絶賛してくれたルシエル。よっぽど美味しかったのか、箸が止まらない。
「美味しくて良かったです。本当なら、レモンとかカボスとか、何か柑橘系のものがあれば、それを唐揚げに絞ればもっと美味しくなるんですけど」
「モッシャモッシャモッシャ……ほう、そうか!! それじゃ、もっぐもっぐもっぐ……ごくん! またあれだな。リベンジしないといけないな!!」
「はい、そうですね」
ルシエルは、本当に夢中になって食べてくれている。ノエルとカルビも。
「本当に美味いな。スープも唐揚げも最高だ。だけどこれだけ美味いと、量があってもあっという間に食っちまうな。ルキアも早く食べろ。でないと、全部食べられてしまうぞ」
「そうですね」
私もルシエルと一緒。まず先に唐揚げに箸を伸ばしてみた。なぜなら唐揚げは、揚げたてが一番美味しいから。
むぐっ……もっむもっむもっむ……ごくんっ!
ルシエルが顔を近づけてきた。
「どうだ? 美味いだろ?」
「はい、美味しいです!」
「わははは、そうかそうか美味いか! ルキアは育ちざかりなんだから、もっと食えー。はははは」
前のめりになっている行儀の悪いルシエルを、後ろから引っ張ってちゃんと座らせるノエル。
「こら! 飯を作ったのは、ルキアだろーが! さも自分が作ったかのよーに言いやがって!」
「いいんだよ、ルキアのものはオレのもの! オレのもんは、オレのもんだからな!」
「訳解らねーぞ! なんだよ、そりゃ?」
「わははは、要はオレはルキアの姉ちゃんみてーなもんだから、ルキアの手柄を横取りしてもいいの! でもオレが手柄をあげたらルキアに気前よくやるからな! なーー、ルキア」
「はい!」
「おいおいおい、いいのかよ、そんなんでー」
ちょっと遅くなった晩御飯。でも美味しく作る事ができたし、とても食事を楽しめた。
気が付くと、もうこのキャンプの周りは真っ暗。何も見えない位の闇に包まれていた。




