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第988話 『ルキアの頑張り料理 その3』



 ルシエルが愛用している太刀、『土風(つちかぜ)』を振った。


 密林のようなこの森の中、いたる場所に生えている木。その一本の木から、プランと垂れさがっていた何かしらの植物の蔓を切断した。するとまるでホースのように、その切断面からジョボジョボと大量の水が溢れ出した。


 私とノエルは、驚いた。ルシエルは私達の驚く表情を見て、ケラケラと笑う。



「わっはっはっは! 驚いている、驚いてる。そうか、なるほどなー。この植物の事を知らなかったんだなー。これはドリンクヴァインっていう植物なんだぞ」


「し、知らんぞ、こんな植物」


「ドリンクヴァイン……こんな不思議な植物、見た事ないです。流れ出ている水は、もしかして飲めるんですか?」



 ルシエルは、自慢げに大きく頷く。



「おう、飲めるぞー。てっきり二人供知っているもんだとばかり思ってたぜー。そういや、ノクタームエルドやクラインベルトでは、こいつを見なかったなー。まあいいや、ちょっと飲んでみろよ」


「え? どうやって?」


「コップをとってきてもいいけどよ。この水は凄く綺麗だからな。そのまま両手で受けて飲めばいいさ」



 ルシエルに言われた通り、蔓から流れ出る水を両手で受けた。見るとルシエルが言ったように、蔓から溢れ出る水はとても澄んでいて綺麗だった。粘り気とかそういうものもない、綺麗な川に流れる水に触れているのと同じような感触。もう一度、ルシエルの顔を見る。



「大丈夫だ、オレを信じろって。美味い水だから」


「はい……ゴクゴクゴク……」


「どうだ? 美味いだろ?」


「美味しい!! 美味しいです!! これなら、お料理にも使えますよ!」


「そうだろそうだろー。よし、鍋持ってこーい! どんどん、持ってこーーい! この辺の木に巻き付いて垂れ下がっている太い蔓は、みんなドリンクヴァインだ。これなら大量に飲み水が手に入るだろ?」



 ノエルも持っていたナイフでドリンクヴァインの蔓を切断すると、そこからジョボジョボと流れ出る水を直接飲んだ。何度か頷いて感心している様子。


 私は鍋や水筒などを取りに戻ると、それに水を入れた。



「ルシエルは、ちゃんと水の確保の事を考えてキャンプを設営してくれていたんですね」


「ふふん、あったぼーーよ! どうだ、ちょっとはオレの事を見直したかね?」


「あはは、ルシエルはやる時はやる人だって解ってますから」


「なんだよ、やる時じゃなくても、オレはやれる人なんだよ」



 ノエルが素早く突っ込む。



「なんだそりゃ? 意味解んねー」


「なんだとー! こんにゃろーー!!」



 ルシエルは、近くにあったドリンクヴァインの蔓を太刀でスパっと切ると、その切断面をつまんでノエルの方へと向けた。蔓から水が勢いよく放たれてノエルの顔にかかった。



「ぶあああっ!! このバカエルフ!! なにしやがる!!」


「はっはっはっは、天罰じゃ。こんな賢くて、可愛いエルフちゃんを馬鹿にしたからだよ」


「なにが可愛いエルフちゃんだ!! てめー、覚えてろよー!! ビショビショにしやがって!!」


「いちいち覚えてませーん。ヒャッヒャッヒャ」


「この野郎!!」


「二人供やめてくださーーい!! お料理!! お料理をしなきゃだから、そんな時にやめてください!! それでも喧嘩を続けるなら、もう私……晩御飯作りませんよ!!」


「うぐっ!」


「まて、それは困る!!」


「なら、二人供、もっと仲良くしてください」



 大人しくなる2人。私はにっこりと笑うと、再びお料理を再開した。


 鍋と水筒に入れた大量の水。それを使って深翆魚を綺麗に洗う。



「ルキア、とりあえずこんなもんがあったぞー」


「え?」



 ルシエルが差し出してきたもの。それは、その辺に生えている食用の野草とキノコだった。



「あっ、いいですね。それじゃ早速それ頂きます」



 お料理の香りつけになる香草も入っていた。ルシエルはそこまで考えて取ってきてくれた訳じゃないとは思うけど、これはありがたい。これも臭みを消すのに役立つから。


 水の入った鍋とは、別の鍋。深翆魚を手頃なサイズにカットすると、空の鍋に入れてその上から葡萄酒をかけた。これで暫く漬け置いて、魚と泥の臭みをやっつける。


 ルシエルが、我慢できないと言った感じで聞いてきた。



「ああーー、流石に腹減ってきたな。ルキアはいったいどんなご馳走を作ってくれようとしているんだ? 焼き物か? それともスープ?」


「フフ、ルシエルは、なかなか鋭いですね」



 葡萄酒に漬けて、しっかりと臭みが取れた深翆魚。それを軽く水で洗う。そしたらまた鍋に入れて、ルシエルが取ってきてくれた野草やキノコと共にグツグツと似る。香草も入れ、味付けはお味噌。



「おおーー、なんかいいニオイがしてきたなー。早く食いたいぜ!」


「あたしもペコペコだ」


 ワウーー!


「もうちょっと待ってくださいね」



 ルシエルが、まだ残していた深翆魚の切り身に気づいた。



「あれ? ルキア、こっちのは鍋に投入せんでいいのか? 残ってるぞ」


「はい、これはこれでもう一品作りますので」


「なぬ!! マジでか!! 恐るべしルキア・オールヴィー。本当にアテナに負けない位の料理人になってきやがったなー」


「そんな事ないです。アテナに比べたら、私なんてまだまだ」



 でもルシエルに、アテナに負けない位に……って言われて、内心は嬉しかった。だって、アテナみたいになる事が私の夢だから。


 自分のザックを漁って、次の料理の準備に取り掛かる。


 醤油とニンニク、ショウガの欠片、あとは片栗粉とノエルから借りた葡萄酒。最後にオリーブオイルが入った瓶。それらをざっと目の前に並べた。

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