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第986話 『ルキアの頑張り料理 その1』



 魚をじっと見つめていたノエルが、首を傾げた。



「この緑色の魚は、そもそも魔物なのか?」


「多分違うと思います。ですよね、ルシエル」


「ふーーむ、確かにこの魚から魔力は、感じられないなー」



 この世界には、魔物とそうでない動物がいる。違いを簡単に説明すると、体内に魔力を含んでいるかどうか。魔力を含んでいる、もしくは帯びている動物は魔物。そうでないのは、普通の動物。


 だけどもちろん、精霊や聖獣などという例外もある。魔そのものである、悪魔もいたりするし……はっきりと一言には、説明できないので、明確に違いを問われると難しい。


 アテナからもらった、魔物に関する事が記されている本。それを手に取りページをめくっていくと、横からルシエルが覗き込んできた。



「その本、魔物の本だったよなー。この魚、きっと魔物ではないと思うけどな」


「でもこの本、魔物以外の……例えば動物も、少しは載っているんですよ。渓流魚のイユナとか確か載っていたなーって記憶があったので、もしかしたらって思って」


「ふーーん」


「あっ! ほら、見てください!! これですよ、きっと! この魚!!」



 もしかしたらって思ったけど、ちゃんと載っていた。見つけた。ページを押さえると、二人に見せる。



「本当だな。こいつだ」


「うおーー、すげーー!! この本、なかなか万能なんだな」


「えへへ。凄いですよね」



 アテナが愛読していたけれど、面白いからって私にくれた本。なのに、なぜか自分が褒められている気がしてしまった。



「なになに、深翠魚(しんすいぎょ)っていう魚みたいだな」



 ノエルは自分の顎を触ると、考えている仕草を見せた。



「えっと……こんなでかい魚を、5匹も捕まえてくれてアレなんだがな。はたしてこれ、食えるのか?」


「うーーん、これを読む限りでは、どうやら食べられるみたいですよ。ここ見てください。食用になるって書いています。でも、独特な臭みがあるみたいですね」


「なるほど、独特な臭いか。やっぱりこんな薄気味悪いジメっとした森の泥沼なんかに住んでいる魚だからか」


「でも、深翆魚って名前は、とても綺麗な感じがしますよね。深い緑の魚って意味でしょうか」


「まあ、確かにな。それで、こいつを食うとして……いったい誰が調理するんだ?」



 私とルシエルの視線が、ノエルに向いた。焚火の前で丸くなっているカルビも、彼女を見ている。



「おいおいおい、あたしかよ! まあ別にいいけどさ。でも魚の調理なんて、塩振って焼く位しかできねーぞ。それでいいなら、やってやる」



 ルシエルが、まるで苦しそうに唸り声をあげる。



「うーーん。ノエルのお料理レベルなら、そんなもんかー」


「なんだと、こら! そんな事を言うならお前がやれよ!」


「ふーーむ。アテナがいてくれたらなーー。こんな時に、この謎魚を美味しく調理してくれるんだけどなー」


「謎じゃないですよ。深翆魚って、ここに書いてあるじゃないですか」


「はっ! そうだ! それならルキアが作ってくれ」


「え? 私ですか?」


「そうだとも。ルキア・オールヴィー君。君ならきっとできる。オレには、解っている。君は、やる時はやる子なのさ」



 白い歯を見せてニカリと笑うルシエル。ノエルは、そんなルシエルをジト目で見た。



「うーーん」


「言っておくがな、ルキア君。この魚を食う事を諦めて、これから別に何か食えそうなものをとってくる事もできるかもしれんがな。でもこの魚達の命を、無駄にはしたくないだろう。オレはてっきりもう、こいつらを食べると思ってシメちまっているしな。どうにかして、食ってやるってもんが殺生をした者のつとめとも言えるだろう。だろ?」


「殺生したのは、ルキアじゃなくてお前だろ」


「お前ってゆーな! ルシエルちゃんって呼べ!!」


「アホエルフ」


「こらあ!! 今、言葉の暴力でオレのナイーブなハートを叩いたよ! こりゃアレだよ、アレ! めちゃ許せんよなー!!」



 またルシエルとノエルの喧嘩が始まった。うんざりした顔で、間に入る。そうしないともう……カルビはもう呆れた感じで見向きもしないし、止める人が私しかいないから仕方がない。


 まったく、二人供。アテナがいたら、怒られているよ。



「っもう! 二人供、喧嘩をしないでください! それじゃ私、このお魚を使って料理をしてみますから」


「おーおー、そうかそうか。それじゃ、頼みますよルキアさん」



 急に、お婆ちゃんのような声色になるルシエル。まったくもう、なんて調子がいいんだろう。



「それじゃ、オレ達も何か手伝うか? 自慢じゃねーけど、オレ達のお料理レベルは、オレ達が産まれた時からそう変わらんレベルだ。あまりあてにしてはいかんぞ」


「一緒にするな! あたしは、塩を振って焼くぐらいの事はできる!」


「そうですね……それじゃ、ルシエルは食べられる野草とかキノコ、解りますよね。お魚だけじゃ栄養が偏っちゃうので、そういうのを見つけてきてくれますか?」



 明らかに嫌そうな顔をするルシエル。



「え、嘘? 今から?」


「はい。ルシエルなら大丈夫でしょ」


「まあ、大丈夫だけどさー。でもめんどくさ……」


「はい、それじゃお願いしますね。そしてノエルは、お酒持っていますよね」



 ビクッとするノエル。



「え? お酒?」


「はい。ノエルのザックには、沢山お酒が入ってますよね」


「え? お酒の定義ってのは?」


「え? どういう事ですか?」


「いや、だって、お酒って言っても、あたしにとっては水みたいなもので……っという事は、それはお酒ではなくて水って事だから……つまりあたしは、お酒を持ってな……」


「ごちゃごちゃとうるさい!! ルキア様が出せって言ってんだ!! さっさと酒を出しやがれってんだよ!!」


「やめろおおお!! こら、あたしのザックを勝手に漁るなあああ!!」


「ヒャッハーー!! ありやした、ルキア様!! こいつ、ザックにしこたま酒を隠し持っておりやしたぜ!! ヒッヘー!!」


「やめてくれ、それだけは!! あたしは、それがないと力がでないんだよ!!」


「なんだそりゃ、どこぞのヒーローかよ!!」


 …………



 また戯れる、ルシエルとノエル。ノエルは本当にお酒を全部使われると思っているみたいだったので、少しだけ使わせてほしいと説明するとやっと落ち着いて承諾してくれた。


 でもノエルの持っていたお酒は数種類もあって、それに驚いてしまった。


 とりあえず、葡萄酒でいいかな。これを使って、まずはお魚さんの臭みを落とす。

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