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第981話 『フィッシュフォレスト その3』



「ラトスさーーん!!」


 ワウワウッ!!


「あれ? ルキアちゃん?」


「ラトスさん!! はあ、はあ、はあ……」


「あれ、ルキアちゃん? どうしたんですか? 何かあったんですか?」


「いえ……実は……」



 私は、ラトスさんが一人で森の中を歩いて帰る事が心配になって、追ってきたのだと説明をした。



「そうだったんですか。ありがとう、ルキアちゃん。でも私を送って行ってその後、またルシエルさん達のもとへ戻るのでしょ? 1人で大丈夫なんですか?」


「はい、大丈夫……です。それに1人じゃないから……」



 そう言ってカルビに視線を向けると、ラトスさんもカルビを見て「なるほど」と呟いた。


 森の中、カルビが先行してくれる。やっぱりこの森はどことなく不気味で怖い……かも。だから気を紛らわす為に、森の外へ戻るまで会話を続けた。



「ラトスさん、この森は危険だって言っていましたけど、どう危険なんですか? そう言えば、具体的に聞いていなかったです」


「え? あ、ああ。この森は見ての通り、ジメっとしていて泥濘や沼地がある」


「ぬ、沼ですか……」



 そう言えば私の暮らしていたカルミア村の近くには、沼なんてなかった。池……みたいなものはあったけど、沼とは……池と何が違うのだろうと思った。


 ラトスさんは私の顔を見ると、にこりと笑い説明してくれた。



「沼というのは、池みたいなものです」


「何が違うのでしょうか?」


「そうですね……うーーん。池は、水が溜まっている場所でしょうか。もっと大きくなると、湖になる。そして沼というのは、池みたいなものだけど……水というよりは泥が溜まっている……という感じかな」


「泥ですか」


「そう。後、気をつけなくてはいけないのは、このフィッシュフォレストには危険な沼があちこちにあるんです。例えば底なし沼」


「そ、底なし沼って何ですか⁉」


「底のない沼です。川でも泉でも、入れば底はあります。ですが、底がない沼……そういうのがあるんです」



 初めて聞いた。底なし沼なんて……


 私はゴクリと唾を呑みこむと、更にラトスさんに詳しく聞いてみた。



「実際には底はあるのでしょうけどね。でもとても足のつく深さじゃない。そこに落ちれば、泥に足を取られて動けなくなり、次第に埋まっていき……やがては、呑み込まれる。そういう沼です。そして更に怖いのは、魔物の存在です」


「魔物ですか」


「そうです。この森の至る所には危険な魔物が生息していて、沼を住みかにしている魔物もいます。魚などの魔物です」


「さ、魚の魔物……それってどういうものですか?」


「魚の魔物って言っても、この森には何種類もの魔物が生息していますからね。ここがフィッシュフォレストといわれる由縁の一つですよ。でもその中でも一番気を付けなくてはいけない魔物……それはフィッシュメンです」


「フィ……フィッシュメン!?」


「なぜか雄と雌で名前が異なります。因みに雌は、フィッシュガール」


「フィ、フィッシュガール!!!!」



 びっくりしてしまった。そんな名前の魔物は聞いた事がない!!


 フィッシュメンにフィッシュガールって……これ、ルシエルが聞いたら間違いなく笑い転げて、きっと捕まえようとか言い出すに違いない……


 優先順位は、ラトスさんの息子さんであるカトル君を見つけ出す事だから、この事は必要がなければルシエル達には黙ってようと思った。



「フィッシュメン共は、とても恐ろしい魔物ですからねー。くれぐれも気を付けてください」


「ど、どう恐ろしいんですか?」


「そうですね。まず人型の魔物……いや、魚型……いや人?」


「もしかしてそれ、サヒュアッグって魔物じゃないですか?」


「サヒュアッグ?」


「はい。魚人の魔物ですけど、同じ魔物かもしれないと思って」


「サヒュアッグ? ああ、知っていますよ。確かに言われてみれば、フィッシュメンはサヒュアッグに……いや、まてよ。でも……」



 そんな会話を続けているうちに、森の出口へと辿り着いた。


 ラトスさんからもっとこの森の事を聞いてみたかったけれど、それはできなかった。もうじき、陽が落ちる。そうすれば、夜行性の危険な魔物が現れるかもしれない。


 それを考えると、私も早くルシエルやノエルと合流しておいた方がいいし、森の中でなくても王都の周辺には魔物だって出る事もある。だから辺りが暗くなるまでに、ラトスさんにも王都へ引き返して欲しかった。



「それじゃ、ラトスさん。気を付けて王都へ戻ってください。カトル君は、私達が必ず見つけ出しますから」


「お願いします。それとくれぐれも、さっき言ったような魔物には気を付けてください。あっと驚くような危険な魚の魔物はフィッシュメンや、フィッシュガールの他にもいますから」


「はい、ありがとうございます」


「それでは」



 ラトスさんは木に馬を繋いでいる縄をほどくとそれに跨り、王都の方へ駆けていった。ラトスさんが見えなくなると、私は森の中の来た道をまた戻った。


 ラトスさんがいなくなると、急に心細くなる。先を歩いて誘導してくれていたカルビが、私が怖がっている事に気づいたのか、私の隣に移動してきて並んで歩いてくれた。



「ありがとう、カルビ。カルビはいつも私を守ってくれてるね」


 ワウッ!



 今の私は、以前の私じゃない。カルミア村で盗賊に捕まって、奴隷にされかけた時の私とは違う。あの時よりも強くなったと信じている。カルビだってそう。大きくなれるし、物凄く強くなった。


 そう考えると、ちょっと心細くて怖いという気持ちもいくらかマシになった。


 だけど暫く歩き続けていると、密林のように木が密集したこの森は、かなり薄暗くなり更に不気味になってきていた。


 どうしよう、このまま真っ暗になったら何も見えなくなる。早く、ルシエルやノエルに合流しないと――

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