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第980話 『フィッシュフォレスト その2』



 キキキキキ……


 クエックエックエックエ……


 ギョギョギョ……



 密林のような森の中を歩く。ラトスさんの息子、カトル君を探しながらも歩く。


 だけど先程から、獣や鳥かなって思える鳴き声の中に、とても奇妙な声も聞こえてきていた。私はとても不安になって、ノエルの腕をまたもやしっかりと掴んでいた。



「ルキア、歩きにくい」


「ひっ! ごめんなさい。でも、ノエルと一緒だと安心できるから」


「……そうか。なら、掴んでいていい」


 ビチャビチャ……



 いつの間にか、歩いている場所の地面が泥濘になっていた。ルシエルは、がっくりと肩を落とす。



「あーあー、こりゃもう靴がめちゃくちゃ汚れるなー。まいったね、こりゃー」


「どうする? ラトスさんには、王都へ引き返してもらうか?」


「そうだな、その方がいいかもな」



 ノエルとルシエルの言葉に、ラトスさんは慌てて反応する。



「まま、ま、待ってください! 私の大事な息子が行方不明になったんですよ。この森に昨日からいるんです。とても私だけ王都に帰って、じっとなんてしていられない」



 ルシエルが溜息をつく。そしてノエルが言った。



「引き返した方がいい。このまま探し続けても、直にこの辺りは真っ暗になるぞ。いくらあたし達がAランクって言ってもな、こんな来たこともない不気味な森で、あんたの息子を捜索しながら、ついでにあんたの護衛まではやってられないぞ。今からなら、サッと引き返せる」


「でも、心配なんですよ」


「言っちゃ悪いがな。心配っていうが……あんた、昨日息子がこの森でいなくなった時に、王都まで一度引き返しているんだろ? そんなに心配っていうなら、朝までだって探し回っていたんじゃないか?」


「そ、それは……」



 ノエルのきつい言葉。でもこれは、本当にラトスさんの事を心配しているから言っている事なんだと思った。



「すまん、ちょっと言い過ぎた。あんたは、このままこの危険な森で、朝まで一人で息子を探すよりも、冒険者ギルドに助けを依頼した方がいい。そう思ったって訳だな。正解だ、それは。だからこの場でも、最もいい選択をしてくれ。正直、あたし達はあんたがいない方が、カトルの捜索に集中できる」



 ラトスさんは、ノエルにそこまで言われると力なく頷いた。そして「解りました。王都で待っています。どうぞ、よろしくお願いします」と言って、一人引き返した。


 ルシエルが私に耳打ちするように言った。



「見ました、奥さん。ノエルさん、ちょーー怖いんですけどーー」


「うっさい!! ああ言わないと、ずっとついてこられても困るだろ? こんな不気味で深い森、今日だけじゃとても見つからないかもしれないぞ。それに直に日が暮れる。そしたら野宿だ。こんな場所でだぞ」


「そうか、キャンプかーー」



 なぜか嬉しそうな顔をするルシエル。キャンプは私も大好きだけど、こんな不気味な森でなんて……そんな事を思っていると、急にラトスさんの事が心配になってきた。



「あの、ちょっと私、ラトスさんを追いかけてきます」


「はあ、なんでルキアが?」


「一人で行動は危険だ。それならあたしも一緒に行く」


「大丈夫です。森の外まで無事を見届けたら、二人の後を追いますから」



 さっきまで怖がってしまっていただけに、心配する二人。でも私だってもう冒険者だから。依頼者のラトスさんを、このまま放ってはおけない。王都までとは言わなくても、この森の外まではちゃんと見送ってあげないと。


 ノエルがまた私を引き止めようとした。けれど、ルシエルが言葉を被せる。



「あのな、ルキア。もしもお前になにかあったら、あたしはアテナに……」


「わーーったわーーった! ノエル、まあいいじゃんかよ。これも、ルキアの成長の為よ。経験経験」


「直ぐに戻ってきますから、先に行っててください」


「迷わないか?」


「大丈夫です。ここに来るまでの道は、一応覚えているつもりですし……それに、私は一人じゃないから」



 そう言って背負っているザックを見た。するとザックがゴソゴソと動いて、中からカルビが顔を出した。ノエルがポンと手を叩く。



「なるほど。確かにカルビがいれば安心か。もしもの時は、カルビに大きくなってもらって、それに乗ってあたし達の後を追ってくればいい訳だしな」


「そうそう。カルビなら、道を覚えていなくてもオレ達の後を追えるしな。ウルフの嗅覚は、人間の何十倍もあるって訳だ。それなら、大丈夫だな。行ってこい、ルキア。オレ達はその間、ゆっくりと歩きながらカトルを探す」


「ありがとうございます! それじゃ、行ってきます!」



 自分でも不思議だった。


 あんなにこの森が怖くて仕方がなかったのに……


 でも、ラトスさんを一人でこんな不気味な森の中を歩かせてはいけないと思った。その気持ちの方が、強かっただけ。正直言うと、怖い。だけど、カルビがいるからきっと平気。


 私はルシエルとノエル、2人と一時的に別れると、カルビと一緒にラトスさんを追った。不気味で密林のような森の中を走る。ビジャビジャと水が跳ねて、泥で靴が汚れる。


 どうしよう。このまま真っすぐ行けばラトスさんに追いつけると思ったんだけど……ザックからカルビを出してお願いすれば、きっとカルビがあっさりと見つけてくれる。


 だけどそうすると、カルビが泥で汚れると思った。


 ううん、カルビの身体はまた後で洗ってあげればいい。思い切ってザックから、カルビを出す。



 ワウワウッ


「カルビ、お願い。ラトスさんを見つけてくれる?」


 ガルッ



 カルビは、たたっと駆けて行った。私もカルビ程じゃないけど、獣人特有の俊敏な動きはできる。カルビの後を追い、あっという間にラトスさんに追いついた。

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