第979話 『フィッシュフォレスト その1』
キキキキキキキ……
クワックワックワックワ……
ウケケケケケ!
「ひ、ひい!!」
森の中は、凄く不気味だった。まだお昼を少し過ぎた位だというのに、まるで夕方のように薄暗い。
鳥だと思うけれど、聞き慣れないとても不気味な鳴き声。そして森の中は、あちこちと草が生い茂っていて見渡しが悪い。なんとなくジメッとしていて、辺りには湿気が広がっていた。
そう、私が思ったのは、このフィッシュフォレストという森は、中へ中へと歩くほどに森というよりは、密林みたい思えた。辺りの木から垂れさがっている、様々な無数の蔓も目立つ。
クワアアアアッ!!
バサバサバサ!
「ひいっ!!」
私はこの森に入ってから何度も驚いていて、すぐ後ろを歩いていたノエルの腕に抱き着いてしまっていた。
「はわわわ」
「お、おい」
「す、すみません! で、でも怖いので、もう少しこのまま、ノエルの腕を掴んでいてもいいですか?」
ノエルは溜息を吐くと、渋々という感じで頷いた。
「でもあれだ。魔物が現れたら、直ぐ離れてくれよ。ルキアが腕にしがみついていたんじゃ、思うように戦えない」
「は、はい。す、すぐ離れます」
ルシエルは、ノエルの腕に抱き着いている私を見てケラケラと笑った。
「ヒャーーッハッハッハッハ」
「な、ななな、なんなんですか!! っもう、何がそんなにおかしいんですか!!」
「ヒャハハ……いや、なに。やーーっぱ、ルキアちゃんは、まだまだお子ちゃまなんですなーって思って。プシシ」
「そん、そんな事、ないですよ!! ちょっと、アテナがいないから……その分、ちょっとだけ心配なだけですよ」
「えーー、オレとノエルがいんじゃん。あと、カルビもーー」
ルシエルがカルビの名を呼んだので、私が背負っているザックからカルビが顔を出した。
ワウッ
「カルビ。もう少し、ザックの中にいてね。この辺はちょっと歩きにくそうだからその方がいいよ」
ワウッ
カルビは返事をすると、ザックの中に戻った。
先をルシエルが歩いて、その後にラトスさんが続く。更にその後ろに私とノエル。うう……やっぱり、物凄くどんよりしているこの森。
私が怯えているのが面白いのか、ルシエルはずっとカトル君を捜索しながらもニヤついている。私がそれに気づいている事を知ると、こちらをまた振り返った。
「ルキア!」
「なんですか?」
「ルシエルさんのここ、空いてますよ! プフフ……」
「っもう! 怖くないよ!!」
「どーーだか、かなり怖がってんじゃん! お姉さんの所に来たら、お姉さんが優しく包み込んで守ってやんぜー。なあ、だからこっちこいよー、なあー」
「嫌です!!」
私はプイっと横を向く。そしてノエルの腕を更に強く掴んだ。
ノエルは溜息を吐くと、足を止めた。密林のような森の中。先を行く二人に声をかける。
「おおーーい! ちょっと待て二人供!!」
振り向く二人。
「なんだ? どうした、ノエル!!」
「あたしらは、ここに男の子を探しに来ているんだよな」
「あたぼーだろーが。これが苺狩りに来ているようにでも見えるかってんだ」
ルシエルの言葉に、隣にいるラトスさんも頷いている。
「それじゃ、あたしらは、いったいこの森を何処に向かって歩いているんだ? もしかして闇雲か。闇雲に探していたりするのか?」
兎さんのような口をするルシエル。もしかして、本当に闇雲だった? 皆の視線が、ラトスさんに集まった。
「で、でもとりあえず闇雲にでも探さないと……カトルは、見つからないんじゃ……」
「まあ、それもそうだが……あたしらは、パスキア王国に初心者なんでな。当然この森についても知らない訳だが、この森の広さはどの程度なんだ? 外からはかなり広がって見えたが、もしかしてかなり広いんじゃないのか?」
申し訳なさそうに頷くラトスさん。ノエルは、溜息をつく。
「フーー、それじゃ、このまま闇雲に探しても駄目だ。ちゃんと考えて、カトルがいる場所をある程度割り出して探さないと」
ルシエルも唸った。
「うーーん、じゃあこりゃあれだな。今日は、この森の何処かでキャンプだな」
「ええええ!! キャ、キャンプ!?」
思わず声をあげてしまった。
だってキャンプなら、いつもはアテナがいるし……それに、こんな密林みたいな恐ろしい場所でのキャンプじゃないし……
ノエルは、またラトスさんに聞いた。
「それともう一つ。この森には、危険な魔物がいると言っていたが、それはどんな魔物だ? 先に聞いていた方が対策ができる」
「た、確かにそうですね。教えてください、ラトスさん。カトル君を助ける為には、情報が欲しいです」
「ああ、そうですね。先にちゃんと説明しておかないといけないですね。カトルの事が心配で、うっかりしていました。まずこの森ですが、もしも大空から見下ろすことができれば、丁度魚に見えるんです」
「さ、魚!?」
「もしかして、それはこの森の形がお魚さんになっているという事ですか? なるほど、だからフィッシュフォレストという森なんですね、ここは」
あれ? ラトスさんはニコリと笑みを見せたけれど、すぐ目を落とした。正解ではないという事?
「それも理由の一つ。でもそれは、たまたまこの森が魚の形をしている風に見えるというだけ。実はもう一つ、この森がフィッシュフォレストと言われている理由があるんです。実は……この森は、魚に支配されている森なんですよ」
!!!!
これには、流石のルシエルとノエルも驚いている。私も驚いたけれど、魚が支配する森ってなんだろうって思った。
ここが水底とかそういうのだったら解るけど……密林のような森。
そんな場所を支配する魚というのは、いったいどういうものなのだろうか。今、ラトスさんから聞いた話だけじゃ、まったく想像力が追いつかなかった。