第977話 『いざ探しに』
――――依頼内容詳細。
パスキア王都で道具屋を経営するラトス・レヒューという人物からの依頼。その内容は、行方不明になった息子を探して欲しいというものだった。
父親ラトスと、息子のカトル。二人は、王都から少し行った先……フィッシュフォレストという森に昨日出かけて行った時の事、その日の夕暮れ時になって、父親のラトスは息子のカトルが忽然といなくなってしまっている事に気付いた。
父親ラトスは、息子が行方不明になってしまったと慌てて辺りを探し回ったけれど、見つからずに気がつけば夜になってしまった。
薄暗い森の中、危険な魔物の気配も感じたラトスは、息子捜索の継続を思い止まり、助けを呼ぶ事にしたという。そして王都に戻ってきて、冒険者ギルドに捜索依頼を出した。
内容を全て把握したという様子で、ルシエルが唸った。
「ほう、こりゃ大変だ。じゃあ、昨日からずっとその道具屋の息子は、その森にいるのか。すぐ助けに行かなくちゃならないな」
受付嬢のお姉さんも深く頷く。
「私からもお願いします。本当は、こういう一刻を争う依頼って、直ぐ誰かに依頼するものなんですけど……他の依頼書に埋もれていて……お恥ずかしい話、私も今ようやく気が付きました。きっと報酬額があまり良くないのと、このフィッシュフォレストという森なんですが、結構危険な森で……それで誰も受けないので埋もれてしまっていたのだと思います」
ノエルは、私とルシエルに視線を向けた。
「どうする? 人命がかかっているという事なら、あたしは行ってやってもかまわないと思っているが……」
「もちろん、私も行きますよ!! とうぜんですよね、ルシエル、カルビ!」
ワウッ!
「あったぼーよ! このルシエルさんが、まあお金は大好きだけど……お金だけで動くと思うなかれよ!! その行方不明になったボーズを見事見つけて、無事につれ戻してきてやんよ!」
「本当ですか!! ありがとうございます! それじゃ、早速お願いします! ここに、受注したというサインを。それと依頼には、行方不明になっている少年、カトル君の父親ラトスさんが同行します。早速ここへ呼び出しますので、一緒にフィッシュフォレストへ向かって下さい。道案内もラトスさんがしてくれますので」
「それは、助かります」
私達4人は、ここ冒険者ギルドのフロントにあるテーブル席に腰かけて、暫く待っていた。程なくして、一人の男性が目の前に現れた。
「はじめまして、ラトス・レヒューと申します。あなた方が、息子を探しに行ってくれる冒険者さんですか」
ルシエルが頷く。
「ああ、そうよ。オレ達があんたの息子さんを探してやる。でも、その息子さん……」
「カトルです」
「そう、カトルの奴……森で昨日から行方不明になってんだろ? しかもそこ、危険な森だって聞いたし」
「はい。冒険者の方でも、あまり好んで入らない森です。危険な魔物が生息していますし、森の中はかなり足場が悪いんです」
「足場……」
「はい。ですから、本来ならばこうしてる間も、息子を探さないとと思ってはいるのですが、危険な森でむやみやたらに一人で探すよりも、そういう事に関してプロにお願いするべきだと思って、王都に戻って冒険者ギルドに依頼したんです。ですが、私はそれ程裕福な暮らしをしているものではありません。稼ぎも少なくその日暮らしですし……ですから報酬の方もあれで精一杯というか……」
ルシエルは、ラトスさんの肩をポンと叩いて白い歯を見せた。
「大丈夫だ、心配ない。絶対オレ達があんたの息子を探し出してやる。兎に角、そこへ連れていってくれ」
ラトスさんは、頷いて御礼を言ってくれた。そしてラトスさんの息子を探しに行く為、冒険者ギルドを出ようとすると、受付嬢のお姉さんに呼び止められる。
もしかして、依頼受注の為の書類に何か不備があったのかなって思った。けれど、違うみたい。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「はい、どうかしましたか?」
「本来なら、冒険者ギルドの依頼っていうのは、こういう人命に関わるような緊急性のあるものを優先的に、冒険者の方々にお願いしてやってもらわないといけないんです。なのに、この依頼書はその……他の依頼書に埋もれていて……完全にこちらの落ち度というか、不手際というか……」
受付嬢のお姉さんが何を言いたいのか解らない。そんな顔をルシエルとノエルは、していた。それもそのはず。今は一刻も早く、昨日から行方不明になっている男の子を見つけなくてはいけないのに、言い方は悪いかもしれないけれど、冒険者ギルドの言い訳を今は聞いている暇はない。
でも、お姉さんが私達を呼び止めた理由は……
ルシエルが聞いた。
「それで、何が言いたいんだ? 悪いけど、急がなきゃならないんだけど」
「そうです! 急いで欲しいんです! ですので、この冒険者ギルドを出られたらこの建物の裏手に回って頂けますか?」
「はあ? なんで?」
「そこに厩がありますので、そこにいる馬を使ってください」
「マジで? そりゃいい。了解、それじゃ、遠慮なく使わせてもらうよ」
「どうぞ、お気をつけて」
冒険者ギルドを出ると、早速建物の裏手に回った。馬のいななきが聞こえた。厩。
ルシエルは、ラトスさんに言った。
「ところでラトスの旦那は、馬には乗れるのかな?」
「ええ、まあ一応」
「そっか、それじゃ問題ないな。全員、馬に跨ったらラトスの旦那が先頭になって道案内してくれ」
「解りました」
それぞれが馬に騎乗する。私も目のあった馬に跨ろうとしたら、誰かが私の腕を掴んで引いた。見るとルシエル。
「え? え?」
「ルキアは、オレの後ろに乗りなさーーい」
「ええええ!!」
「そんな嫌な顔をしてもダンメ」
「で、でも私も一人で乗ってみたい……」
ちらりとノエルを見ると、ひとりで馬に乗っている。でもルシエルは、かたくなに首を振った。
「ダンメ。乗りたければ、また明日とかでいいだろ? 兎に角、今は急がないといけないんだから」
確かにそうだった。ルシエルの言う通り。私は馬には慣れてないから、その方が早く辿りつける。
「解りました。それじゃ、ルシエル……後ろに乗せてください」
「おう! 任せろ」
私はカルビを抱き抱えると、自分のザックに入れて背負う。そしてルシエルが馬に跨ると、その後ろに続けて乗った。するとルシエルは、少しこちらを向いて言った。
「戻ってきたら、また乗ったらいいじゃん! いっしょに、ちょっと遠乗りしに行こうぜ。それならいいだろ?」
「え? あ、はい!! 行きたいです!! ありがとうございます、行きましょう!!」
笑ってそう返すと、ルシエルは馬腹を蹴った。
私達を乗せる3頭の馬が走った。あっという間に王都を駆け抜け、街の外に出るとフィッシュフォレストを目指した。
 




