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第976話 『パスキア王都冒険者ギルドでございます その3』



 食後のお茶――カルビは、器に注いでもらったミルクをペロペロと美味しそうに舐めていた。


 ノエルは、お茶の入っていたコップをテーブルに置くと、ゆっくり息を吐き出して言った。



「さてと……それじゃ、これからどうする? とりあえず冒険者としての本分も達成できたし、懐も暖かくなった訳だが。折角、パスキア王都くんだりまで来たんだから、少し街をブラついてみるか?」



 ルシエルは、腕を組んで唸った。



「いや、なんか冒険者としての気持ちが乗ってきた。もう一つか二つ、依頼を達成しないか?」


「え? なんか意外だな。お前がそういう冒険者らしい事を言うとは思わなかった。てっきり、金が手に入ったもんで、午後は飲んだり食ったり豪遊するもんだと思っていたけどな」


「なーにー! オレは冒険者だぞ! 舐めるんじゃなーーい!!」



 ノエルの言葉を聞いて、ルシエルはプンプンに怒った。そしてそんな二人のやり取りを耳にしながらも、私はとても美味しそうにミルクを飲んでいるカルビを微笑ましく眺めていた。



「ルキアは、どう思うよー?」


「え? 私ですか? 私は、そうですねー。折角だし、ルシエルが言うように、もう一つ二つ、依頼をしていてもいいかなーって思います。ちょっとここで稼いでおけば、欲しい本とか、旅やキャンプでこの先も必要になる道具も買えますしね」


「なっ! 金、いるだろ? 金!! 金があれば、なんでもできる! ワハハ」


「言い方」



 身を乗り出したルシエルに、ノエルが軽く突っ込んだ。



「後、そうですね。これまでずっと旅を続けてきましたけど、宿代やご飯代。キャンプするにしても、料理の食材やそれに使用する油とか調味料、もろもろ。何かにつけてアテナが負担してくれているから、少しでもその助けになるかなって思って」


「え? それはでも、アテナが好きでやってんじゃん?」



 眉間に皺を寄らして言ったルシエルのセリフに、またしてもノエルが突っ込む。



「はあ? 知ってるだろ、アテナは優しいんだよ! 例え好きでやってくれていても、感謝はしなくちゃだろ。あたし達は、日頃からアテナに良くしてもらってんだからよ。ドワーフの王国で、うちの爺さんに太刀を作ってもらったんだろ? あれだって、色々とレアな鉱物使っているし、オリハルコンなんか飛び上がる位に高価な代物なんだぞ」



 流石に、しゅんとするルシエル。私も腰に差している、アテナからもらった太刀『猫の爪』を見た。


 ルシエルは、意を決したような顔をすると、拳を強く握り勢いよく立ち上がった。店員さんが振り向く。



「あれ、お会計ですかー?」


「もう少し待ってください!!」



 ルシエルは、はきはきとした口調で店員さんに返事をするとニヤリと笑った。



「うむ、確かにそうだな。ノエルのいう通りだ。それじゃ、これからもうひと働きかふた働きして、アテナの負担を軽くしてやるかー!!」


「はい! そうしましょう!」


「おう、賛成だ!」


 ガルウ!



 私達は「ご馳走様」と言うと、お店を出て再び冒険者ギルドへと向かった。ルシエルが鼻歌交じりに呟く。



「さーーて、次はどうするかなー。複雑じゃねーしパっとやって終われるから、魔物の討伐依頼ばかりやってたからなー。ちょっと変わった奴、やってみるかー。なーー」


「あはは、ルシエルらしいですね。いいんじゃないですか」


「オレは、こういう人間だーあ」



 冒険者ギルド。中に入ると、やはり人で混んでいた。一番空いている列に並ぼうとすると、受付嬢が私達を見て手招きをした。



「おっ、呼んでるな? オレ達の事だよな」


「そうみたいですね。行ってみましょう」



 受付嬢のお姉さん。今日初めてあったにも関わらず、朝からずっと魔物討伐の依頼を受注させてもらっては、達成の報告をしての繰り返しをしていたので、すっかり顔なじみのようになってしまっていた。その証拠に、満面の笑み。



「Aランクの冒険者様が二人もいらっしゃるというのは存じていますけど、本当に凄いですね。今日半日でいったいどれだけの、魔物討伐依頼をされているんですか。正直、驚きを隠せないですよ」


「はっはっはっは。まあ、このオレに任せてくれたら、どんな依頼もラクチンポンですよ」



 ドヤ顔のルシエルの脇腹に、ノエルが肘を入れる。



「あいてっ! ちょっとやめて!」


「自分一人で活躍したみたいにゆーな」


「え? だってそうじゃん」


「あたしも普通に魔物と戦って倒したし、ルキアやカルビも奮闘していただろ」


「いいんだよー!! ここはオレが大活躍したって事にしといていいのー!!」


「はあ? なんでだよー!!」



 睨み合うルシエルとノエル。っもう、こんな所でまた――でも受付嬢のお姉さんは、二人がふざけていると思って、大笑いしてくれた。



「あはははは、本当に強くて頼りになる面白い方達ですね。しかも皆、美人だし」



 美人だと言われて、ルシエルとノエルは急に喧嘩をやめる。お姉さんが美人って言ったのは、明らかにルシエルとノエルの事なのに……なのに、私もちょっと顔が赤くなって照れてしまった。



「それでここには、また何か依頼を探しにいらしたのですか?」



 ルシエルが答えた。



「うッス。また仕事を探しにきました! あるかな、オレ達にお似合いの仕事?」


「あはは、そりゃここは王都ですからね。パスキア王国で一番大きな街ですから、依頼は尽きません。沢山ありますよ」


「そ、そう、ふーん。そんじゃその依頼、とりあえず一つ、また見繕ってくれるかね」



 なんで、あんな喋り方をするのだろう。そう思ってルシエルを見ていると、なんとなく解ってしまった。冒険者ギルドとかそういう所でのやりとりは、いつもアテナが代表してやってくれている。


 だから、ルシエルは慣れてなくてちょっと緊張しているんだと思った。Aランク冒険者って言ったら、とんでもなく凄いのに、冒険者ギルドで緊張しているなんて。考えたら、急に可笑しくなった。



「それじゃ……報酬が高いのがいいんですよね?」


「お、おう! 高いのんで頼む。後、魔物退治はちょっと連続してやったから、しんどい。そういうのじゃない方がいいかなー。あるかね、そーゆーのー?」



 受付カウンターに乗り出して、お姉さんが目を通している依頼書を覗き見しようとするルシエル。邪魔をしてはいけないと、ルシエルの服を引っ張るノエル。



「あっ! これなんかいいかも! これ、急ぎの依頼みたいだから、是非お願いしたいです!」



 お姉さんはそう言って、私達の方へ依頼書をひっくり返して見せてくれた。


 ルシエルとノエルがそれを見ようと、同時に身をのりだしたので、私はその間に入って仲良く揃ってに見た。


 依頼内容を見ると、この王都内で道具屋を経営している人からの依頼で、自分の子供を探して欲しいというものだった。

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