第974話 『パスキ王都冒険者ギルドでございます その1』
パスキア王国。私達は、キャンプをした森で少し早めの朝食をとると、早速王都に戻った。
そして冒険者ギルドへと向かう。場所については、流石は王都にある冒険者ギルドというだけあって、道行く人に尋ねればほとんどの人が把握していた。
到着すると、ルシエルが大きな声をあげた。
「おっほーーー!! なかなかいいじゃないか! 如何にも冒険者ギルドって感じでめっちゃいいじゃねーか、なあ!」
「はい! なんとなくエスカルテの街の冒険者ギルドに似てますね」
ワウ。
「ここは、なんといってもパスキアの王都だからな。冒険者ギルドも立派なんだろうな」
「な、なんかこういう場所は、久しぶりなので、中に入るのにも緊張しますね」
…………
私のそのセリフで、全員固まってしまった。
このままじっと石像みたいになっていても仕方がないので、ノエルとカルビと3人でルシエルを後ろから押して先頭にした。
「やーめーろーよー!! な、なんでオレがトップなんだよーー! やーめーてーくーれよー!!」
「いつも自分がリーダーだって言っているじゃないですか!!」
「言った? オレそんなん言った?」
「はい! アテナがリーダーなら、オレはこのパーティーの影のリーダーだって言ってましたよ!!」
「やんやんやーーん、それ影のリーダーだろ? じゃあ、表に出ちゃ駄目じゃーーん!! そうだ、ノエル!! お前が先頭に行け!!」
「なぜあたしが先頭にいかなければならないんだ!! このパーティーは、アテナがリーダーで、その次に古いのがお前だろーが!!」
「古いってゆーーな!! 古いってゆーーーーなっ!! もっとオブラートに包んだ物言いをしてください!!」
「古いであってるだろーがよ!! 一番の年長者だしな!!」
「実年齢はそうかもしれないけど、見た目はお前達とおんなじ位だろーが! アレだぞ、エルフ的にも114歳なんてーのはな、ノエルやアテナ位のもんなんだぞ!! って訳でさ、もっと言葉に気を遣ってくれよーーう!!」
「あ、あのあの……ルシエル、ノエル! もう少し小声で……周りの人達に凄く見られてますよ!」
「あーーん、だってノエルが酷い事いうんだもんよー」
「お前はいつも、あたしに酷い物言いじゃねーか!」
「オレはいつも優しいよ! 優しさ天使ルシエルちゃんだよ!! それを……ちきしょー、なんだよ!! 酷いってなんだ? 酷いっていうのは、なあ!! こういう事か!!」
私達が騒いでいるので、周りにいる人達が何事かとこちらを見てきた。人々の注目が集まっている中、ルシエルはノエルのスカートをめくり上げた。
そのスピードは、とても速くて流石のノエルも反応できず呆然とした。
さらされるノエルのパンツ。周囲から声が漏れる。
「クマさんパンツ……」
「おい、クマさんパンツだよ……」
「クマさんだな」
「あら、可愛い。あの子のパンツ、クマさんがついているわ」
「見事なクマさんじゃ。儂はこれ程、見事なクマさんを見た事はない!」
プチンッ
ノエルの中で何かがキレた。ルシエルは、ケラケラと嘲笑っている。
「ヒャッヒャッヒャ。参ったかーー」
「てんめーーー!! いつまで、あたしのスカートをめくりあげてるんだ!!」
「うおおおおっと!! あぶねーーー!!」
「まて、避けるな!! この野郎!!」
怒って追いかけるノエルに、笑って逃げるルシエル。すっかり人だかりができていて、二人のやり取りを見ていた者達が「いいぞー」「やれやれー」とか煽って喜んでいる。
私はそんな光景に対して溜息をつくと、大人しくおりこうさんにしていたカルビに目を向けた。
「ふう……先に入ってよっか?」
ワウ。
冒険者ギルドの扉を開けて中に入る。
「ふわーーー、凄い……」
ガヤガヤガヤ……
思った以上に人で賑わっている。でも考えてみれば、ここはパスキアの王都。それも当然だと思った。
長く横に伸びた受付カウンター。そこに受付嬢が順に並んで、それぞれ依頼人や引受人を対応している。私達のような一目瞭然で冒険者と解る人達も大勢いて、カウンター前で列を作り順番を待っていた。
私は、はっとして辺りを見回した。その確率は圧倒的に低いけれど、例えばハルとかヘルツとか、知っている冒険者がいるかもしれない。活動拠点がノクタームエルドって言っていたし、絶対的にその可能性はゼロに等しいけれど、ミューリやファムがいるかもしれないと思った。
本当にいたら、どうしよう!! もしもいたら、アテナに直ぐに報告しないと!! きっとアテナなら喜ぶ!!
だけど、やっぱりいくら期待しても知っている顔はいなかった。世話しなくキョロキョロしている私に、女シーフが声をかけてきた。
「あんた、ここに並んでいるのかい?」
あれ? そうだった。依頼を受けるには、並ばないと。
「あ、はい。並んでいます」
「そうかい。じゃあ、あたしゃーその後ろに並ばせてもらうよ」
まったく、ルシエルもノエルも何をやっているんだろう。直に、私の番が回ってくるけど……
「ちょっと! な、なんだい!! 横入りかい!!」
振り向くと、後ろに並んでいた女シーフの隣に、ルシエルとノエルが立っていた。私は、女シーフに仲間だと話して謝った。
「なんだい、そういう事かい。ならいいよ」
「すいません、ありがとうございます。ほら、ルシエルとノエルも!」
「しゃーーーっせんした!! あと、ありゃーーーっしたああ!!」
「堂々と横入りしているみたいで、すまなかった。それと……ありがとう」
「駄目ですよ、ちゃんと二人とももっと気持ちを込めて謝らないと。実際気持ちを込めて言ったとしても、それが相手にちゃんとそう伝わるようにしないと……」
ルシエルが、目を細める。
「はいはい、ルキアちゃんは本当に真面目だね」
「真面目じゃないくて、当たり前の事を言っているんですよ!」
「はいはーーい。解りましたーー」
「っもう、ルシエルはー」
女シーフに肩を叩かれる。
「解ったからさ。ほら、呼ばれているよ。あんた達の番だよ」
「え? あ、はい。ごめんなさい」
冒険者ギルドの受付前に、私達4人は仲良く並んだ。
「はい。では次の冒険者一行様ですね。本日はどのような依頼をお探しでしょうか?」




