第973話 『そういや、冒険者じゃね?』
川で獲れた大量の魚。
ルシエルとノエルは、全部食べられるからと言ってそれを全て串に刺して焼いた。
味付けはシンプルに塩だけ。だけど、とても美味しかった。
「おい、ルキア。ちょっとこっち向け」
「モッムモッムモッム……え?」
「そのまま、ちょっと動くなよー」
ルシエルは、そう言って私の顔に腕を伸ばした。どうやら私の口の周りに、今夢中になって食べている魚の身がくっついていたみたい。それを取ってくれると、ルシエルはそれを自分の口にいれてモゴモゴと食べてしまうと、ニコっと笑った。
「あ、ありがとうございます」
「おう!」
いつもは、いらない事ばかりして、人を見ればちょっかいを出したり、悪戯したり。でも今みたいなこういう所は、やっぱりお姉さんなんだなって素直に思う。
「あ! ノエル、お前も駄目だなー。口の周りについてんじゃんよ、こっちこいよ。とってやんよ。ほら、こいよー、こっちこいよーう」
「やめろ、自分で取れる!! あっちいけ」
「いいじゃねーかよ、照れるなよ。こっちこいよノエル。なあ、こっちこいよ」
「来るな、いいって言っているだろ!!」
「照れんな、照れんな。こっちおいでー、ノエルちゃーーん」
「くるなああ!!」
ポコッ
「いてっ!」
楽しい朝ご飯。焼いた魚を全て綺麗に平らげると、ルシエルがいつになく真面目な顔をして言った。
「えっと、皆さん。ちょっといいですかね。発表がありまーす!」
「なんだ? またろくでもない事か」
「なんですか?」
ワウ?
私とノエルとカルビは、ルシエルがいったい何を言い出すのかと揃って首を傾げる。
「ええーーっと、もう言ったと思うけど、実はオレの財布は今、氷河期を迎えている」
「知らねーよ。勝手に迎えてろよ」
「お黙りなさい、ノエル。今、人が喋っている途中でありますよ」
諭すようなルシエルの態度に、ノエルがイラっとした顔をした。
アテナ不在で、この二人と私とカルビだけで、何か起きたらどうしようってちょっと思っていたけど、正直この感じにも少し慣れてきている自分がいた。
何より、ルシエルもノエルも本当は頼りになる仲間で、今はもう家族のように思える存在。
ルシエルとノエル。二人も確かによく喧嘩するけど、実は凄い仲良しだし。
ノエルがヤジを飛ばす。
「それで何が言いたいんだよ。金を貸せっていうなら、嫌だぞ。あたしだって、それほど余裕がある訳じゃないからな」
「それです!! それなのです!! よく気づきましたねー、ノエルくん!!」
ルシエルは挑発するようにノエルの頬に人差し指を突き刺すと、そう言った。ノエルは、鬱陶しそうにその手を払う。
「それでなんだ?」
「えええーー、まだ気づかない?」
「イラッ! 言いたい事があるんなら、早く言えよ!」
「だーかーらー、そろそろ仕事をしないかっつってんだよ」
「はあ? 金を稼ぐって事か? なら何処かで仕事の募集を見て、王都で大工の手伝いとか、飲食店でウエイトレスをしたり、何かを運搬とか配達したりとかするのか? 確かに金は欲しいが、ちょっとなあ」
ノエルはそう言って、私を横目で見た。
でも正直言うとウエイトレスは、やってみたいと思った。お店それぞれの制服があったりして、とても可愛いものもある。
スカートがかなり短いのは、ちょっと恥ずかしいけど、そういうのも着てみたくないと言えば嘘になる。だから、これから皆でそういうのをする事になるなら、いいなあって思ってしまった。
でも、ルシエルは失望したかのような眼差しでノエルを見る。
「なんだよ、その顔」
「あのなー、一つ言っておくけどなー。そして、ノエルは特にこの事をすっかりと忘れてしまっているかもしれないんだけどなー」
「だから、なんだっていうんだよ」
「金を稼ぐって、なぜ最初に大工の手伝いや、ウエイトレスが出てくるんだよー。言っておくが、オレ達は冒険者だぜ」
!!!!
ノエルは、急に驚いた顔をした。どうやら、本当に忘れていたみたい。そして、私もまったくノエルと同じだった。気づけば、同じ表情をして驚いてしまっている。
最近は旅を続けていても、基本はキャンプ生活。目的も旅や冒険、様々な場所でキャンプをする事が楽しみで、私達の目的となっていた。
でもたまに村や街による事もあって、そこではいつもアテナが宿代とかご飯代を出してくれたりしていた。だからもうすっかりと、それに甘えちゃってお金の事とかも、それ程気にしていなかったからかもしれない。
そして自分達が冒険者である事は忘れていなくても、それを稼業にして生活している事を意識しなくなってしまっていたのかも……
「ノエルもルキアも、そしてこのオレっちも冒険者な訳よ。ちゃーんと、冒険者ギルドに登録している正式な奴な。冒険者なら、冒険者ギルドに行って仕事を何か受けて、一気に稼いじゃおーぜ。それが一番手っ取り早くて、本業じゃーねーのかよ。なあ」
「た、確かにそうですね」
「そうだな。確かにいいかもしれない。アテナは、いつ戻ってくるか解らないしな。それに王族同士の縁談ともなれば、きっとそれなりに時間はかかる。マリンやクロエも一緒にいるし、特に心配はないかもしれないが……」
「アテナの心配は、別にないかもしれねーけどさ、こちらの財布は心配じゃね?」
「なら、あたし達は、あたし達で久々に冒険者としての活動をしておくのもいいかもな」
ルシエルがクククと笑う。
「オレとノエルは、今やAランク冒険者とくらあ。そしてルキアもCランク。正直、このパーティーなら、どんな依頼だってこなせるぜ。楽勝さ。ああ、本当さ」
アテナの用事は、きっとまだ終わらない。それに私達は、冒険者。金欠なので冒険者本来の仕事をするという事は、とても当たり前の事だった。




