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第97話 『トゥターン砦 救出戦 その2』 (▼セシリアpart)






 西門近くに、アーサーと気づかれないよう注意しながら移動した。少し高い場所。砦門を襲撃するテトラとマリンの状況が見える位置でもある。


 アーサーが、南北それぞれの門の方へ、石を投げた。そうして合図を送ると、いよいよテトラとマリンが動きだす。砦の南北から攻め入る二人。


 二人が南北それぞれの門に迫ると、砦内が急に慌ただしくなった。北からウィザード、南から槍を手にしたメイドが近づいてくる光景にただならぬ空気を感じたのかもしれない。両方の門から、何十人もの兵士が出てくる。ドルガンド帝国の兵士だ。その中には、恐らくルーニ様を誘拐した一味だと思われる盗賊風の男達も混ざっている。


 アーサーが耳打ちした。



「やっぱり、ルーニ様を誘拐した盗賊たちの依頼主は、ドルガンド帝国だったようだね。蜂の巣を突ついたように、兵士がぞろぞろと出てくる。そろそろ、僕達も西門に向かうかい?」


「もう少し、待ってくれるかしら。もっと砦の兵が二人に集中してから、侵入した方がいいわ」


「ふーーん。だけど、あの数の武装した兵士相手に囲まれたら、どれだけもつか……テトラちゃんとマリンちゃんが、やられてしまう前に動かないとね」


「ええ。それは解っている。私も心配でたまらない。……だけど、私は二人を信じるわ」



 私は所持しているスクロールを、再度確認した。火球魔法(ファイアボール)に、目眩ましの閃光魔法(スタンフラッシュ)。他にもあるけど、上位回復魔法の光の癒し魔法(ハイライトヒーリング)が一つあるのは心強い。テトラ達にもし何かあっても、大概の怪我なら一回分は助けられる。


 そうこうしている間にも戦闘が始まった。テトラが、砦からぞくぞくと出てくる兵士に向かって飛び掛かった。槍を振り回し、5人6人と、帝国兵を倒している。反対側の北門で戦うマリンは、更にもっと多くの敵を倒していた。得意の水魔法で門から出てくる敵を片っ端からなぎ倒している。あのウィザード……本当に何者なのかしら? 

 


「これ位、敵の注意を引いていれば大丈夫。そろそろ中へ侵入しましょう」


「りょーかい」



 私とアーサーは、西門に迫った。するとこちら側にも、中から十数人の兵がわらわらと出て来た。だけどその数は北門や南門より、圧倒的に少ない。これもテトラ達が、上手い具合に敵の注意を引いてくれているからだと思った。



「行くわよ! アーサー!」


「っていうか、本来君は戦闘要員じゃないでしょ? 前衛は、この僕に任せてくれよ。君は後衛で、僕の援護を頼む!」



 アーサーは、レイピアを抜いて先に駆けた。凄まじい速さで敵を串刺しにする。私も後方から、敵に向けてボウガンを構え矢を打ち込んだ。


 砦内に潜入すると、アーサーが敵の一人を押さえつけ締め上げた。ドルガンド帝国兵では無く盗賊っぽい男。ルーニ様を攫った盗賊団一味!



「ぐああああ!!」


「フフフ。更に太もも部分に、4カ所程突き刺してみよう。そうすれば君は、出血多量になる。フフフフ、何処まで耐えられるかな?」


「待て待て!! 待ってくれ!! おまえら、いったいなんなんだ⁉」



 アーサーは、容赦のない目をしていた。



 ドスドスドスドス!!



「ぎゃああああああ!!」



 流石の私も目を背けた。アーサーの事を、剣術を一通り知っているキザな優男だと思っていたけど、こんな真似ができる男だった事に驚いた。でも、アーサーにもマリンにも王国の第三王女が誘拐された事を話している。それを考えるとアーサーの行動は、当然の事かもしれない。


 だけれど、私やテトラがこれまでの旅でアーサーを警戒していた理由は、これが大きかった。アーサーはたまに、こういった慈悲のないような目をする時がある。



「さあ、どうする? 僕達は急いでいるんだけども、同じく君も急いでいるだろ? 早く血止めを行わないと大変な事になっちゃうんだもね?」



 アーサーは、ニヤニヤしながらレイピアをちらつかせ、男に詰め寄った。



「わかったわかった!! 助けてくれえ!! なんでも、答える!! なんでもだーー!!」


「ルーニ様を探している」


「ルーニ様だあ?」



 アーサーは、更に男の足にレイピアを突き刺した。ギャアアアっていう悲鳴が響き渡る。



「ふざけてもいいけど、あまりふざけすぎると、君の太ももが蜂の巣みたいになっちゃうよ」


「あああ!! わかった!! わかったよ!! だから、助けてくれ!! お願いだ!!」



 アーサーは、にこりと笑った。男は慌てて指をさした。



「あそこに見える扉があるだろ? そこから通路を進んでいけば地下へ向かえる。地下3階だ。そこに、いるよ」


「間違えないな?」


「ああ!! 間違えない!!」


「わかった。ありがとう」



 アーサーは、男に微笑んでお礼を言うと、男の眉間にレイピアを突き刺した。剣を抜くと、男は紐の切れた操り人形のようにドサリとその場に崩れた。


 あまりの事に私は、アーサーに声を荒げて言った。



「アーサー!! あなた……!!」


「君は言ったはずだよね。絶対にルーニ様を助けるんだって。もしもさっきの男を逃がして、応援を呼びに行かれたらどうするんだい? っていうか、あの男は、間違えなく仲間を呼びに行くよ。そうなると、北門と南門で必死になって敵を引き付けているテトラちゃんとマリンちゃんは、どうなる? ルーニ様は?」


「私…………」


「手段は選んでいられない。ルーニ様救出の為に妨げになる可能性があるものは、すべて排除しなければだめだよ。そうだろ? 僕は間違っているかい?」



 アーサーの言った事は、正論だった。他の何にかえてもルーニ様救出は絶対。私が言い続けて来た事だった。ルーニ様は、陛下のもとへ必ず元気なお姿のままで連れ帰らなければならない。



「ごめんなさい。あなたの言う通りだわ、アーサー。私はあなたの事を誤解していたみたいね。ごめんなさい」


「フッ、そんな事はいいから先を急ごう。僕はルーニ様が無事救出されたら、君とテトラちゃんとデートできれば、それでいいんだよ」


「フフ。変な人ね」



 私とアーサーは、男が示した扉を開けてどんどん奥へと向かった。途中、砦の兵が何人かいたが、アーサーが全て突き殺した。



 ――――地下2階へ降りる。

 


 もうこの下の階には、ルーニ様がいらっしゃる。そう思うと、気持ちが逸る。



「まって、セシリアちゃん! 奥に誰か潜んでいるかもしれない。気を付けて進むんだ」



 アーサーの声は耳に入っている。だけど、この先にルーニ様がいらっしゃると思うと、急がずにはいられなかった。

 

 通路をどんどん進んでいくと、鼻を突くような強烈な悪臭がした。それは、進むにつれてどんどんきつくなる。地下3階への階段が見えた。思わず叫んだ。



「ルーニ様!! セシリアです! 今、お救いしに参ります!!」



 ――――その瞬間だった。


 何かが、私のお腹の辺りを通り抜けた。血が噴き出す。私は、壁にもたれかかり、崩れ落ちた。



「くはっ!」



 吐血。腹部から、身体全体に激痛が広がる。足が震えて力が入らない。私の身体から、大量の血が流れている。



「そんな……もう少しで……もう少しでルーニ様をお救いできるのに……」



 アーサーが何か言っているようだけど、聞き取れない。私はこれ以上、意識を保っていられなかった。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛

〇ルーニ・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国の第三王女。セシル王とエスメラルダ王妃の娘で、アテナやモニカ、エドモンテの妹。王宮メイドのシャノンの策で巨大盗賊団組織『闇夜の群狼』に攫われる。現在は誘拐の依頼主であるドルガンド帝国のトゥターン城に連れて行かれた。おだ幼いが、勝気な性格でアテナによくなついている。必ず誰かが助けにきてくれると信じて疑わないが、自分でもなんとかしようとする強い心を持っている。


光の癒し魔法(ハイライトヒーリング) 種別:神聖系魔法

上位回復治癒魔法。致命傷程の傷を負っても、命をつなぎとめる事ができる。その代わり、上位魔法の為、使用できる者も少ない。



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