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第967話 『アテナ不在 その3』



 街。人。賑やかな場所を抜けて、王都の外に出る。


 幸い今晩は、快晴。月の光で薄暗くはあるけれど、辺りが薄暗くとも見渡す事ができる。



「ルキアー。アテナもいないし、こんな夜にお外に出歩いて、怖いだろー?」



 ルシエルが肘で押してきて、そう言ってきた。



「こ、怖くなんてないですよ! ぜんぜん怖くないです!」


「へえーー。強くなったもんだー、ルキアちんはー。でもどうかなー? どうなのかなー?」


「どうって、何がですか!」



 これが森の守護者や知恵者と呼ばれる種族、エルフなのだろうか。私を見るその表情は、とてもいやらしい。私は、ルシエルを睨みつけた。すると彼女は、キャハハと笑った。


 ノエルが遠くを指さした。



「兎に角、誰かさんが金欠だから野宿……キャンプだな。それならあっちへ行ってみないか。木が茂っている場所がある」


「こらー! 誰かさんって誰だ!!」


「お前だよ、ルシエル・アルディノア」


「てへ、バレてたか」



 まったくもー、ルシエルは。村や街、外を歩いていても、行商人を見かけるなり声をかける。それで食料品が売られていると、ほぼほぼ購入してしまう。だから、あっという間にお金がなくなる。


 それでもいつもは、私達の分も含めてアテナが代金を出してくれたりするから、ここまでお金に不自由しない感じだったけど……


 ノエルが歩き始めた。皆、後をついて行く。



「ルシエル、ルキア、カルビ、ついてこい。王都の周辺は平原だが、その向こうにはいくつも森があるみたいだ。ここからでも見えるしな。森があれば、食い物の調達に水、薪なども手に入るしな。それでいいだろう」


「はい、ノエル。そうしましょう」



 ノエルは頷くと、カルビと一緒に先頭を行く。その後ろに私、ルシエルが並んだ。ルシエルは、また私の方をちらちらと見ては、ニヤニヤと笑う。



「な、なんなんですか? さっきから!」


「えーー? 別にーー」


「ちらちらと見てくるじゃないですか」


「えーー? 駄目――? でも自然とオレ様の目が、可愛いルキアを捉えちゃうんだよー。だから、クレームを言いたいのはこっちの方さー。ルキアのあまりある魅力が、悪さしているんだからさ。ルキアってやっぱ、えれー可愛いじゃんかー。それって、罪じゃね?」


「え? な、なんなんですか、急に!!」



 シシシと笑うルシエル。駄目だ、アテナがいなくなって、完全にルシエルがいつになく、ちょっかいをかけてくる。


 例えるなら、猛獣。普段はしっかりと檻に入れられているけど、今日はそこから解き放たれた猛獣。エルフなのに、猛獣!! ルシエルが、益々と狂暴な魔物に見えてくる。



「なんだよ、ルキア。顔真っ赤にして。もしかして、可愛いって言われて舞い上がっちまったのかい? だとしたら、まったくもうウブだよねー。ルキアはウブだよねー。ウブ子ちゃんだよねー」


「もうもうもう!! いったいさっきから、なんなんですか、ルシエルは!!」


「ヒャヒャヒャ、まあまあまあ、そう怒るなって」



 そう言って今度は、肩を組んできた。



「ルキアとアテナは、姉妹みたいに思い合ってんだろ? オレもそこに交ぜてくれよなー。なー、いいだろー?」


「ま、交ぜるって……」


「だってオレだけ寂しいじゃん! オレだって、ルキアの事は常日頃から可愛い妹だと思っているんだぜー。だったらよ、もっとお姉ちゃんに優しくしてくれてもいいよなー。えーー……ジュテーム……」


「ひゃああああ!!」



 ルシエルが肩を組んできた状態。そこからの頬ずりからの、口をとがらせて迫ってきた。私はびっくりして、ルシエルをドンと押して突き放した。



「ぎゃっ! っもう! いいじゃないか!! チュウ位させてよ!!」


「嫌ですよ!! 恥ずかしい!!」


「なんだよー、優しくしてくれよー。この俺も、ルキアとアテナの間に入れてあげておくれよー」


「さっきみたいな事をするから、嫌です!!」


「そんなー」


「ルシエルには、ノエルがいるじゃないですか!」


「えーーー、だってノエル……超暴力的じゃーん。直ぐ怒るしー。ちんちくりんなのは、ルキアと一緒だけど、ルキアの方がなんだかちょっかいを出しやす……接しやすいんだよなー」


「お前……聞こえているからな」


「ちょっかいって、言いました!」



 先頭を歩くノエルの言葉。私も続けて言った。


 なんだかんだと、おちつきのないルシエルとの会話を続けていると、足が止まった。


 目の前には、森。パスキア王国はクラインベルトの隣国という事もあってなのか、非常に地形も似ている。だから王都の周辺にも、いくつも森があったりする。その一つに、狙いを定めてここまでやって来た。


 先頭のノエルが振り返る。



「よし、この森に入るぞ。だがこの時間だからな。夜行性の狂暴な魔物が徘徊しているかもしれないし、外は月明りがあるが、森に入れば真っ暗だろう。十分に気を付けて進むぞ」



 ルシエルが、ノエルに近寄って言った。



「まあ、オレに任せてくれよ。夜だろうが、オレはこれでも一応、森の守護者とか知恵者と呼ばれちゃってるスーパーエルフだからな。森ならおてのもんってなもんよ。って訳で、皆オレについてこーい!!」


「そうか。それじゃ、その前に一応あたしも聞いておきたいんだがな。これからまずキャンプ場所を決める。どういう場所がいいか、ちゃんと解っているんだろうな」


「失礼ナリね、ちゃんと理解しているわい!! アレだろ、アレ。アレだ! うーーん、そう!! 絶景かな!! 最高に見晴らしのいい場所を見つけて、オレ達の住処にしてしまおーぜ!! アハハ、なんだか急に忙しくなってきやがったぜ! まいったな」


「アホか。ここは山じゃねえ。それに見晴らしとか、どーでもいいんだよ。それよりも、水の確保が優先だろーが。川を探すんだよ、川を」



 ノエルがそういうと、ルシエルはビョンビョンと激しく飛び跳ねて怒った。



「あーーー、アホって言った!! 今、ノエルがオレの事をアホって言いやがったああ!! おい、聞いたか、ルキア!! 酷いんだぜ、あいつ! 可愛いクマちゃんとかのアップリケ入ったパンツとか履いてやがるのによ! えらそーーに」


「てめえ、この野郎!! なに勝手に人のパンツ覗き見してんだ!!」


「うるせー、そんなパンツ履きやがって!! そんなん履くって事は、人に見せる気、満々マウンテンゴリラじゃねーか!!」


「ちょ、ちょっとやめてください!!」


 ワウワウワウーー!!



 ドワーフの王国では、それぞれが別行動して冒険を楽しんだ。今回もそれと同じだと思ったけど、実はちょっと違うみたい。


 別行動ではなくて、私達のパーティーにアテナが不在という、今までなかったかもしれないというこの状況。ルシエルとノエルは喧嘩ばかりするし、マリンやクロエは、アテナと一緒にいっちゃって今はいないし……


 どうしよう。カルビの方を見ると、目があった。可愛い目。



 ワウ?


「よーし! アテナが戻るまで、私達がしっかりとこのパーティーを守ろうね、カルビ!」


 ガルウ!



 ルシエルとノエルが取っ組み合う横で、私はカルビとヒシっと抱き合って、改めて頑張ろうと決意した。

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