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第966話 『アテナ不在 その2』



「ふうー、解った。状況は、よく理解した。だがここは、我がパスキア王国の王都内だ。これ以上ここで、騒ぎは起こすなよ」


「かしこ、かしこまりましたーー!!」



 なんとか王国兵士に許してもらった。ルシエルは、王国兵士達を敬礼のポーズで見送ると、ペロっと舌を出しながら頭を摩りつつ、こちらへ小走りしてきた。



「てへぺろり。怒られちゃったよーん。いやー、参った参った」


「っもう、ルシエルったら! 駄目ですよ、アテナがいないからって、そんなに勝手しちゃったら」


「そうだぞ、反省しろ」


 ワウワウッ


「なんだそりゃ、カルビまで! あと、悪かったのはノエル、お前もだろー!」


「あたしは、悪くない。お前に乗せられただけだからな。むしろ被害者だ」


「なんにおー、このーー!! なんだ、そのサイドテール。髪の毛を横で縛りやがってよ!! なんて可愛らしい!! その生意気な口を、オレ様の唇で塞いでやろうかってんだ。ムチュムチュムチューー!!」


「やめろおおお!! よるな、変態エルフ!!」


「変態ってなんだよ、失敬な。あえてオレの事を言うなら、エレガントエルフだぞ、オレは」


「エレファントエルフ? お前、象なのか?」


「エレガントだ!! さては、わざとだな!! この可愛らしいドワーフめえええ!!」


「なんだー? やるか、この!!」



 また始まる。アテナが言うには、エルフとドワーフって仲が悪いイメージが冒険者達にはあって、昔から同じパーティーにいると喧嘩ばかりしているって聞いたけど……ルシエルとノエルも、よくこんな感じで喧嘩していると思った。


 だけど冒険者達の話と、違う所もあったりする。そう、ルシエルとノエルは直ぐに仲直りするから。



「その辺にしておいてください、二人とも!! それより、お腹減りませんか? もう辺りも暗いですし、晩御飯にしましょう。私、もうお腹がペコペコです」


「おお、それもそうだな。ルキアの言う通りだ。そうするか、ノエル、カルビ」


「ああ、そうだな。そういや、今晩宿泊する宿もとっておかないといけないしな」


 ワウッ


「決まりましたね。それじゃ、まずは飲食店が並んでいる方へ、向かいましょう。ルシエルとノエルは、何が食べたいですか?」


「そうねー、ふーむ。ステーキ……いや、ハンバーグ……ちょっと待て、ラーメン!! ラーメンもいいな!! ラーメンは、その地その地でベースが醤油であったり、塩であったり、味噌であったり……はたまた豚骨系や魚介系、鶏骨を使用したスープなどもあったりと楽しめる。パスキア王国だって、このバカでかい王都ならラーメン屋の一軒や二軒きっとあるはず!!」


「あたしは、肉だな。肉肉肉。やはり、良質な筋肉を作る為には、肉が一番だからな。それにあんまりチマチマと、小出しにしてくるような洒落た店は好まないな。豪快にドガンと、骨付き肉を出してくるような店がいいな」


「それだと、居酒屋になってしまいますよ。うーん。私はお酒は飲めませんが、でも居酒屋でも美味しい料理があれば、そこでもいいですよ」


 ワウッ


「うん、カルビもお肉とミルク、注文しようね」


 ワウッ


「おーーっし! それじゃ、いざ居酒屋に参りますか、ワハハハ!!」


「いいな。肉がいいと言ったが、酒も飲めるなら尚更願ったりだ。よし、飯を食べる場所は、居酒屋で決定だな」



 先ほどまで喧嘩していたのが嘘のよう。ルシエルとノエルは、二人で肩を組んで陽気に歩き出した。



「まったくもー」



 私もカルビと一緒に、二人の後に続く。


 そして丁度、そういう二人が望むようなお店があるエリアに辿りつく。空を見上げると沢山のお星さま。もうすっかり夜だというのに、人が多い。皆、食事やお酒を楽しもうと出歩いている。



「そんじゃー、何処のお店に入りますかねー」


「ルシエル。あっちのお店とか、どうですか?」


「なになに。あっ、なるほど。ルキア、さてはこの外に立っているメニューに書いてあるプリンという文字。これを見て決めよったなー?」


「え? だ、駄目ですか⁉」



 ルシエルの言った通りだった。プリン、食べたいなと思って、このお店を指さしたのは事実。図星。ちょっと恥ずかしくなって、顔が赤くなってしまった。



「まあ、いいか。ラーメンは無さそうだけど、他に美味そうなもんありそーだし。いいよな、ノエル、カルビ」


「あたしは、肉と酒があればいい。そしてこの店には、それが両立している。オッケーだ」


 ガルッ



 晩御飯を食べるお店がやっと決定した。


 そしてお店にいざ入店――っという所で、ルシエルが急に大声をあげた。



「あああああああ!!」



 私とノエルは、唐突の大声にビクッとした。



「どうした? 何かあったか?」


「どうしたんですか? ルシエル?」



 目をやると、ルシエルは自分のお金が入っている革袋の中を覗き込んで固まっている。



「……お金がないんだけど」


「え? もしかして盗まれたとかですか⁉」


「違う。さっき、使いすぎたみたい」


「つ、使いすぎたって……ちょっと買い食いしていただけじゃないですか。そ、そんなにお金なかったんですか⁉」


「う、うん。以前、バーンのギルドの依頼でマンティコアをシバいてさ。それで金貨もらったんだけど、ついに尽きちゃった。エヘ。誰かお金、くれ……もしくは、貸してくれる?」



 顔を背ける私とノエル。でも直ぐにノエルも声をあげた。



「あたしもそうだ。もう金がなかった……」



 二人の所持金、それが苦しい事を知ってぞっとする。



「ルシエルもノエルもお金がないのに、こんなお店に入ろうとしていたんですか⁉ お酒も沢山飲むつもりだったでしょ!! もう少しで、無銭飲食になっていたかもですよ!!」



 急に俯いて、静まり返る二人。


 こういう時、アテナがいつも皆の食事代や宿代を出してくれる。それに私達はずっと甘えていた。


 うううーー、ごめんなさい。アテナ。


 ルシエルとノエルだけでなく、私も猛烈に反省。


 私の気持ちを計らずに、ルシエルが顔を覗き込んできた。変態さんみたいに、息を荒げている。



「はあ、はあ、はあ……と、所でルキアちんはお金、持ってるよね? そ、それで今日の所は、そのルキアちんのお財布を使ってこの居酒屋でフィーバーしない?」


「しないです!! そんな……私だってそんな事していたら、お金なくなっちゃいますし、本当に大変な時に困ります!! 決めました、今日はこれから外に出てキャンプします!! それなら、お金がかかりませんから!」


『えええーーーー!!』



 これには、ルシエルだけでなくノエルまで嫌な顔をした。だけど駄目駄目。だって、アテナがいないんだもの。こういう時は、私がしっかりしないと!


 こうして私達は、王都での豪勢な晩御飯と宿泊を諦めて、王都の外でキャンプをする事になった。

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