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第965話 『アテナ不在 その1』 (▼ルキアpart)



 ――――時は少し遡る。


 アテナ、マリン、クロエと暫く別行動をする事になった私は、ルシエル、ノエル、カルビと一緒にパスキア王国の王都内を見て回っていた。



「おおーー、あれ美味そうだぞ! ルキア、こっちこい!! いや、あっちのも美味そうだ。あれはノエルが好きなんじゃないかー。よっしゃよっしゃ、カルビ。お前にもちゃんと買ってやっからさ。この骨付き肉なんていいんじゃないか。ウハハ、こら、オレの手まで舐めるなよー」


 ワウワウ!



 こんな調子でずっと、はしゃいでいる。まあアテナ達と別れはしたものの、それは一時的な事だからまた直ぐ会えるはずだし、それにこの王都のお城にいるはずだから、それほど寂しくもない。あのドワーフの王国に行った時にも、別行動をした時の事を思い出せばいい。あの時と同じ。



「アテナと離れ離れで寂しいか、ルキア?」


「え?」



 私の肩をポンと、ノエルが叩いてきて言った。ルシエルは、カルビを引き連れてそこらじゅうにある食べ物屋さんを見て回っては、はしゃいでいる。



「大丈夫ですよ。ノエルもルシエルも、それにカルビも一緒ですし寂しくはないです」


「そうか、それならいいが」



 にこりと笑うと、ノエルも同じように笑い返してくれた。ハーフドワーフの小さな体に、あどけない顔は、私やクロエと同じ位の年頃に見える。だけどハイエルフのルシエルを含めなければ、私のいるこのパーティーでは一番の年長者。だからかもしれない。


 一見粗暴にも見えるけれど、ノエルはいつも一歩下がった位置から、全体を見てくれていて、何かあればいつも真っ先に気が付いて気にかけてくれる。見た目はとても可愛いけれど、とても頼りになるお姉さん。



「まあでもアレだな。寂しくはないと言っても、ルキア達がドワーフの王国にいた時とは、少し違うかもしれないからな」


「違うっていうのは、なんですか?」


「アテナは、縁談でこの国へ来ている。もちろんアテナは、この縁談を断るつもりでいると断言していたが、実際そう簡単にいくとは、思えないしな」


「思えない? そ、それってどういう事ですか? ノエルは、アテナが私達のもとへ戻ってこないって思っているんですか?」


「いや、それはない。戻ってくるだろうな。この国の王子との結婚……それをどうしても断り切れなければ、きっとあの城を抜け出す事になっても、あたしらのもとへ戻ってくると思う」



 ノエルが戻ってくると言ってくれたので、ホっとする。でもそれじゃなぜ、縁談を断る事が簡単にいかないなんて、ノエルは言うのだろう。



「ただこれは、国と国との事だからな。パスキア側は、この縁談を何処まで真剣に考えているか、それは解らないが……アテナの義母であるエスメラルダ王妃は是が非でも、この政略結婚を成功させたいみたいだからな。アテナが「結婚なんてしません」って言っても、そう簡単に「はいそうですか」と言って逃がしてくれるとは思えない。つまりそういう事だ」


「……つまり、そういう事だ」



 振り返ると、ルシエルがノエルのモノマネをしていた。その顔は誰が見ても、ノエルの事を馬鹿にしている。



「……つまり、そうこう事だ。ワハハハハハ、すんげー、えらそうなんですけどー」


「てめー、ルシエル!! もしかして喧嘩売ってんか!!」


「喧嘩なんか、売ってませーーん。ノエルがめっちゃえらそうだったから、真似してみたんだよーー」


「人の真似とかするな、ムカつくから!!」


「やだ! する! ノエルのは、特にする!!」


「てんめええ……」



 パスキア王都の繁華街、人通りのある中でルシエルとノエルが取っ組み合いになる。


 こんな事はいつもの事で、旅の途中やキャンプをしていたりの中であれば、特に気にする必要もないんだけど、ここは王都。何事かと人が集まってくる。


 どうしよう。アテナがいれば、こらーーって一喝して、こんなの直ぐに解決するのに……でもアテナは、今は忙しいから。うん、私がしっかりしないと!!


 私は、取っ組み合いをするルシエルとノエルの間に入る。カルビもルシエルの片方の靴に噛みつくと、喧嘩をやめさせようと引っ張ってくれた。



「こらーー、やめなさい、二人とも!! 駄目ですよ、人が集まってきていますよ!!」


 ワウワウー!!


「悪いのは、このバカエルフだ!! いっつも、あたしの神経を逆なでさせようとしやがって!!」


「バカエルフって呼ばないでくださーーい。ちゃんとルシエルちゃんって名前があるんだから、ルシエルちゃんって呼んで下さーーい!!」


「うるせーー、バカエルフ!!」


 ガルルルウウ!!


「もうもうもう!! やめてください!!」



 人だかりができた。少し向こうにパスキアの王国兵士の姿が見える。こっちに歩いてきている。私はこれ以上、騒ぎを大きくさせないように、二人の間に割り込むと両方の手で、それぞれの身体を向こうへ押して引き離した。



「駄目ですよ!! 二人ともやめてください。そろそろいい加減にしないと、アレですよ!! アテナが戻ってきた時に、二人が私の言う事を聞いてくれなかったことや、王都で喧嘩して騒ぎを起こした事とか、色々と言っちゃいますからね!!」



 ビクッとする二人。



「いいんですか? アテナに言っても。きっと凄く怒られますよ。固い板の上で正座させられて、怒られますよ」


「うーーーん、それは嫌だなー」


「……あたしも嫌だ」


「アテナ、怒ると結構怖いんだよなー。ううーーん」



 腕を組んで眉間に皺をよせるルシエル。ノエルも、目が少し泳いでいる。



「貴様ら、こんな街中で何をやっておるかああああ!!」



 ルシエルとノエルの喧嘩は、アテナの名前を出してなんとか収める事はできたものの、王国兵士達の目にはとまってしまい、ドヤドヤと十数人の兵士達がここへやってきてしまった。全員、武器に手をかけている。


 どうしよう、このままじゃ皆、問題を起こしたって連れていかれちゃう。


 そう思った刹那、ルシエルとノエルはお互いに肩を組んだ後、敬礼のポーズをとって王国兵士達に大きな声で答えた。



「騒ぎを起こしてしまって、すいませんっした!! ちょっといきおい余って、はしゃぎすぎてしまいましたー!! 申し訳ありませんでしたー!!」


「貴様ら、互いに喧嘩をしていたのか?」


「いいえ! 見ての通り、仲良しこよしであります!!」


「今さっき取っ組み合いを、していたではないか!!」


「レクリエーションであります!!」



 ルシエルと王国兵士のやり取り。周囲に集まっていた人達は、そのやり取りを聞いて大笑いしていた。あれ、王国兵士の中にも、笑っている人がいる。


 まったくもう、ルシエルはーー。でも場が、なんだか和やかになった。

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