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第961話 『気が合う時もある』



 夜はどんどんと深くなる。暗闇。


 森の中、獣と虫の鳴き声が延々と響く。川の流れる音。


 真っ暗な中、そこにポツンとある煌々と辺りを照らす炎。焚火。それを囲って私とカミュウ、数十匹のウルフがゆっくりと夜のひと時の安らぎを楽しんでいた。


 私は体勢を崩して、隣にいる大型のウルフに寄りかかっていた。膝の上にも、背中にも正面にもウルフがいる。更に焚火を挟んで、向こうで座るカミュウの両サイドにもウルフ。敵意は、もう感じないけれどウルフの群れに囲まれている。



「ま、まま、まさかウルフがこんなにも懐くなんて……ありえない。ありえないよ!!」


「だけど、ありえる。これは、夢じゃないよカミュウ」



 目の前にいるウルフの頭――三角耳の先っぽをいじりながら答えた。


 焚火の炎の熱と、周囲にいるウルフたちの温かみで、気持ちよくて少し眠気を感じる。



 ガルウウウ……


「ん? もしかして、お腹減っている? まあ、あの骨だけじゃねー、確かに物足りないかー」



 起き上がると、クッション代わりにしていた大型ウルフの頭をポンポンと撫でる。そして「ちょっと、ごめんね」と言いながらも、私達の焚火の周辺に集まったウルフ達の間をすり抜けて、テントに辿り着く。そしてそこに置いてある自分のザックを漁って、中から干し肉の束を取り出した。


 ニオイで解るのか、ウルフ達が一斉に取り出した干し肉を見つめる。やだ、可愛い!



「ちょっと待ってねー。うーーん、これだけで全員分、足りるかなー」


「持っている干し肉、全部あげちゃうの?」


「うん。だって、これだけ数がいるんだから仕方がないでしょ。でも全部あげても、この子達には足りないかもしれない」



 何か、納得できないような顔をするカミュウ。


 私は両手で抱えていた干し肉を、焚火から少し離れた拓けた場所に置いた。それを目で追っていたウルフ達が、一斉に立ち上がりノシノシとゆっくり近づいてきた。そして置いた干し肉に群がる。そこで私は一瞬厳しい目を、ウルフ達に向けて言った。



「こら、まだよ!」



 ウルフ達は、私の声色が違っている事に気づいてビクリとする。そして干し肉の直ぐ手前で止まり、上目遣いに私の顔を見た。



「なにそれ、もう可愛い!! そんな顔されたら、ちょっと悪い事しちゃったみたいに思っちゃうでしょ!」


 クウーーン。



 あちこちから聞こえる、ウルフの切ない鳴き声。



「はいはい、ちゃんと待てができたらあげるから」


「アテナ……?」


「カミュウ、ちょっと待ってね」



 暫し沈黙。私の顔をじっと見つめているウルフ達。その口からヨダレが垂れているものもいて、一瞬それがルシエルと被ってしまう。でも皆、ちゃんと待てができている。


 大きく右手を挙げた。



「はい、よくできました! 食べていいわよ!」


 ドドドドド!! ガツガツガツガツガツ!!



 ウルフ達は一斉に干し肉に群がって、一心不乱に食べ始めた。物凄い食欲。


 私は先ほどまでクッションにしていた、大型のウルフの頭を優しく撫でると言った。



「誰かが独り占めしたりしないように、お願い。それと、ちゃんと皆に同じくらい、いきわたるようにあなたが見ていてね」


 ガウ。



 大型のウルフが返事したのを目にして、カミュウはまた驚いた顔をした。私はフフと笑うと、カミュウのいる焚火の方へ戻り、座った。向かい合う。



「魔物なのに……こんな事ができるだなんて……」


「たまにだけど、仲良くなれるって思う時があるんだよね。魔物の方も同じみたい。そうなれば、一気に距離は縮まって仲良くなれる。だけど魔物は魔物、普段は旅人や冒険者を襲っている魔物かもしれないし、常にこちらが強いんだよって示しておかなくちゃいけないけどね」


「もしかして、アテナは【ビーストテイマー】なの?」


「うんん、違うよ。【ビーストテイマー】のビの字も解らないかな。これでも一応冒険者だから、クラス的には【ソードマン】に分類されるのかな。そういうところ、あまり気にしていなかったから、あはは。でも自分でいうのもなんだけど、剣の他に魔法もそれなりに使えるんだけどね」


「す、凄いな。正直、キャンプなんて今まで興味もなかったし、アテナは僕の縁談相手だから……その相手の事を少しでも解る事ができればと思って、一緒にキャンプしてみようと思っただけだったんだけど……」


「あはは、ちょっと驚いた?」



 カミュウは両手を広げて、興奮している様子で言った。



「驚いたどころの騒ぎじゃないよ!! 凄いよ、アテナは!! 凄い【ビーストテイマー】ならありえるかもしれないけれど、そうじゃないのにこれ程のウルフの群れを一度に手懐けてしまうなんて、普通は考えられない! 少なくともそんな事ができる者は、このパスキア王国にはいないよ。トリスタンだって、ブラッドリーだってできやしない」



 夢中になって干し肉を食べ漁っているウルフ達に、目を向ける。



「そうかなー。でもアレだよ。この森でたまたま私達の前に現れたウルフの群れ。この子達が、意外と話の通じるウルフだったからっていうのが、一番大きいと思うよ。そう考えると人間と仲良くなれる素質をもったこの子達が、凄いのかも。私はそれに気づいただけだから」


「そうだとしても!」


「私の師匠がこういうの得意だった。襲ってきた魔物と突然打ち解けて仲良くなったり、次の日に同種の魔物を討伐していたり……逆もあったかな。ギルドの依頼で魔物退治をしたその数日後には、他の危険な魔物と仲良くしていたりする。人間でも魔物でも、悪い人もいればいい人もいる。つまりそういう事だと思う」


「魔物全てが、狂暴で襲ってくるとは限らない……確かに今なら解るよ。だって今僕は、それを目の前で証明して見せられているから」



 カップの底に目をやると、ほんの少しだけ珈琲が残っていたのでそれを飲み干した。


 さて、そろそろ寝ようかな。

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