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第960話 『骨肉』



 焚火を囲んで、カミュウとの楽しい会話を続けていると、辺りに無数の何かの気配を感じた。闇の広がる森の中、それは私達をじりじりと締め上げるように囲んできていた。


 気配や空気。私が唐突に緊張した感じになったから、それはカミュウにも伝わる。



「アテナ、もしかして森の中に誰かいるの?」


「うん、いるわね。でも人じゃない。悪魔でもないし、これは魔物……というか、獣の気配ね」


 ウウウウウ……



 辺りから、無数の唸り声が聞こえる。



「ひ、ひいい!!」



 立ち上がり周囲を見回すと、カミュウは何かの唸り声に恐怖して、私の左足に抱き着いた。カミュウの顔の位置が丁度太腿辺りに来たのでつい動揺しちゃったけれど、このままでいいと思って離れてとは言わなかった。相手が何か解るまでは、こうしていて近くにいてもらった方が守りやすい。



 ウウウウ……


 グルルルルウウウ……


「け、獣だ!! 獣系の魔物だ!! しかも群れみたいだし、どうしよう!! 僕ら、魔物の餌にされてしまう!!」



 木々の生い茂る中から、ついに獣が姿を現した。私達を囲っていた何かは、ウルフだった。ウルフの群れ。



「ウ、ウルフだ!! しかもざっと数えても20匹以上はいる!! た、大変だ、これじゃとても逃げられない」



 カミュウは、何か意を決したような顔をすると、恐怖で震える足を無理やりに抑えて立ち上がった。そして、腰にある剣を抜いて構えた。



「カミュウ」


「ぼ、ぼぼ、僕が!! ぼ、僕はなんとかウルフを引き寄せて、喰い止める!! だからその間にアテナは、走って逃げて!! そそそ、そ、それで僕は食べられちゃうかもしれないけれど、可能なら助けを呼んできて!! 万に一つの望みはあるかもしれないから!!」



 いや、残念だけどこの数のウルフを相手に、カミュウ一人をここに残して助けを呼びに行ったりなんかしたら、戻ってくるまでには骨だけになっているだろう。とても間に合わない。それに……



 ガルウウウウウ!!


「早くアテナ!! 僕がなんとか、ウルフの気を引くから、そのうちに!! 全力で逃げるんだ!!」



 きっとカミュウは、私がいくらロゴー・ハーオンに勝てる位の腕を持っているとしても、こんな獰猛なウルフの群れに、一度に束になって飛び掛かられたらとてもかなわないと思っているんだろうな。


 だけど、その辺はやはりカミュウは、外の世界の経験が足りないかもしれない。この程度のウルフの群れ、Bランク冒険者以上なら一人でも普通に対処できるんじゃないかな。因みに私はAランク冒険者ね。



「早く!! 早く逃げて!!」


 グルウウウウウウ!!


「あはは、見て見てカミュウ」


「アテナ。何を……」



 私は目の前から、じりじりと迫るウルフの1匹に狙いを定めて指をさした。



「ほら、あんなに唸って牙を剥き出して怒っている。ムキキって。あははは、なんだか可愛いと思わない?」


「か、可愛い……? ぼ、僕は恐ろしいけど」

 

 ガルウウウ!!



 1匹が飛び掛かってきた。私はカミュウの腕を掴んで、後ろに引いた。カミュウは、焚火の直ぐ手前で尻もちをつく。そして私は、立ちふさがる形でカミュウの前に立ち、近くに置いてあった薪を1本拾うと、それで飛び掛かってきたウルフの背中を打った。


 ギャアンッ!!


 ウルフはそのまま地面に叩きつけられると、悲鳴をあげて私から距離をとった。



「ア、アテナ……」


「そのまま焚火の前にいて。獣系の魔物は、たいてい火を嫌がるから」



 カミュウの方を振り返り、ウインクしてみせる。



「大丈夫。心配しないで、そこで見ていて」


 ガルウウウウ!!



 今度は一斉に10匹以上がかかってきた。私の心は落ち着いている。サッと軽やかにかわしては、襲ってくるウルフの身体を薪で打つ。さらに打つ。打つ。打つ。打つ打つ打つ。


 気が付くと、周囲にいるウルフの大半は文字通り足腰がたたない程、ダメージを負っていた。



「こ、こんなに強かったなんて……間違いない、アテナは本当に地竜を倒して、ドワーフの王国を救ったんだ……」


「それは、正確ではないかな。ドワーフの王国は、それぞれドワーフ自身が頑張って戦いぬいて守っていたし、私も一人じゃなかったから。頼りになる仲間達の活躍があったから、沢山の人達を救えたんだと思う。っていうか、どうしようかこのウルフ達。倒すとしても、もう私達お腹いっぱいだしね」



 ウルフを一瞬、お肉として見てしまった。それが伝わったのか、何匹かの私と目があったウルフは毛を逆立てさせてビクリとする。



「それに森林ウルフは美味しいけれど、普通のウルフはちょっとねー」



 襲い掛かってきたウルフの群れ。でも襲われている側の私の方が、襲ってきたウルフをお肉として見定め始める。カミュウは、それに気づいて呆気にとられている様子。


 あっ! そうだ!


 傍に置いてあった骨。調理して食べ終えたジャージースクワロルの骨を手に取ると、それをウルフの方へ放った。骨のニオイをくんくんと嗅ぐウルフ。



「どう、君達? この場は、それで手をうたない?」


 ガルウウウウウ……


「ア、アテナ! 危ない!」



 カミュウの声は届いていた。だけど私は、ジャージースクワロルの骨を持って、ウルフたちに近づいていく。



「どうする? このままやり合ってもいいけど、私を相手にすれば間違いなく損をするわよ。それなら、敵対関係にならない方がいいと思うんだけどなー。私だって、今は食事をした所で満腹だし、あなた達と戦いたくないんだけど」

 


 一番手前のひときわ大型のウルフ。骨を手に持って、鼻先に差し出した。唸るウルフ。暫く睨み合う。



「私の目に狂いがなければ、あなた達とは友好な関係を築けると思うんだけど」


 ガブリッ!!


「アテナ!! 危ない!!」



 カミュウが剣を振り上げたので、私は言った。



「カミュウ! 大丈夫だから、ちょっと待って」



 ウルフが噛みついたのは、私の差し出した骨。私はにこりと笑って、骨を加えたウルフの頭を優しく撫でた。


 クウゥーーーン。


 おや、甘えている鳴き声。よしよし。


 ありえないと思っていた事を目の当たりにして、絶句するカミュウ。私は彼の方へ振り返る。そして、どうだとばかりに親指を立てると、にっこりと笑ってみせた。

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