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第958話 『思い付きのキャンプ その10』



 ジャージースクワロルのレバー。カミュウはそれを一切れ、口の中に放り込むなり、なんとも言えないトロンとした顔をした。



「うわー、美味しい!! 凄く美味しいよ、これ!!」


「でしょう!! さあ、遠慮しないでどんどん食べて」


「うん、ありがとう」



 オリーブオイルとニンニクで炒め、味付けは塩と胡椒だけ。それだけで十分な味。新鮮で美味しい食べ物が、直ぐに自分の血肉になりエネルギーに変換される――そんな気持ちになる。


 あっという間に、食べ終わる。今度は、心臓(ハート)を同じように味付けてフライパンで焼いた。



「うわー、これも美味しい。さっきのレバーは溶けるような感じだったけれど、今度のは弾力があって食べ応えがあるね。これは、どの部分なの?」


「これはねー、ハート」


「ハート! ハートってまさか」


「そのまさか。ハツともいうけれど、ずばり心臓だね。美味しいでしょ?」


「うん、美味しい。だけど心臓を食べているなんて、ちょっと変な感じだな」


「あはは、確かに食べなれていなければ、そうかもしれないね」



 ハートもレバー同様に、二人でペロリと平らげた。


 ルシエルやノエルやマリンがいたら、こんなの一瞬でいつもなくなってしまう。だけどカミュウが同じように、こんなにもこういう食べ物を気にいってくれて、あっという間に食べてくれた事には驚いた。そして嬉しかった。


 レバーとハートを調理するのに使ったフライパンを持って川辺に行き、洗う。カミュウが後ろから声をかけてくる。



「洗い物は後で僕がやるから、置いておいてもらえれば……」


「いいよ、私がやるから。今日カミュウには、私の趣味に付き合ってもらっているしね」


「そんな、僕も物凄く楽しんでいるよ。最初は、アテナの事を色々聞いて少し不安になったけど……」


「あはは、冒険者だしキャンプ好きだし」


「うん、ロゴーにあんな簡単に勝つまで信じられなかったけれど、今なら本当なんだって思う。竜を一刀のもとに両断した噂。そしてドワーフの王国を、救ったって話」



 ……結構、色々な所に噂が広まっちゃっているな。うーーん。地竜は、一刀で両断したけれど実はそれは、正確な情報じゃなくて……


 本当は私がそうするまでにドワーフの皆やルシエルが地竜と戦って、ある程度弱らせてくれたからであって……流石の私もフルパワー、元気溌剌のドラゴンを相手に真っ向から戦うとなるとそれなりに……



「それで会うまでは……なんていうのかな。とても大きくてこうなんていうか、筋肉隆々の強靭な身体を持った人が、僕の前に現れるんじゃないかって思っていた」


「あはは、なにそれ。もしそうだったら、とっても面白いと思うけど、ご期待に沿えなくてごめんね」


「ううん、いいんだ。だってもしそうだったら、そんな人と縁談を進めるなんてちょっと怖かったけれど、実際のアテナは凄く可愛くて優しくて色々な事を知っていて、料理もできて……」



 あまり普段から、褒められ慣れていないので、ここまでべた褒めされると居場所に困る。


 爺やゲラルドなんて、私の顔を見るとお説教だし、お父様もどちらかというと小言ばかりでしょ。ルシエルもそうだし、私の事を褒めてくれるのなんて、最近じゃルキアとクロエとカルビだけだよ。



「それで……そのなんていうのか、その青い髪もそうだし瞳もそうなんだけど……アテナはとても綺麗だよ。これは政略結婚だって事は僕だって解っている。僕だって、本当は嫌だったよ。だけどアテナと実際にあって、こうして一緒に二人だけでキャンプして……正直に言うけれど、僕はアテナに惹かれ始めている……かも」


「…………え」



 暫く、沈黙する。12歳の王子にそんな事を言われて、顔が赤くなる。ど、どうしよう。どう返していいのか解らない。恋人なんて、今まで一度も……カルビしかいないんだから。


 いや、うん、カルビはいいよ、うんうん。モフモフして気持ちがいいし、嫌がるカルビを捕まえて、押さえつけて無理やりお腹とか背中に顔を埋めると、枯草のいいニオイがするし……寝る時もたまに我慢できなくなって、カルビの前足をキュっと握って眠りにつくんだけど、あの肉球の感触が……じゅるり……忘れられないんだよねー。



「アテナ?」


「じゅるり……はっ、いかん!!」



 カルビのお耳の先っぽとか、可愛いしっぽ、穢れを知らない肉球に、至高の癒しを提供してくれるお腹の感触を想像して、思わず顔がいっちゃってた!! どうしよう、えらい顔をカミュウに見られちゃったな。



「あははは、面白い!! アテナってそんな変顔もするんだね!! あはははは」


「へ、変顔!? あ、あたすが……あたすが変顔!?」


「あはははは、やめて!! 笑い死んじゃうよ、あははは」


「えへへ、それじゃそろそろメインディッシュと行きましょうかね」



 ジャージースクワロルの肉。しかもあえて骨を残しておいた、骨付き肉。


 フフフ、誰かが言ってたっけ。お肉は骨の周りについている部分が、めっちゃ美味しいって。本当かどうか、私には正直よく解らないけれど、そう言われればやっぱり美味しさを感じるかも。


 焚火に鉄製の網を乗せると、そこに骨付き肉を乗せて焼いた。すると、直ぐに肉の焼けるいい音とニオイがしてくる。

 

 カミュウはそれを見て、声をあげると前のめりになって骨付き肉を眺めていた。

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