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第957話 『思い付きのキャンプ その9』



 カミュウのいちいち驚く姿が新鮮で面白くて、まさかの火打石の話から脱線してしまったけれど、気を取り直して火熾しを再開する。


 このまま川辺で、火打石になる石を見つけてみようの大会!! 開催―――!! とかなったら、ご飯も食べずに徹夜で朝までコースだったかもしれないけれど、なんとか戻ってくる事ができたよ。あははは……


 まあ、冗談はこの位にしておいて――


 先程、カミュウに説明してみせた火打石に、缶から取り出した黒い布を添える。そして火打石を打った。何度か打つと、その度に火花が飛んで黒い布を焦がした。端の方が、煌々とした赤に変色し、小さいながらも熱を帯びる。


 カミュウが顔を近づけてきた。男の子が急に、これほど顔を寄せてきたらドキっとして慌ててしまうかもしれない。しかも自分の縁談の相手。でもカミュウの顔や外見は、可愛い女の子そのもので、それほど緊張はしないですんだ。



「この黒い布、ずっと赤い色を保っている! これはもしかして、火が点いているの? でもどうしてこんな布に、火が点き続けているんだろう」


「これはね、チャークロスっていうアイテムなんだけど……そうね、キャンプアイテムよ」


「チャークロス……これもアテナが作ったの?」


「うん。これも売っていたりはするけれど、私はなるだけ自分で作ったものを使用しているかな。作り方は、いたって簡単だし」


「驚いた。こんな不思議なものまで作る事ができるなんて、アテナはもしかしたら錬金術師かなんかじゃないのか? だとしたら、あのロゴーを簡単に倒せる程の剣の腕を持っている上に、王女でありながら……って、と、とんでもないよ」


「あはは、そんな訳ないよ。私が錬金術師なんて言ったら、本物の錬金術師が怒っちゃうよ。爺なんて、聞いたらきっと大きな溜息を吐くか、大笑いするかも」


「でも、こんなチャークロスなんてアイテムを作り出せるなんて」


「売っているって言ったでしょ。大したものじゃないんだよ。この布は、炭化させたもの。簡単に言えば、布状の炭って言えば解りやすいかな」


「なるほど。炭なんだ。だから、火がこうして……うんうん、炭なら僕も解る。王宮でも暖炉などで使用したりする事もあるし。このチャークロスの作り方は解らないけど、でも炭っていうのは解る」



 私はにこりと笑うと、火の点いたチャークロスを枯草の上に乗せた。そして両手でその枯草を包みあげるように持ち上げて、優しく息を吹きかけた。


 何度か空気を送ると、チャークロスに生まれた火は枯草に燃え移り、やがて火があがった。声を上げるカミュウ。



「うわああ!! す、凄い!! 火だ、火だよ!! アテナ、火!! 火ができた!!」


「うん、そうだね。火だね」



 興奮してピョンピョンと飛び跳ねるカミュウ。そんなカミュウに、もう少し落ち着いてと言葉を返す。



「カミュウ、それじゃ薪をそこに置いて準備をして。まずは、細くてよく燃えそうな薪からね。カミュウが集めてきた木だけど、多分火が点きにくそうだから」



 カミュウが予め石を円形に積んで、丁寧に作りあげた焚火場所。そこに薪を組み始めたカミュウは、不思議そうにこちらを見た。



「え? どうしてアテナは、この木が燃えにくいって解るの? さっき、僕はこの薪に火を点けようとして苦戦していたけれど、もしかして何か特別な理由があったりする?」


「うん、する」


「え? どうして」


「だって、この辺の木だけど、ここまで引きずってきた倒木も併せて、全部ブナの木なんだもん」


「ブ、ブナって……」



 振り返り、自分が拾い集めて積んだ薪を見るカミュウ。


 次の瞬間、燃える枯草の火がカミュウが組んだ木の枝に燃え移り、太さのある薪も火に包まれた。



「よし、これで焚火完了。さあ、ここから焚火を育てます。火が消えないように、上手く薪を入れていって安定させないとね。そしたらいよいよ、調理開始するよ!」


「アテナ。ブナの木だと燃えないの?」


「え? うん。ブナの木もそうだけど、広葉樹って種類の木は、そもそも燃えにくいかな。解りやすい所で、桜や栗、欅もそうかな。でも広葉樹っていうのは、火が点きにくいのが難点なんだけど、一度点火するととても長持ちするんだよ。逆に杉とか松、イチョウ、モミの木などの針葉樹は火が点きやすいかな。その代わり、広葉樹のように長持ちはしない」



 キャンパーでなくても、この程度の知識なら冒険者でも知っている人は多い。他にも木こりとか、山とか森とかで生活している人だったら、当然知っている知識だと思うけれど……


 別に知識をひけらかす気はなかったんだけど、カミュウの私を見る目がキラキラと輝いていた。


 ん? これって、何か間違った方向に行ってないよね。うん、行ってない。別に誰かと仲良くなるなら、それにこしたことはないもんね。



「アテナは、凄いね」


「だから、何も凄くないって。そんなに褒めても何も出ないよー……って何も出ない事はないか。火はでたし、これから食事もするし。うん、これ位火力があれば、もう大丈夫」



 メラメラと燃え上がる焚火。


 私は愛用のフライパンを取り出すと、それにオリーブオイルをたっぷりと敷いて焚火にかけた。


 満遍なくオイルをフライパンの中にいきわたらせると、そこに先ほど解体したジャージースクワロルの肝臓(レバー)と、予め刻んでおいたニンニクを入れた。


 ジュジュジューーっと肉の焼ける音。肉とニンニク、オリーブオイルの香りが合わさる。


 枝で作ったお手製の箸を取り出すと、それでレバーをひっくり返す。両面しっかりと焼き上げると、そこへ塩胡椒をふってお皿に乗せた。


 そしてカミュウに差し出すと、彼は受け取ってレバーを一切れ、口の中へ放り込んだ。

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