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第952話 『思い付きのキャンプ その4』



 まさかパスキア王国に来て、私の縁談相手のカミュウ王子と、二人だけでキャンプする事になるなんて思いもしなかった。


 なんとなく流れでこうなっちゃったけれど、キャンプができるなら結果オーライ。カミュウも興味を持ってくれているようだし、楽しんでいるようにも見えるから良かった。


 テント設置完了!



「アテナ、聖水は全部捲いちゃったよ」


「オッケー、オッケー。ご苦労様。それじゃ荷物をテントの中へ置いてくださーい」



 そう言ってテントの中に、パンパンに荷物の詰まったザックを放り込んだ。



「荷物って僕は、特にないし……これだけだよ」



 カミュウを見ると、特に何も持っていない。あえてあげれば、腰には剣と護身用のナイフを吊っている。



「じゃあ、いいかな。森の中は危険な魔物がいるかもしれないし、その剣とナイフは身に着けたままで大丈夫」


「水は目の前に流れているし……もしかして、これから何処かへ行くの?」


「薪を拾ってこなくちゃいけないでしょ。この辺は夜は冷えるだろうし、もうすでにちょっと肌寒くなってきているしね。陽ももうかなり沈んできちゃっているから、ここは森の中だし直に真っ暗になっちゃうよ。だから、その前に薪を集めちゃいましょう」


「そ、そうか、薪か。確かに焚火をするのに、薪が必要だものね。でもここに荷物を置いて行っても大丈夫かな」


「じゃあ、カミュウはここに残って、荷物番してくれる?」



 暫く沈黙するカミュウ。すると、森の中から何かの鳴き声がしてきた。



 キキキキキキ……


「ひ、ひいい!! ま、魔物!!」


「なんだろう、ジャイアントバットかな?」


「わ、解った! 解ったよ! 僕もアテナと一緒に薪広いに行くよ!」


「そうね、傍にいてくれた方が、何かあった時には守りやすいし」



 そう思ったので、そう言っただけだったんだけど、今の言葉はちょっと配慮が足りなかったかもしれない。反省。


 いくら美少女に見えても、年下であっても男の子なんだもん。やっぱり王子様なら、守る方でありたいと思うのが当然。カミュウは、がっくりと俯いてしまった。そんなカミュウの肩をポンポンと叩く。



「あははは、でももしかしたら、私一人じゃどうにもならない魔物と遭遇するかもしれないし。そしたら、カミュウに助けてってお願いするね。あのパスキアの双璧であるトリスタン・ストラムと、ブラッドリー・クリーンファルトに剣を習っているカミュウの腕があればとても心強いしね」


「う、うん! 任せて、アテナに何かあったら僕が絶対に君を守るから」



 見た目は女の子。でもやっぱり、中身は男の子だね。しっかりと男子(おのこ)の目をしておるわ。フォッフォッフォッフォっ……なんちって思っちゃったりして。



「それじゃ薪拾いに行こうか。キャンプからは、あまり離れない範囲で探すから」


「うん」



 薪拾いを始めると、カミュウは私の横に並んで歩いた。いい薪が落ちていないかきょろきょろと周囲を見て回る。



「あのさ、アテナ」


「うん、なに?」


「木なら沢山目の前にあるけれど、これを伐って薪にできないかな」


「うーーん、できるよ、できるけど、生えている木は生きている木だからね。火が点きにくい事この上ないし、あまり好ましくないかな。薪に適した木なら、絶対その辺にあるはずだから、落ちている枯れ木を探してみて」


「うん、確かに枯れ木の方が良く火が点きそうだ。解った、どういうのを探せばいいのか理解したよ」


「本当にー? じゃあ、お願いね」



 カミュウは、辺りに薪になりそうな枯れ木が落ちていないか探す。その顔は、ちょっと不安も入り混じってはいるけれど……とても楽しそう。


 気持ちに火が点いて、唐突にキャンプに行きたいってなって巻き込んじゃったから、気乗りしていなければ申し訳ないなーって思っていたので、カミュウのそんな楽し気な表情には救われた。



「さーーって、それじゃ私も薪を拾いましょうかねーっと」


「ア、アテナ! 見てこれ!!」


「なに? 変わった薪でも見つけた? って、ブフ!!!!」



 振り向くと、腰を曲げてこちらにお尻を突き出しているカミュウ。何かを見つけて夢中になっているみたいだけど、スカートがまくりあがってパンツが丸見えになっていた。


 スカートを着用するなら、一応下着もってノリで選んじゃったんだけど……下着も女性用。あとなんだか……私にはない膨らみが……


 あまりの事に吹きだす。慌てて目を背けると、カミュウにかけよって、それとなく自然にスカートに手をかけて、めくれあがっているのをなおしてあげた。



「アテナ!! ほら、これ見てよ!!」


「え? な、なな、なに? 何か見つけた?」



 顔が真っ赤になっているのを気づかれないように、言葉を返す。



「ほら、これ凄くない? これがあれば、これだけで目的達成なんじゃないかな」



 目を向けると、そこには枯れた一本の木。



「倒木かあー。いいねー」


「いいよね! これ!」



 明らかに、テンションがあがっているカミュウ。そうなんだよ、こんなそこら中におちている、なんら変哲もない木。そんなのを見つけて楽しめる、それがキャンプの楽しみ方の一つだったりする。



「うん、これはいいものだ。よし、それじゃこれ、キャンプまで持って帰ろう。でも一人じゃちょっと大きすぎるから、二人で力を合わせて引きずっていこう」


「う、うん!!」



 思わずドキッとしてしまう程の、無邪気な笑顔。


 私は、まだまだ旅や冒険を続けたい。だから縁談は断るつもり。だけどカミュウがとても好奇心旺盛で、素直で優しい人だという事は解った。


 フフ、そういう所。カミュウは男の子だけど、どことなくルキアに似ているかもしれないとも思った。

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