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第951話 『思い付きのキャンプ その3』



 パスキア城で、ずーーっと切らしていた聖水をもらった。今日は、外での経験の少ないカミュウが一緒なので、それを早速使おうと思う。


 『木漏れ日の森』に入ると、その中を見渡した。段々と陽が沈んできているので、早々にキャンプするサイトを決めた方がいい。



「それでアテナ。どの辺りでキャンプをするの?」


「うーーん、そうねー。間もなく夜になっちゃうし、そうなったら森の中なんて真っ暗になって移動もそうだけど、サイト探しも困難になっちゃう。だからいつもよりも、パッと決める感じでいいかも」


「パっとかあ……」



 森の中を歩き始めると、カミュウは辺りをキョロキョロと見回して、サイト探しをしてくれている。


 サラサラサラサラ……


 むっ! この音は!!



「カミュウ、こっちに来て!」


「え? な、なに、どうしたの?」



 草が結構生い茂っている方へと足を踏み入れる。私の後をついてくるカミュウは、かなり不安な顔をした。



「だ、大丈夫、アテナ? こ、こっちは凄く草も生い茂っていて、鬱蒼としているよ。も、もしかして魔物がいるかもしれない」


「うん、なんとなく気配は感じるし、なにかしらの魔物はいるかもしれないね」



 ビクっとするカミュウ。怯えている姿は、可愛い女の子以外に何者にも見えない。



「そ、そんな。もしも魔物が出たらどうするの!? こ、ここは王都の外だし、しかも夜になったら危険な魔物がでるかもしれないのに、わざわざこんな場所へ入っていかなくても……探せば、森の中だってもう少し拓けた場所があるはずだよ。そっちへ行こうよ」


「フフフ、大丈夫よ。そりゃこれだけ草木が生い茂っていて、人気(ひとけ)がなければ魔物はいるだろうけど、今の所は殺気のようなものを感じないしね。それに魔物だってその全てが、獰猛で襲ってくるって訳でもないんだよ。中には友好的な魔物だっているんだから」


「アテナは、そんな魔物を知っているの?」



 聞かれると同時に、真っ先にカルビの顔が浮かび上がる。ミルクをお腹いっぱいに飲んで、ご機嫌の時の顔。鼻の頭には、夢中でミルクを飲んだからか、白いのがついている。うーーん、可愛い奴め!


 続いてパスキアに入国する辺りで遭遇した、ダイナミックベアのウィニー。茸豚のキノレットにサーベルタイガーのテガー。


 ウィニーとテガーは、本来はとても狂暴で恐ろしい種類の魔物なのに、本当にパテルさんと仲良しで驚いたな。


 フフフフ、そう言えばバジャーデビルの子供達は元気かな。パテルさんに預けたばかりなのに、もうあれから結構経っている気がする。



「知っているかと聞かれれば、いっぱい知っているよ。リザードマンにだって私、命を助けられたことがあるんだから」


「え? リ、リザードマンに!? そ、それは流石に信じられない!! リザードマンが人間の命を救うなんて……」


「ギーって名前のリザードマンでね、とても強くて、戦いにおいても急所ばかり狙ってくる、勝つことに関して徹底した戦士だった。戦いもしたけれど、彼はこんな私の事を気にいってくれて……」


「も、もしかして友達になったの?」


「なる前に死んじゃった。私を助けるために、私を殺そうとして襲い掛かってきたリザードマンを道連れにして、ノクタームエルドの深い谷の底に落ちていって……」



 あれ、やばい。ギーの事を思い出すと、涙が勝手に――今は別にそういう気持ちじゃないはずなのに、どうしよう。涙が溢れてくる。


 カミュウは慌てて私に駆け寄ってきた。優しく背中に手を置く。



「ご、ごごご、ごめんなさい! アテナ、ごめん! そのギーってリザードマンは、アテナにとってとても大切な人だったんだね。ごめんよ」


「アハハ、なんでカミュウが謝るの?」


「いや、その……思い出したくないつらい事を思い出させてしまったから……あとそんな、人間に友好的なリザードマンがいるとは思わなかったから……かな」



 私の顔を心配そうにのぞき込んでくるカミュウ。私は精一杯にはにかむと、ハンカチを出してごしごしと涙を拭いた。



「自分の命を誰かの為に使うって……そんな事、なかなかできる事じゃないよね。ギーにもしもう一度あえる事ができるなら、助けてくれてありがとうってお礼が言いたいな」


「うん」


「ごめんごめん、こんな話をするつもりなかったのにな。急に思い出しちゃった。ほら、カミュウ! あれ見てごらん」


 サラサラ……ザーーーー


「ああ! 川! 川がある!」


「キャンプするのに、水の確保は重要だからね」


「でもどうしてここに川があるって解ったの?」


「解ったっていうか、気づいたっていうか。私、結構耳がいいし川のせせらぎの音が、微かに聞こえたから。後は、感と経験かな。こういう森でキャンプするのって、今までに何度もしてきたしね」



 付け加えるとニオイとかもある。


 草木の香り、陽の光の匂い、水の香り、石の香り、土の香り。必ず嗅ぎ分けられるって訳ではないけれど、自然の中にいると時折感じられる、癒しの香り。


 私は川辺まで降りると、カミュウにおいでおいでをした。すると彼は、草が生い茂っている足元を注意しながらもこちらに近づいてきた。



「うん、ここで決定かな!」



 荷物を下ろして、テントを取り出す。続いて聖水を取り出して、カミュウに手渡した。



「それではこれより、テント設置を開始したいと思いまーす。聖水はちょっとした魔物除けになるから、サイトを決めたら辺りに満遍なくふりまきます。カミュウはそれをお願い。私はテントを立てちゃうから」


「う、うん。解った」



 こうして、私と私の縁談相手のカミュウ王子との、二人だけのキャンプが始まった。

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