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第950話 『思い付きのキャンプ その2』



 パスキア王国の第四王子カミュウは、縁談の相手である私を喜ばせようとしてくれて、パスキアの王都にあるアウトドア専門店に連れて行ってくれた。


 そのお店は、大きな倉庫を改造したお店で、いい雰囲気なのは言うまでもなく数々の品揃えも豊富で、私のテンションは爆上がりになってしまった。


 そんな訳で縁談相手のカミュウ王子を誘い、フィリップ王とメアリー王妃共に了承のもと、パスキア王都近くの森――カミュウ曰く『木漏れ日の森』という場所へ向かっている。


 既に徒歩で王都を出発しているんだけど、目的地までは一時間位の距離らしい。


 うーーん、考えてみればマリンやクロエ、別行動をとっているルシエル達も今は、王都にいるんだよね。でも私はカミュウと2人、その王都を出発して外へと出ちゃっているんだよね。これって変な感覚。


 だけど似たような事は、ノクタームエルドを旅した時に、ドワーフの王国でもあったしね。またパスキアを出る時までには、全員で合流する訳だし、それ程気にする事でもないかもしれない。


 てくてくと街道を歩いていると、空がオレンジ色に焼けてきた。夕暮れ。



「綺麗だね、アテナ」


「え⁉」


「え?」



 何気なく夕焼けを見ながら、穏やかな気持ちになって歩いていた。何も考えずに、ぼーーっと。するとカミュウが綺麗だと言った。


 一瞬、私に言ってくれたのかと思って、驚いた反応を見せてしまう。カミュウが綺麗だと言ったのは、夕暮れの空の事なのに。


 私が一瞬勘違いしたことに気づいたカミュウは、慌てた。私も顔を真っ赤にしてしまった。だけどやや先を歩いていた私は、カミュウから顔を反らして夕暮れ色の大空に目をやると、気持ちを落ち着かせながらも平静を装って言葉を返した。



「あ、ああ! 夕焼けだよね。すっごい綺麗だよね」


「そ、そう! そう夕焼け。とても綺麗だよ」



 カミュウが察してくれる人で良かった。これがルシエルだったら、ずっとこのネタを引っ張って私を小馬鹿にするんだろうな。うーーん、ルシエルめ。腹が立ってきたからまた合流したら、いつもルシエルがルキアにやっているように、こちょばかしてやろうかしら!


 ルシエルは何もしていないのに、行き場のなくなっていた気持ちを勝手に彼女にぶつけてみる。



「着いたよアテナ。あれだよ、あれが『木漏れ日の森』だ」



 カミュウが指をさした先には、確かに森が見えた。やっと到着した。



「やったー、到着したね。『木漏れ日の森』ってなんだかいい名前よね。とても素敵な森なのかしら」


「どうだろう。近くに村とかはないし、この森に足を踏み入れる者も少ないみたいだけど、魔物や動物は豊富に生息しているから、狩人なんかは好んでこの森に入ったりするみたいだよ」


「そうなんだ。でもカミュウって、あまり王都から外へは出た事がないんだよね。どうして、そんな事を知っているの?」



 カミュウは、またちょっと頬を赤らめた。そして少し照れるような表情で答えた。



「ク、クラインベルト王国の第二王女は、キャンプ好きで、城から逃げ出してまでキャンプをしているって聞いたから」


「え? 誰に!?」


「誰にっていうか、噂かな。アテナはドワーフの王国を救ったんだよね。僕はその話は信じているけれど、その時に地竜も一刀両断にしたって。だからそんな凄い武勇伝を持つ王女の話は、パスキアでも噂されていて……アテナがキャンプ好きだっていう事や、城から逃げ出して冒険者に身をおとしているという話も聞いたんだ」



 ええええ!! う、嘘でしょ。そんなに私、有名人になってしまっていたんだ。


 そう考えると、ブレッドの街を出る時に冒険者ギルドに登録してあるファミリーネームを、クラインベルトからフリートに変えておいて正解だったかも。名前はアテナのままだし、気づく人は気づくかもしれないけれど、フリートって名前はごまかし使える。



「だからまさか本当にキャンプしに行くとか、こんな事になって内心驚いているのは確かなんだけど、トリスタンやブラッドリーに一応念の為っていうか、王都の近くでキャンプをできる場所も聞いておいたんだ。万が一、アテナがこの辺りでキャンプしたいから、できる場所を知りたいって聞かれたらちゃんと答えられるように」


「ええ!? そうだったんだ。色々と考えてくれていたんだね、カミュウ。ありがとう」


「まさかでも、王都に着いて二日目で本当にキャンプに行くとは思わなかったけど……でも一応聞いておいて良かったよ」



 カミュウの言葉を聞いて、吹きだしてしまった。

 


「あははは、私だって驚いているよ。流れでついそうなっちゃったけど! でも、なんかワクワクするでしょ?」


「うん、キャンプというか、城の外で寝泊まりをした事なんてなかったから」


「そうなんだ」



 そう言えば私もそうだった。まだ幼い頃は、1人でお城を出た事もない。でもあのドルガンド帝国の将軍、ヴァルター・ケッペリン。あの男に攫われた時から、私は外で寝泊まりするのが平気になった気がする。


 だけど私は、あの男を恨んでいる。決して許さないと思っている。

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