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第95話 『ロック鳥』






 私たちは、なんとかゾルバ達の追撃を振りっ切って、サナスーラの村を目指して馬を走らせ、4人とも無事目的地へ到着する事ができた。


 到着するなり、ルシエルとルキアは驚きの声をあげた。大空を見上げると、かるく全長20メートルはあるだろう巨大な鳥が、何人もの人間を乗せて羽ばたいていたのだ。



「なんだありゃーー!! すげーでかいぞ!! すげーでかい鳥がいるぞ!! アテナ! ななな……なんだあれ?」



 ルシエルがかなり興奮している。ルキアも目を丸くして驚いている。



「鳥の背中に小さな小屋みたいなのがありますね! 人も何人も乗ってますし、もしかしてこれは…………」


「ロック鳥よ。確か私の持っているリンド・バーロックの本にも載っているよ。このガンロック王国では、ロック鳥は一般的な交通手段なんだって。私も初めて見るけど、とんでもない大きさの鳥ね。なるほどね、ハリルはこれに乗って王都まで行けばいいって言っていたのね」



 ルシエルが大空を移動するロック鳥を指して跳びはねる。



「乗るんだろ? じゃあ、あれ乗るんだろ? なあ?」


「もうーー、ルシエルったら。もうちょっと、落ち着いてください!」


「うん。あれに乗せてもらえば、王都へもきっとすぐ着く。そのうち、ゾルバ達も追いついてくるだろうし、急いであの鳥に乗り込みましょ」



 村の中には、ロック鳥乗り場が設置されており、その前でヘルツ・グッソーが私たちの到着を待っていた。



「お! 来たな!! こっちだ! こっち! 早くこいよーーー!!」


「ヘルツ! お待たせ。じゃあ、早速ロック鳥に乗って王都に向かいましょう!」


「おおーーーー!!」



 ヘルツ、ルシエル、ルキア、カルビ、私! いよいよ私達5人は、これよりロック鳥でガンロック王国の王都へ向かう。


 ロック鳥に乗る為にはまず、その乗り場で係員と話し代金を支払う。



「一人、金貨一枚だよ」


「ええー!! 金貨1枚って…………結構なお値段しますね」



 そう言ったルキアの肩を、ルシエルが軽くポンと叩いた。



「気にするなルキア! 今のオレ達なら、余裕だぞ! こんな巨大な鳥に乗ることができる上に、王都までひとっ飛びなんて素晴らしいじゃないか。大きな経験に金貨を払ったと思いたまえ」


「た……確かにそうですね。ルシエルもたまには、良いことを言うんですね」


「たた……たまにって、なんじゃーーい!!」



 ルシエルの言う通りだった。今の私達は、クルックピーレースで稼いだ賞金がある。


 フッフッフー。あるからって湯水の如く使うと無くなっちゃうだろうし駄目だけど、確かに今は金貨1枚程度ならぜんぜん払えちゃうのだ。



 クワックワックワッ



「うわーー!! す……すげえ!! 近づくと、余計に大きく見えるな!!」



 ルシエルはずっと興奮している。ガンロック王国へ突入した頃は、ブーブー言っていたのに、クルックピーレースの辺りからもうずっと興奮しっぱなし。


 代金を支払い、いざロック鳥の目前まで行くと、私も改めてその鳥の大きさが解った。物凄く大きい。そして、可愛い。この巨大な鳥がちゃんと、人を乗せて目的地まで飛ぶなんて…………大きくて利口で可愛い鳥。


 ロック鳥の背中に乗り込むやいなや、ルシエルはうつ伏せになって、顔をロック鳥の背中に埋めた。



「はああああーーーーこれはいかん!! いかんぞ!! ものっそいフサフサして、癒し効果が半端ない!! スーーハーースーーハーー。ものっそいロック鳥のにおいがするううう」



 ルシエルの行動を見たルキアが、恐る恐るうつ伏せになって、同じようにしがみついた。それは、巨大な鳥の背中に、金髪エルフと猫娘が張り付いている状態。微笑ましくて可笑しくて、思わずクスっと笑ってしまった。



「はあーーー。本当にフサフサします。それに、暖かいですーー」


「ほら!! アテナ!! 早く!! 早く、アテナもこい!! 一緒にロック鳥に張り付こう!! っな!! 張り付けば解るから! っな!!」



 他のお客さんたちの視線が気になって仕方がない。だけど、同じくロック鳥に乗っていた子供達が、ルシエルとルキアの姿を見て真似をしはじめた。ふーん、家族連れで乗る人達も多くいるんだ。



「おーーい!! アテナ!! 来いってーー!!」



 うーーん、しょうがない! 私も行くか!



「解ったわ! よ……よーーし!! じゃあ私もロック鳥に癒されたーーーい!!」



 バフンッ!!



 ――――!!



 なんてことだ⁉


 私は、びっくりする位に癒されてしまった。


 ――――いよいよ、ロック鳥が飛び立つ。飛行中、落下したら大変なのでほとんどのお客さんは、ロック鳥の背中に設置されている小屋の中へと入っていった。


 ヘルツも中へ入っていったが、私達はというと、小屋へ入ってしまうのはなんだかもったえないように思えて、全員外に出たまま大空からの風景を楽しんでいた。カルビは、ちょっと怖がっていたので、ルキアが抱きかかえていたけど。



「アテナ!! ほら、あこそ見てみろ!」


「え? あ…………」



 ルシエルが指をさした。


 広がる荒野の向こう側、500騎程がサナスーラの村の方へ走っている。先頭を駆けるのは、ゾルバ・ガゲーロ。その隣に副長と、あの私にきつい一撃を入れたゾーイという少女がいる。


 更に後続に馬車が見えた。王族が使用する高価な装飾の施された馬車。私は、あの馬車の中にエスメラルダ王妃が乗っているんだろうという事をなんとなく解った。


まあゾルバが率いる騎士団が護衛している馬車なんだから、まず間違いはない。それにしても、私を連れ戻す為にこんな隣国……しかも、荒野を駆けてまで来るなんて。そんなにパスキア王国との縁談を進めたいのだろうか。


 ゾルバ達が見えなくなると、ルシエルはロック鳥の頭の方へ歩いて行った。そして、ロック鳥の頭部に取り付けた手綱を握る男と何か話している。まさか、オレにも操縦させてくれとか言っているんじゃないよね。そんな事を考えてハラハラしていると、ルキアが背中をポンポンと叩いてきた。



「ん? どうしたの、ルキア?」


「王都に到着したら、どうしますか?」


「そうだね。とりえず、ヘルツが出演するっていうガンロックフェスに行ってみたいよね。キャンプをして、三日三晩のお祭りらしいから、食糧とか買い込んで準備しないとね」


「はい。私もそんな大きな音楽のお祭り、見たことがないので凄く楽しみです」


「うんうん。そうだね! 私も凄く楽しみ!」



 そう言えば、ナジームからもらった手紙の件もあった。王都に知り合いの本屋さんがいて、リンド・バーロックの書いた本『キャンプを楽しむ冒険者』の2巻を売ってくれるかもしれない。



「うわあーーーーすごーーい!!」



 ルキアが声をあげた。向かっている方角、景色の先を見ると巨大な街が広がっていた。その中心には城がある。王都だ。


 私たちは、ついにガンロック王国の王都に到着した。


 リンド・バーロックの書いた本をトレースして旅をしているというのであれば、ここがガンロック王国国内での私たちの旅の終着地点になる。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ロック鳥の上でルシエル達と同じく、はしゃぐ子供

ガンロック王国、カッサスの街に住んでいる少年。家族と一緒に、ガンロック王国へ向かっている。お父さんのように立派な豪商になる為に日々励んでいる為、両親が王都に連れてって美味しいものを食べさせたり色々なお店に連れて行ってやろうとしている。名目上は、勉強。だけど、予定の中にはあの大陸でも有名なガンロックフェスが入っている。ワクワクして、少年は今日も寝付けない。


〇ロック鳥 種別:魔物

とても巨大な鳥。どれくらい巨大化と言うと、その背に小屋を建てる事ができる位なのだ。サナスーラの村だけではないが、ガンロックではロック鳥を手名付けてそれでお客さんを国内各地に送り届けるという商売もある。野生のロック鳥は、人を襲う事もあるが比較的人間に懐きやすい性格をしている。この鳥に乗る運賃が金貨一枚もする理由の一つは、その巨大な身体を維持する大量の餌代である。


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