第949話 『思い付きのキャンプ その1』
いそいそとキャンプの準備を始め、自分の荷物を背負う。さてと……お城を出るまでに、もう一度だけ二人に一緒に来ないか確認をしてみた。
「マリンとクロエも、一緒にキャンプしに行かない?」
「行かない。今は、王宮書庫にある本を読みたいんだ。かなりの量の本があるから、気になるものだけでも読むのに相当な時間がかかってしまう。まあ、読書するのはボクにとっては至福のひと時だけどね。それにボクは、それほど野暮じゃないしね」
「野暮?」
「だってカミュウ王子と二人で行った方が、より仲良くなれるよね」
あーー、そう言えばそうだった。またすっかりと縁談の話を忘れてしまっていた。まいったなー、もう。
「クロエは行くよね?」
「え……えっと……」
クロエの前に、イーリスが立ちはだかるように出てくる。
「わたくし、クロエとは正式にお友達になりましたのよ。それで今日は、もっとクロエのお話を聞かせてもらう事にしていますの。夜もわたくしのお部屋で、同じベッドでお喋りしながら眠るんですの。お茶と美味しいスイーツも、既に沢山ご用意しているのですわ」
お茶とスイーツ。うーーん、っていう事は、ディディエがまた作ってくれるのかな。フォンダンショコラレベルの美味しいスイーツを!!
それはかなり魅力だったけれど、やっぱりここまで火が点いてしまったらキャンプに行かないと燃え広がった気持ちが収まらない。
マリン、クロエ共にもう予定があるみたいだし、私はカミュウと二人でこれからキャンプに行く事にした。
って事で、お城の1階エントランスで、再びカミュウと合流する。今度は護衛はついていないけれど、代わりにメアリー王妃が一緒にいてびっくりしてしまった。
「カミュウ、アテナ王女と二人だけで本当に大丈夫なの? やはり、わたくしも一緒に……」
「いいです、母上! アテナは腕の立つAランク冒険者でもあるそうですし、僕だって一応は、トリスタンやブラッドリーに稽古をつけてもらっています!」
「でも……それなら、何人か護衛をつけましょう」
「やめてください。そういうのじゃないんです。大丈夫ですから。必ず、無事に帰ってきますから。約束します」
30分程も問答を繰り返し、ようやくカミュウは母親メアリー王妃を振り切る事ができた。
まあ、カミュウを見れば、王子だと言ってもその見た目は女の子のように可愛い。それに年齢も12歳。メアリー王妃にとっては、とても可愛い息子に違いなく、もしも何かあったらって心配する気持ちも理解できる。
そう考えると、私のお父様も私が勝手きままに冒険者とか、あちこちを旅して好き勝手しているので、物凄く心配しているだろうなと思う。爺やゲラルドだって私の事を……
でも今回は、エスメラルダ王妃やエドモンテも一緒だし、アシュワルドもまだこの王都にいてくれているようだから、いくらかは安心してくれているかもしれない。ううん、逆かな。エスメラルダ王妃と私の不仲は、よく知っているはずだから。
そんな事を考えていると、いつの間にか王都の大通りに戻ってきていた。
「それでアテナ。これからどうするの?」
「そうねー」
私は腕を組んで、カミュウの頭からつま先まで見た。
「え? な、なにかな?」
「まずは、またお着換えタイムかな」
「え? また?」
王都内に出歩く時は、カミュウ王子だってバレないように女装させた。でも今度はキャンプだから、それに合わせた動きやすくて汚れてもいい格好。つまり私と同じく冒険者の服装。
そういう服を専門に扱っているお店に入る。そしてカミュウの服を選んで着せた。
「あ、あのこれ……アテナ?」
「うん、なーに?」
「物凄く足がスースーするんだけど、スカートだよねこれ。しかも物凄く短い……」
「うん、でも私と同じくらいの丈だから」
「いや、これそもそも女の子の服なんだけど……冒険者の格好をするのなら、その……男物の方がいいんだけど」
「ええー、女物の方がいいよ。似合っているし、女の子と思われた方が都合がいいでしょ。王子だって思われないって事だし」
「え? う、うーーん……」
納得のいかない顔をしているカミュウ。でもこの方が可愛いし、私も男の人とでなく女の子と一緒にいるみたいで緊張もしないしね。当人のカミュウは、凄く落ち着かないかもしれないけれど、この方が断然いいと思った。
「さあ、行きましょう! それじゃ、この服買いますのでお会計お願いしまーす」
「ちょ、ちょっとそんな勝手に!」
お会計が済むと、私はカミュウの手を掴んでお店の外へ出た。
「ちょっと、アテナ! ぼ、僕こんな短いスカートなんて……」
「もう買っちゃったし、似合うんだからいいんじゃない。女の子にしか見えないから、王子って誰も思わないだろうし。それとキャンプするなら急がないと、もう間もなく夕方だから暗くなる前にサイトを探さないと」
「サイトって?」
「キャンプする場所の事。テント設置したり、焚火したり。因みにそういうキャンプできる場所って、王都の近くにあるのかな?」
「うーーん、森とかならあるけど、あそこはきっと魔物が生息しているから……」
「魔物や動物がいるって事は、それだけ自然豊かな場所って事だからいいと思う。その森へは、徒歩で行けるのかな?」
「うん、王都から歩いて一時間もあれば到着するかな」
王都から一時間。間もなく、夕方になるしきっとそこへ辿り着いて、サイトを決めてテント設置してってやっていたら真っ暗になるだろうな。だったら、食料は買って行った方がいいかもしれない。
私は今晩の為に食料を買わなくてはいけないとカミュウに説明し、今度は食料品店へと移動した。
急げ急げー。急がないと、キャンプを始める頃には真っ暗になっちゃう。