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第948話 『カミュウが案内してくれたお店 その3』



「見てこれ、カミュウ! 珍しい!! 魔法のランタンだよ、これ」


「魔法のランタン? 確かにとてもお洒落な形をしたランタンだけど、どう魔法のランタンなの?」


「ふむ、よく聞いてくれました。これは一応キャンプ用品であると同時に、魔法のアイテムなんだよね。魔法のランタンって言っても、その種類によって色々な効果があったりするんだけど、これは……魔力で点灯するランプだね。普通は油を使用するオイルランタンが主流なんだけど、これなら例えばマリンとか魔法を得意とする【ウィザード】なら、魔力さえ尽きていなければ何処でだってランタンを点ける事ができるんだよ」


「なるほど。砂漠とか雪原とか燃料が乏しい場所で尽きた時に、もしも灯りが必要になった時。便利かもしれない」


「うん。向こうに置いてあるのがそうだけど、雨天もなんのその、防水のものや水中で使えるランタンもあるね。水中用に至っては、オイルランタンは使用できないから魔法のランタンや、魔石を利用していたりするんだけど、そんなランタンなら問題なく使えるね」



 ノクタームエルドの大洞窟を旅した時に行った、シャルロッテと再会したあの地底湖。ミューリやファムとも一緒にあそこで泳いだりして楽しんだけど、ああいう時にこういう魔法のランタンとかあれば重宝して結構いいかもしれない。


 テントからランタン、そして色々な物に目を移していく。


 ああ、楽しい。自分の好きな物を色々見て回るのってとても楽しい。このお店に案内してくれて、一緒に付き合ってくれているカミュウには申し訳ないけれど、今この瞬間は縁談の話もエスメラルダ王妃の事も全部忘れて、楽しい事だけが頭の中を巡っている。


 でもそういう瞬間(ひととき)って、人には凄く大切なものだと思う。


 いつの間にか、カミュウもお店の中を徘徊して、色々な物を手に取っては眺めて楽しんでいる。そしていくらかまた時が経った所で、カミュウがこっちへ戻ってきた。



「アテナ! 向こうに面白い……っというか、不思議な物が売っていた」


「え? 不思議なもの? また魔法のアイテムとか、そういうの?」


「違う。薪だよ、薪が売られていた!」


「え? 薪?」



 カミュウについて行くと、薪が売られていた。商品として積み上げられているけれど……不思議って……何処か不思議なのだろうかと考える。私の目には、特別なものには見えない。何処にでもある薪にしか見えない。



「これは、普通の薪でしょ?」


「そうなんだ、それが不思議なんだ。ここにある薪、全部見てみてよ! これ売っているんだよ、信じられるかい? 森に行けばいつでも薪なんて手に入るのに、こんな物が売り物になるなんて」



 あーー、そういう事か。


 パスキア王国も緑は多い。森だってクラインベルトのようにあちらこちらにある。だから薪が必要になれば、そこに行って木を伐採して薪にすれば、いくらでも手に入るのに、そんなただ同然の物が売り物になるなんて不思議……って事だろう。


 私は一番近くにあった手頃な大きさの薪を手に取ると、カミュウに見せた。



「解りやすく説明すれば、需要と供給だね。例えばカミュウが今、薪を必要としている。だけど今から森へ木を伐りに行く事ができない。なら薪にお金を出すでしょ?」


「そう言われればそうだけど……僕は王子だし、自分でこういう薪とかそういうのを購入したり、手に入れたりする事がないから解らなかった」


「確かに薪を拾いに行ける人や、薪になる木が豊富ある場所にいる人にとっては、お金を出して購入するまでもないものだけどね。でも見てこれ、いい薪。売り物だけあって、ここで販売している薪は上質だよ」


「薪にいいとか悪いとかあるの?」


「あるよ。っていうか、こんな事してたら急に疼いてきちゃった」


「え? 何が?」



 腕時計に目をやる。15時過ぎかー。どうしようか……でも、もうこれはちょっと我慢できないよね。



「カミュウ。こんな素敵なお店をわざわざ探してくれて、ありがとう」


「え? うん。楽しんでもらえたなら、甲斐があったよ」


「それでさ、ものは相談なんだけどね。ちょっと今から、キャンプしに行かない?」


「え⁉ キャ、キャンプ!? で、でもそんな唐突に⁉」


「フフフ、冒険者をしていると、唐突な出来事なんて日常茶飯事なんだよ。それにここのお店の中を一緒に見て回っていたけど、カミュウもなんだか楽しそうだったし」


「確かにそうだけど……でも今からって……」



 でも、もうどうにも止まらないこの気持ち。



「どう? これから一緒にキャンプでも?」



 少し考えるカミュウ。そして複雑な顔をしたまま頷いた。



「わ、解った。でも王都内は見てのとおり、人であふれているし、そんな中でテントを張るなんて恥ずかしいよ。人目も引くし、僕らが王族だと民に知られたら大事になりかねない」


「それなら大丈夫。王都でなんて、キャンプをする訳ないから」


「え? まさか……」


「それじゃ、レッゴーー!! 今日は、外泊する事になるから、皆に伝えに一旦お城に戻ろうか」


「ががが、外泊だって!!」



 驚いてばかりのカミュウ。この様子だと、普段からあまりお城の外にも、まともに出てないみたい。


 話がまとまると、私はカミュウと一緒にお城へ戻った。イーリスとクロエ、そして書庫にいたマリンに、ちょっとカミュウとキャンプに出てくる――帰りは明日になると思うから、よろしくと伝えた。


 もちろん、フィリップ王とメアリー王妃にも承諾を得た。


 メアリー王妃は、カミュウがキャンプする事に心配を隠せないようだったけれど、フィリップ王は、箱入り息子のカミュウにとってもいい経験になるし、私との仲も深まると頷いてくれた。それに私は、パスキア四将軍の1人にも勝つ腕だと証明してみせたので、何か起きてもカミュウを守れると判断してくれたのだろう。


 良かった。これで堂々と、キャンプができる。わっほーーい、やったね。

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