第947話 『カミュウが案内してくれたお店 その2』
まさか、カミュウが私の大好きなお店に連れてきてくれるなんて、思いもしなかった。テンションがあがる。
ちょっと見てくるねって言おうとして振り返ると、そこにはとても可愛い美少女が立っていて、私に向かって頷いていた。やっぱり、女の子にしか見えないのよねー。でも実は、男の子なんだよね。
「ちょっと見てきてもいい?」
「うん、もちろん」
師匠からキャンプの魅力を教えてもらった。あの幼い頃の、ワクワクドキドキで溢れていた時の自分のようになってしまっている。もう16歳にもなるのに、まるで好奇心にまみれる小さな少女のように、私は興奮してはしゃいでいた。
だってこの大きな倉庫の中には、ずらーーーーっとキャンプに関する代物が並べられている。普段から旅をしたりもする冒険者や、野外で寝泊まりして楽しむキャンパーというのは、大きく共通するところもあるので、冒険者も愛用して使うようなアウトドア商品も売られていた。
ああーー、でもやっぱり楽しい。こうして物色しているだけでも、かなり楽しめる。うん、余裕で2、3時間は見ていられるよ。
あれ、そう言えば、ルシエルの使っているテント。私のおさがりで、以前に使っていたテントなんだけど、ゴブリンに襲われた時に破られて破損したのを、修理をして使い続けている。だけど、あのテントもかなりくたびれてきている。考えてみれば、私が冒険者になって最初に買ったテントが、あれなんだよね。ボロくもなるよ。
だから、そろそろ新しいテントが欲しいな。
今持っているテントは、私とルシエルので2つ。でもルシエルのテントはもう寿命だから、新たにまた2つは購入したい。ルシエルとルキアのもの。
マリンは、後にセシリアとテトラを追いかけるって言っていた。だけどノエルとクロエは、私達と一緒に旅や冒険を続ける。カルビだっているし、そう考えるとやっぱりテントは3つ位あった方がいいんだよね。
「テント、テント。あ! あっちにテントがある! どれどれ……わあ、可愛い。ここは、ティピーばかり並んでいるわ。これ、皆でティピーにして、揃えて設置したら面白いかも」
ティピーというのは、1本しか支柱を使わない三角形のとんがりテント。ドーム型テントに比べればちょっと圧迫感はあるかもしれないけれど、1人ならそれほど感じないし、何よりもテント設営が楽ちん。
そして見た目がとても可愛い。ルキアやカルビが、このティピーテントからヒョッコリと出てきたら、もう直ぐに捕獲して抱きしめちゃいたいってくらい可愛い。言葉の意味はよく解らないかもしれないけれど、兎に角そういう事。
でも、やっぱり実用性を考慮すれば、実際使うのはドーム型テントかな。
「うわー、テントだけでもこんなにも種類があるんだね」
「あっ、うん。そ、そうだね」
完全にカミュウの存在を忘れてしまって見入っていた。こりゃ駄目だよね、えへへ。
「一言でテントって言っても、色々あるよね。こっちのは自立式テント。私はこっちのペグを打って、固定する方が好みだったりするけどね。あとは、テントの張り方でもスリーブ式、フック式とか種類もあって私はスリーブ式がいいんだけど……」
「色々あるのは解るけど、そんなに種類があるんだね」
「用途とか、その人の好みや使い方とかあるからね。それに合わせた色々なテント、つまり探せば自分好みのテントがあるんだよ」
「まさにこだわりの世界なんだね」
「そう、こだわりの世界なんだよ」
カミュウにそう言って、ニヤリと笑ってみせる。その時、カミュウが何気なく手に持っている物に目がいってしまった。
「ちょっとそれ!! それ、ちょっと見せてくれる!!」
「うわっ! う、うん、いいけど……」
「はあーーー。いいねー、これいいねー。いいよ、いいよー。凄くいいよー」
思わずマリンみたいな口調になっていまった。
カミュウから今奪い取った物、それはランタンだった。でもただのランタンではない。とってもいい感じのランタン。
キャンパーの多くは、テントとか寝袋、そういったキャンプで必須的なアイテムだけではなく、そのほかの物にもこだわりを示したりする。その一つがランタンだったりするし、実際にランタン好きのキャンパーは少なくない。
ランタンがあれば、夜だけでなく鬱蒼とした森の中や洞窟の中だって、身の回りを照らしだす事ができる。実用性十分で、雰囲気もあってお洒落。
因みに私は、オイルを使用するオイルランタンが好きなんだけど、ランタンの灯りが暗闇の中で照らし出してくる光とは、とても暖かくて心地のいいものだったりする。それは、夜の闇でランタンが与えてくれる癒し。
例えばキャンプを設営したその日の夜。勿論焚火はするけど、テントに入った後……なかなか眠れずランタンを点ける。そして眠くなるまで読書を続ける。便利だし、雰囲気もいいよねー。
ランタン一つあれば、そういった楽しみを味わう事ができるのだ。
「うん、いいねー。これはいいものだ」
「いいデザインと色だなと思って、なんとなく手に持ってたけど、そ、そんなにいいものなの?」
「うん、いいものだよ。因みにこのランタンは、ドルガンド帝国製」
「ド、ドルガンド帝国の製品!?」
「うん、そうだよ。ほら、ここに書いてある」
「あっ、本当だ。こんな所に書いてある文字なんて、普段注意してみないから……」
「普通はそうだよね。でも好きなものになると、こだわりが生まれるから細部にも目がいっちゃう。ドルガンド帝国は、はっきり言って私は大嫌い。カミュウにはもう話したけど、昔……私やお母様は帝国に酷い目に遭わされたから。だけどこのランタンと、こんな素晴らしいランタンを作れる技術に罪はないからね。いいものは、いい。私はそれを言えるキャンパー!」
「あはは、確かに言われてみればそうだね」
カミュウと顔を合わせて笑い合う。
ああーー、今日まさかこんな楽しい場所に来るなんて思っていなかったからなー。最高のサプライズだよ。もしこんなテンションマックスになるお店に来るって解っていたら、クロエとマリンも連れてきたんだけどなー。
そんな事を考えながらも、カミュウとランタンに関する話を続けた。
そして自分が少し早口になっている事に、気が付いた。恥ずかすぃーー!
 




