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第943話 『フィリップ王との謁見』



 ここにいるほとんどの者が、私の方に目を向けると、「おおーー」っという驚きの声をあげた。なんでと思ったけれど、自分がゴージャスで如何にも御姫様な感じのドレスに身を包んでいた事に気づく。


 そう言えば昨日、ここへやってきた時は、いつもの冒険者の格好だったから……



「ほうほう、見事じゃ。ようドレスが似合うておるわ。とても美しい。アテナは、ティアナ前王妃に似て、美しい青い髪と瞳をしておるでな、それに合わせたドレスを用意させたのじゃが、これほどまでよく似合っているとは」



 ティアナ前王妃――お母様の名前をフィリップ王が口にすると、エスメラルダ王妃はあからさまに嫌な顔をして見せた。


 私はティアナ……お母様の娘なのだから、似ていて当たり前。エスメラルダ王妃とは、血も繋がっていないし……お互いに親子だって認め合ってだっていない。そんなの解っているんだから、そんな嫌味な顔をわざわざ取らなくてもいいのにと思ってしまう。



「それにしても、アテナのこの美しさ。そして昨日、旅の疲れもあっただろうに、我が息子セリューの申し出を受けてくれて、この国が誇るパスキア四将軍の1人である、ロゴー・ハーオンとの手合わせを快く承諾してくれた。しかも驚いたのは、その勝負に勝ってしまいよったことじゃ」



 今度は、セリューとその側近として隣にいるロゴー・ハーオンの顔が険しくなった。


 カミュウとの縁談、進める気はない。結婚なんて断るつもりなのだから、第二王子であるセリューに花をもたせず、パスキア最強と名乗る自信満々のロゴー・ハーオン将軍のメンツを潰す結果になってもかまわないと思って、選んだ行動だったんだけど……


 どうやらそれについては、王はなぜか機嫌がいいみたいだし……逆にセリューやロゴー・ハーオン、他の四将軍とは無駄に険悪になってしまったみたいだし……これは、どうしたものかなと考える。


 いっその事、ここらで「じゃあちょっと用事があるのでー」っと言って、ルシエル達のもとへ戻りたい。


 でもイーリスには、既にお世話になってしまったし……縁談相手のカミュウに関しても、何も非のある所はみつからない。どちらかというと、縁談なのに非常識にも冒険者の格好で現れて、今日は寝坊までしてきた私の方が非があるよね。うー、まいった。


 エスメラルダ王妃が、進み出た。



「フィリップ王。それでは、そろそろ縁談の話を進めたいのですが、よろしいですか?」



 フィリップ王は、メアリー王妃と顔を見合わせる。



「それはもちろんじゃ。じゃがな、エスメラルダ王妃。余もカミュウとクラインベルト王国のアテナ王女が結婚すれば、これから互いの国は、今まで以上に助け合う事ができ、繁栄すると思っておった」


「おった? おったとは、いったいどういう事でございますか?」



 フィリップ王は、私とカミュウの顔を交互に見る。そして溜息。



「ロゴー・ハーオンは、この国が誇る名将。そのロゴーにアテナは、勝ってみせた。アテナに関しては、色々と噂を耳にしていたが……それが誠の事であるとまざまざと見せつけられた。この若さで、この強さ。そして美しさ」



 こう何度も美しいとか言われると、なんだかむずがゆくなる。ルシエルが聞いたら、きっとお腹を抱えて、笑い転げるに違いない。



「そうおっしゃっていますのに、何か問題があるのですか? フィリップ王。はっきりとおっしゃってください」


「ふむ。メアリーとも話をしたんじゃがな、そんなアテナ王女と余の愛するカミュウが結ばれるという事については、とても嬉しく思うし、似合いの二人(カップル)だと思っておる。じゃが、二人の気持ちも大事であろう? カミュウ、アテナ。二人はこの結婚を本当に望んでおるのか? 互いに想いを通わせておるのか?」



 以外だった。


 エスメラルダ王妃が必死になって、私とカミュウの縁談を進める理由については、一目瞭然。政略結婚以外の何ものでもないと思っていたし、その通りだった。パスキア側もきっとそうだと思っていた。だから何処かで頃合いを見計らって、縁談を反故にできないか考えを巡らせていたのに……


 いざとなったら、クロエとマリンを連れてお城を脱出。ルシエル達をひろって、逃亡しようと思っていた。


 ちょっと卑怯な感じもするけれど、私は最初から縁談は嫌だって宣言していたし、エスメラルダ王妃と交わした約束は、パスキア王国に行って縁談相手のカミュウ王子に会う事。それは果たしたと言える……


 カミュウやフィリップ王、メアリー王妃には、とても迷惑な話。だけどできないものは、できないし……嫌なものは嫌。だけどこれは政略結婚なのだから、エスメラルダ王妃同様に、フィリップ王は息子カミュウと私を引っ付ける為に迫ってくると覚悟していた。


 だからこそ、お互いの気持ちはどうかと尋ねてきたフィリップ王の言葉には驚いたし、動揺をしてしまった。



「どうだ、アテナ? カミュウと結婚をしたいと思えるか?」


「え? そ、それは……解りません」


「解らないと申すか」


「は、はい。カミュウ王子とは、昨日お会いしたばかりですし……イーリス王女とは、お食事やお風呂に入ったり、昨晩も遅くまで色々な楽しいお話をしました。それでイーリス王女の事は、少しは解りました。とても優しくて可愛いお姫様なんだって」


「しかし、イーリスはおなごじゃ。おなご同士では、結婚はできまい」



 フィリップ王の言葉に、玉座の間に集まった者達がどっと笑い声をあげる。イーリスは、真っ赤になって横を向く。



「カミュウはどうじゃ?」


「僕も同じです。アテナ王女とは昨日会ったばかりですし……」


「ふむ、そうじゃな。確かにそうじゃ」


「あたな……」


「解っておるメアリーよ。それでは、カミュウよ。お前は、これから王女アテナにこの王都を案内して参れ。そうすれば少しは、互いの事を知ることができるじゃろう。エスメラルダ王妃、それで良いかの?」


「縁談を進めて頂けるのなら、とやかくは言いません。わたくしの望みは、両国の繁栄それだけなのですから」



 こうして二日目の予定も決まってしまった。


 どうしよう……このままずるずる行っても良くないし……この際、はっきりと言ってしまった方がいいのかもしれない。


 だけどこれだけパスキアの主要人物が集まっている玉座の間で、私がカミュウと結婚をしたくないと言えば、カミュウやフィリップ王に恥をかかせてしまう事になるし……


 ううーーん……


 あっ! そうだ! それなら、カミュウが私をふってくれればいい。そうすれば、恥をかくのは私。あとエスメラルダ王妃とエドモンテもかもしれないけれど、それは仕方がないよね。


 うん、それならきっと上手くいくはず。カミュウなら、きっと解ってくれるに違いない――と、思う事にした。

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