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第941話 『サウナ』



 クロエが服を脱ぐのを手伝い終えると、続けて自分も服を脱いだ。


 それから今度は、マリンの方を見る。するとマリンは、脱ごうとした服が肘に引っかかってしまっていて、モソモソとして苦しんでいた。まるで芋虫か何かのように。なので大きなタオルを身体に巻いた後に、マリンを救出してあげた。


 なんとか服を脱いで裸になる事ができたマリンは、眠たげな眼で「ありがと」と短く言った。


 なんか、手のかかる子供が二人も一遍にできたみたいだと、クスっと思わず笑ってしまう。



「さあ、こちらへどうぞ。この奥ですわ」



 イーリスの言葉に振り向いて、彼女の後についていく。目の前に見えるイーリスの裸体。とても白くて綺麗な肌。まるで、雪みたい。



「うわあーーー!! 何これ!? す、凄い!!」


 ザーーーーッ


「ど、どうかしました、アテナさん! 何があったのですか⁉」



 私の驚きの声に、緊張するクロエ。私はクロエが転ばないように、彼女の手を握ってゆっくりと引いて誘導する。



「凄いよ、クロエ!! ここは広いお風呂で、真ん中の一番大きなお風呂には、上から大量のお湯が降ってきている。まるで滝みたいだよ」


「た、滝ですか……でも、確かにそういう水が流れ落ちる音がしています」



 会話している横を、マリンが通り過ぎる。



「こら、マリン!」


「え、なに?」


「まずかけ湯を浴びてからよ。お風呂に入るのは、それから」


「えーーー」


「えーーーっじゃない! はい、こっちに来てください。これはマナーなのよ」


「はーーい」



 マリンとのやり取りを見て、クロエとイーリスが笑う。ここにルシエル達もいれば、もっとはしゃいだりして、賑やかになるんだろうなー。



「あーーーーー……!!」



 かけ湯をしてお風呂へいざ、ゴー! お湯は結構熱くて、徐々に浸かっていく。そして肩まで沈めると、お腹の底からこんな声が漏れでる。もちろん、クロエとマリンも同じような声を出す。



「ほら、クロエもマリンもちゃんと肩まで浸かって身体を温める」



 二人にそう言うと、イーリスがプッと噴き出した。ムムム、な、なにかな。



「アテナお姉様って、まるでクロエとマリンのお母様みたいね」


「そうそう、この子達はちょっとでも目を離すと、あっちへーこっちへー、ゆーて……ってこらーー!! こう見えても私、まだ16歳なんだけど!」



 また爆笑するイーリス。彼女のその表情を見て、私も自然と笑顔になってしまった。そしてそんなイーリスに目がいっている隙に、マリンとクロエの姿が消えている。


 湯気の立ち昇る向こうを見ると、マリンがクロエの手を引いて、更に奥にある別のお風呂へサササと移動して行くのが見えた。


 さては、何かにつけて私に注意されるから逃げたな。



「大丈夫ですわ、アテナお姉様。クロエは目が見えなくてもしっかりしているようですし、マリンが一緒についていますもの。それにここのお風呂場には、数種類のお風呂がありますのよ。折角お入りになっているのですから、色々入って頂いた方がわたくしもお誘いした甲斐があったと嬉しいかぎりですわ」


「そうなんだ。それじゃ、私も他のお風呂にも入って、しっかり堪能しちゃおうかなー」



 ザバっと滝のあるお風呂から上がる。イーリスも続いてお風呂から出る。そして私についてくる。



「この奥に、サウナがありますのよ」


「え!! サウナ!! ここ、サウナがあるの!?」


「ありますわ」



 イーリスは、そう言ってサウナがある方へと歩き始めた。今度は私がイーリスの後に続く。


 ガラス窓のついた重厚な木の扉。イーリスはその扉の取手を掴むと、彼女のキャラとは裏腹に「むん!」っと言って引っ張った。扉が開くと、中の熱い空気がモワっと外に溢れる。くうーーー、本当にこれはサウナだわ!



「さあ、中へ入って」


「うん、ありがとう」



 部屋の材質は床も壁も天井も、木材を使用していた。そして雛壇のようになっている椅子。そこにイーリスと隣同士に座る。汗。額からも脇からも、身体中から止めどなく汗が流れ出る。


 イーリスは立ち上がり、近くに溜めてあったお湯をひしゃくで掬うと、部屋の隅に設置してある高温の石にかけた。


 ジュジュジューーーーッ


 ちょっと怖い位の量の蒸気が立ち上り、サウナルーム全体が一瞬にして真っ白になる。熱い霧でいっぱいになり、一緒にいるイーリスの顔も見えない。


 このままイーリスがいなくなってしまっても、解らないかもしれないとか、そんな事を考えていると彼女はまた私の隣に座った。そして私の腕に触れた。



「ひえ? な、なに? どうしたの、イーリス!?」


「アテナお姉様の肌ってとても綺麗……わたくしも、人にそう言われたりするのですけど、なんていうのかこうモチモチとして……」


 え? モチモチ!


「ちょ、ちょっとモチモチってなによ。それだとまるで、私がポッチャリ系みたいに聞こえるでしょ!」


「ウフフ、やっぱりアテナお姉様って面白いわ。もしもアテナがカミュウと結婚してくれたら、アテナお姉様はわたくしの本当のお姉様になるのよね」


「まあ、そうなればね」


「なってくれないのかしら?」


「うーーん、今は結婚とかそういうのは、考えられないかな。縁談の話をしたいと、わざわざパスキア王国まで来ておいて、とても失礼な話だとは思うけれど……」


「でもアテナお姉様は、カミュウが嫌いって訳ではないのでしょ?」


「まあ……そうだね」


「ふーん、そうなんだ。アテナお姉様は可愛い男の子よりも、もっとワイルドなタイプが好きなのだわ」


「ワ、ワイルドって……」


「違うのかしら? それじゃあ、えーーと」



 イーリスは自分の顎を人差し指で触ると、私の好きな異性のタイプをあれこれと探り始めた。


 参ったなー、カミュウは確かにまるで女の子のように可愛くて綺麗な顔をしていて……それで、まだそれ程話したりもしていないけれど、優しい性格な気がする。


 だけど12歳なんだよね。私とはたった4つ程違うだけだけど、16歳と12歳じゃちょっと……


 それに私は……やっぱり、今は結婚なんて考えられない。今の私にとっては、ルシエル達という仲間や冒険、キャンプが全てなのだ。それ以外の事は、とても考えられなかった。

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