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第94話 『VS鎖鉄球騎士団』







 ルシエルだけに、任せてはおけない。私は、ゾルバが何発も放つ棘付きの鎖鉄球をかわしながらも、襲い掛かってくる騎士達を倒した。



「さあ、どうする? ゾルバ! ここで去ってくれるなら、あえて追ったりはしないけれど」


「ぐぬぬぬぬ……」



 その結果、私とルシエルによって30人もいた騎士団が、あっという間に残り3人になっていた。



「まったくとんでもないお転婆王女だ! 30人からいた、我が鎖鉄球騎士団をあっさりと倒してしまうとは……剣の腕は、とんでもないな。こうなったら!! ガイ・メッシャー副長! おまえは、あのハイエルフをやれ! 私は、ゾーイと一緒に王女を拘束する」


「はっ!」



 ゾルバが部下に指示を出すやいなや、鎖鉄球騎士団副長がルシエルに襲い掛かった。手には鉄球ががっしりと握られ、その状態のまま鉄球を叩きつけてきた。――空振り。ルシエルは、持ち前の身のこなしでサッと避けたが、鉄球が叩きつけられた箇所を見ると、その凄まじい威力で地面が鉄球型に陥没していた。とんでもない、威力……っていうか、腕力。流石のルシエルも副長の一撃をもらったらただでは済まないだろう。


 でも、今のルシエルはチャンピオンモード! 頼りにして大丈夫だよね。


 ルシエルに目をやると――――顔が青ざめていた!! うそーー、頑張ってーー!! こっちは、1対2で戦わなくちゃだから、助けに行きたくてもいけないよ。



「おや? 戦闘中によそ見をされていては、いけませんぞお!! アテナ王女――!!」



 ゾルバの鉄球がジャラララという鎖音と共に、私目がけて飛んできた。確か前回戦った時に、飛んでくる鉄球を避けた後、すぐそこからその鎖を引っ張って、再び後方から攻撃を仕掛けて来た。まさに返す刀でといった感じの攻撃だけれど、もうその攻撃は織り込み済みで戦っている。同じ手は喰らわないわよ。



「おい! ゾーイ!! 私だけに働かせる気か!! おまえも仕掛けろ!!」


「了解」



 ゾーイ? ゾルバの隣にいる女の子。長髪黒髪前髪ぱっつんの、女騎士? 鎖鉄球騎士団にしては、動きやすさ重視といった感じの軽装備。


 そしてその手には、鎖鉄球。ゾルバとは、また違った形状の鉄球を使用している。鉄棘はついていないが表面がボコボコしているのだ。


 そう言えば、今ルシエルと死闘を繰り広げている副長の鉄球と他の騎士が使用している鉄球は同じものだった。丸みがあって大砲の弾のような形。なるほど、ゾルバと、このゾーイと呼ばれる女騎士が使用する鉄球は他の部下と異なった特注品の鉄球って訳ね。



「ゾーイ!! 十字攻撃をしかける!!」


「了解」



 ――――十字攻撃。ゾルバとゾーイ、それぞれが立つ左右の位置から、同時に鉄球が繰り出された。凄い勢いで、発射された2個の鉄球は、私目がけて飛んでくる。でも、私にはしっかり見えている。直撃する寸でのところで、くるっと前転して避ける。ゾルバとゾーイの鎖が、空ぶって空中で十字に交差する。私は声をあげて、両足に力を込めた。



「いくよ!! やあああああ!!」



 チャンス!! 私は、この騎士団のボスであるゾルバに狙いを絞って、向かって走った。距離を詰められ、ゾルバが慌てふためく。鎖鉄球をその場に捨てて、剣を抜こうとした刹那、私はもうゾルバの懐に入り込んできた。



「ゾルバ騎士団長。覚悟してね」



 ゾルバの懐から可愛らしく上目遣いに、ウインク。 



「し……しまったあ!! まずい!! ゾーーーイ!!」



 剣の柄を握ろうとした腕と、襟首を掴む。同時に、一瞬にして重心を下へ落として引き込んだ。ゾルバは、体制を崩す。



「うおおおお!! ま……まてーー!!」


「っや! 待たない! せいやっ!!」



 ――――大内刈り!!



 ドスンッ!!



「ぐふうっ!!」



 掛け声と共に、そのまま片足をゾルバの左足にかけて払った。ゾルバは、ドスンという音と共に仰向けにひっくり返った。すかさず、ゾルバの鳩尾に全体重をかけて、片膝を打ち込む。ゾルバは私から逃げるように鳩尾を抑えて、呻きながら横へ転がっていった。



「アテナ!! 危ないっ!!」



 ルキアの声。鉄の塊。ゾーイの鉄球が轟音をたてて、私の脇腹すぐ横を飛んで、かすめていく。それは、まさに危機一髪――――ルキアが叫んでくれなければ直撃していたかもしれなかった。


 ――ゾーイの視線。



「私は、例え王女が相手でも手加減はしない。降伏するように進めても降伏しないだろうから、そういう無駄な事もしない。だから私は、あなたをただ痛めつけて、気を失わせて連れて行くだけだ」


「え? ちょっと、なにこの子! なに怖い事を言っているの⁉」



 ゾーイが鎖を引っ張る。ゾルバと同じ手だ。外れて向こうへ抜けて行った鉄球を引っ張る事で、今度は後方から相手を打ち抜く攻撃技。



「フフ。ゾルバと同じ攻撃! どんな攻撃か解っていれば、私なら避けるのは容易いわ」



 そして、避けたら距離を詰めてゾルバと同じように、組み伏せておしまい。


 そう思った刹那、ゾーイが微かに笑ったかのように見えた。


 後方から飛んでくる鉄球をかわし、その鉄球を追いかけるようにゾーイに距離を詰める。――しかしその瞬間、鎖を引っ張って自分の元へ戻って来た鉄球を、ゾーイは思い切り蹴飛ばした。しかも、私にしっかりと、狙いまでつけて!



「アテナ王女! 私の鉄球とその技は、特別製よ! 私の鉄球は投げる以外に、蹴り飛ばして攻撃もできる。そしてこの攻撃は耐えられない!! ――打っ壊し鎖鉄球(レッキングボール)!!」



 ドスゥウッ!!



「うっ!!」



 鉄球が、私のお腹のど真ん中に命中。めり込んだ。確かに、耐えられない。身体が、くの字に曲がる。


 更にゾーイは休む間も無く、鎖鉄球を勢いよく回転させる。まずい、ゾーイの追い打ちがくる。



「ウインドショット!!」



 その時、ルシエルの風魔法を唱える声が聞こえた。見ると、ルシエルの翳した手から放たれる衝撃波のような風の一撃が、再び鉄球を投げつけようとしていたゾーイを打ち抜いて吹き飛ばした。


 更に、その隙をついてルシエルは、ゾルバ率いる騎士団の馬を拝借し、先にルキアとカルビを乗せたあと自分も騎乗していた。



「おい、アテナ! 大丈夫か? しっかり立てるか?」



 私は、歯を食いしばったまま頷いた。



「あの鉄球軍団ってのが、アテナの身内って事はわかっているが、剣や魔法まで封印して戦うってのは、流石にどうかと思うぞ。あいつらなかなか手強いしな。油断していると、そのうちに今みたいにな一撃をまたもらうぞ。剣ぐらいは使ったらどうだ?」


「ごめん……ルシエル。ルシエルのいう通りだね。これから、そうするよ。……剣を使う」


 

 シュンとして呟くと、ルシエルはにこりと微笑んだ。 



「このままサナスーラの村まで逃げるぞ! アテナは、そっちの馬に乗ってついてこい!!」



 ルキアの心配する顔。ルシエルは、手綱を握り直し馬を走らせる。


 私は、お腹を押さえながらも馬にしがみつくように騎乗し、先導するルシエルの後について馬を疾駆させた。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ガイ・メッシャー 種別:ヒューム

ゾルバ配下。鎖鉄球騎士団副長。元気いっぱいでトレーニングオタク。鉄球騎士団なので、鉄球を一応は使用するものの鎖の部分をあまり使用せず、鉄球を握ってそのまま腕力で殴りつけてくる。その威力は厳つく、岩をも砕き鉄も凹ます。


〇ゾーイ・エル

ゾルバ配下。ゾルバとはあまりそりが合わないようだが部下の為、一応従っている。長い黒髪で前髪ぱっつん。身体の線は細いが、戦闘力は抜群。表面がボコボコとした変わった鉄球、『打っ壊し鎖鉄球(レッキングボール)』を使う。クールな性格に見られがちだが、意外と負けず嫌い。


〇チャンピオンモード

カッサスの街のクルックピーレースで見事チャンピオンに輝いたルシエルがその後に、ずっと調子に乗っているモード。鬱陶しいし、めんどくさいけどなんだか不思議と心強くも感じる摩訶不思議なモード。っていうか、ルシエルが摩訶不思議なのかもしれない。鬱陶しい、めんどくさいと感じるのは仲間だけでなく、戦う相手もそう感じる。


突風魔法(ウインドショット) 種別:精霊魔法

風の下位精霊魔法。衝撃波の如き風を、手の平から瞬発的に放つ魔法。本来は対象物や攻撃対象を吹き飛ばす魔法なのだが、ルシエルはそれを地面に向かって放ち宙へ飛んだりとユニークな使い方をする。ルシエルは、いくつか使える精霊魔法の中でも特に風魔法を得意としている。


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