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第934話 『ロゴーとの試合 その3』



 フィリップ王は、一度咳払いをして気を取り直すと、立ち上がった。



「それでは、改めて審判は天馬騎士団団長トリスタン・ストラムと、クラインベルト王国国境警備司令官アシュワルド・ブラスコネッガーに任せる!!」



 アシュワルドは、もう一度私の顔を見ると後ろに下がった。なんだろう、この安心感。アシュワルドがいてくれるだけで、何があっても大丈夫だと思える。自分の行動に自信が持てる。


 トリスタン・ストラムは、諸手を挙げると交差させるようにして勢いよくおろした。試合開始の合図。



「両者、始め!!」



 兵士達が慌ただしくこの訓練場に、椅子を持って入ってくると、並べた。そこへ、フィリップ王やエリック王子達が座る。


 イーリスとカミュウにも用意されたけれど、いらないと言っている。二人はクロエと共に私の側について、立ったまま応援してくれていた。



「アテナお姉様ーー!! わたくしがついていますわよ!! 頑張ってーー!!」


「イーリス!! ついに始まっちゃった、どうしよう!?」


「解っているわよ、カミュウ。ロゴーが本気になったら、アテナお姉様はひとたまりもないかもしれないから、そうなったらわたくしとあなたで飛び込んで止めるわよ」


「う、うん」


「シャキっとしなさい! アテナお姉様は、わたくしのお姉様……あなたのお嫁さんになる方なのよ」


「え? いや、それは……だって、まだ僕達……」


「なによ、もしかして年上は嫌なの? あんなに綺麗な人なのに、ここで逃がしたらもったえないわよ」


「いや、だって、それは、あの、その……イーリス!! ロゴーが動いたよ!!」



 聞こえてくるイーリスとカミュウの会話。それに気を奪われていると、先にロゴー・ハーオンが動いた。左右の手にはそれぞれ彼の得意な双剣。交互に振ってくる。


 私はそれを受け太刀せずに、円状に動いて回避し続けた。ちょっとつまらないかもしれないけれど、これなら避け続けられる。避けて避けて相手がイラついて、大振りになった所をカウンターを合わせておしまい。


 でも次の瞬間、セリューが叫んだ。



「ロゴー!! かまわん、やれ!!」


 !!



 ロゴー・ハーオンの目が鋭くなった。すると更に攻撃は鋭くなり、その攻撃は胸や腹、腕などを攻撃していた所から、首や脇、手首に内股と切り替えてきた。これは、動脈を狙ってきている。


 ナイフなどの武器を使用する際、攻撃は素早くそういう急所を狙うのが定石。だけどそれは、本当に相手を殺める覚悟のある場合。


 酒場での件。あれはどう考えてもこの男が悪い。だけどセリューは、この男からどういうふうな報告を受けたのかは解らないけれど、きっと私は悪者になっている。せっかく迎えをやったのに、私がその迎えをやっつけてしまったから。


 しかもやられたのは、パスキア王国の自慢の強者で、第二王子であるセリューの直轄配下である四将軍が一人。その事についても、セリューはムキになっている。私のような小娘に、自慢の四将軍がやられたもんだから。


 でもだからと言って、私は更々やられてあげるつもりもないし、負けてあげる理由もない。


 本来はいたって無害なキャンパーさんだけど、これでも一応剣士でもある訳だしね。私の師匠がヘリオス・フリートである以上、その名を背負っている私は、そう簡単には負けられない。



「こそこそと逃げるだけでは、勝負にならんぞ、アテナ王女!! 私と正面から勝負しろ!!」



 ロゴー・ハーオンが、双剣を振り回しながらも吠える。


 何か様子がおかしい事に気づいたフィリップ王は、息子のセリューに声をかけた。



「お、おい、セリュー。ロゴーが、ちと気負いすぎではありゃせんか? このままアテナを怪我でもさせたら、大変な事になるかもしれんぞ。もうちょっと手加減しろと言ってやるべきではないのか? 相手はクラインベルトの王女だぞ」


「いえ、大丈夫ですよ父上。ああ見えてロゴーは、ちゃんと解っています。それに何かあれば、我が四将軍の他の者が割って止めに入ります」


「し、しかしのお……」



 ロゴー・ハーオンの双剣を避け続けるが、彼は執拗に私から離れない。狙いはやはり、動脈の通っている箇所や首と言った急所。これだけ攻めさせれば十分かな。そろそろ終わりにしよう。


 足を止めて相手と向かい合う。



「はっはーー! ようやくその気になったか!! しかし、私の双剣は見切れんし、このスピードにもついてはこれまい!!」



 今度は正面から打ち合う為に踏ん張って、ロゴー・ハーオンの方へ踏み込む。しかし足がもつれて、態勢を大きく崩した。



「うわ!?」


「もらった!!」



 両方の短剣を逆手持ちに切り替えて、大きく体勢を崩して前かがみになった私の背に勢いよく振り下ろす。



「あれ? まさかこんな手に引っかかるとは思わなかったけど」


「な、何!?」



 体勢を崩したのは、私の誘い。罠。そこから加速して、相手との距離を一気に零にする。そして近距離からの、勢いのついた膝蹴りがロゴー・ハーオンの腹部にめり込んだ。たっぷりと体重を乗せた、カウンターの一撃。


 カランカランッ


 ロゴー・ハーオンは短剣を二本とその場に落っことすと、前のめりにゆっくりと倒れた。



『おおおおお!!』 



 周囲の歓声、フィリップ王とエリック王子も立ち上がって拍手をしている。セリューは、信じられないという表情のまま固まってしまっている。


 トリスタン・ストラムが大声を発した。



「勝負あり!! 両者そこまでである!!」



 ようやくここでセリューが我に返ると、部下に命じてロゴー・ハーオンの無事を確かめさせて訓練場の外へと運び出した。もちろんちゃんと手加減したし、大丈夫なんだけどね。



「アテナ王女、よろしいか!!」



 唐突の声に振り向く。すると、そこにはまた別の将軍らしき二人の男が立っていた。


 そう、確かこの二人はロゴー・ハーオンと一緒にいた二人。つまり別のパスキア四将軍だった。

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