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第933話 『ロゴーとの試合 その2』



 私がまだ幼かった頃。とってもとっても可愛らしかった頃に、師匠がとても失礼な呼び名で私を呼んだ。お転婆姫と――


 それから事ある事にそう呼ばれ、ムッキーーってなった私は、師匠に襲い掛かった。不意をついたってかなわない。どうやったって、その頃の私じゃあの師匠に、一撃すら入れられないって知っていたから本気で襲い掛かった。


 その時のお転婆姫って呼ばれていた事を思い出して、その手で行こうと思った。私が手のつけられない程のお転婆なら、フィリップ王やメアリー王妃も、私とカミュウの縁談を反対するはず。幸い、セリューとセリューの部下には、もう既に嫌われているみたいだしね。


 その為の演出――せっかくだからとことんやった方がいいかなと思った。それで真剣勝負する事になるよう挑発してみたんだけど、セリューとパスキア四将軍のロゴー・ハーオンは、見事に乗ってきた。


 だけどフィリップ王は、気乗りをしていない。剣の勝負を観戦して楽しむのはいいけれど、血を見るのは好ましくないと思っているのかもしれない。それにもしかしたら、国際問題に発展するかもという事も、考えているのかも。


 私は、エスメラルダ王妃の方を見た。目が合うと、彼女は何かを察したようで、今度はエドモンテに目配せする。するとエドモンテが、てくてくと私の隣にまで歩いてきた。



「まったく姉上は……問題を起こして、この縁談をどうやっても失敗させるつもりですね」


「私は嫌だって最初から言っているのを、知っているでしょ。それで、なんなのよ」



 エドモンテは溜息を吐くと、フィリップ王に一礼した。



「陛下。姉上は、剣の腕に関しては、我が国が誇る将軍達とも互角以上に渡り合える腕を兼ね備えております。そしてセリュー王子の直轄配下であらせられる四将軍も、とてもとてもお強いと耳に致しました」


「そ、それはそうじゃがな。いったい何が言いたい? エドモンテ王子よ」


「ですので、真剣勝負でも問題ないかと思われます。剣の達人同士ともなれば、それが例えば試合など、命のやり取りでない場合は、それなりの戦い方を心得ておるものです。それに使用するのは真剣でも、寸止めで勝負を決します。それならば、特に問題がないかと思われますが」



 フィリップ王は、困った様子でセリューの顔を見る。すると彼は、頷いた。続けて今度は、ブラッドリーの顔も見た。王は、パスキア最強であり、この国の双璧と呼ばれる彼の意見も聞こうとしている。



「実は先ほど、少しだけアテナ王女の腕を覗かせて頂きました。はっきり言って、達人かそれ以上のレベル。真剣勝負をしたとしても、特には問題ないでしょう」



 ブラッドリーはフィリップ王にそう言うと、エスメラルダ王妃にも視線を送って頷いた。それに対してエスメラルダ王妃も、軽く頭をさげる。その光景に私は驚いた。そう、これから行う試合の事よりも遥かに――


 だってあのプライドの塊で、常に人を見下して生きているようなエスメラルダ王妃が、王族でもない者に頭を下げたのだから……


 やっぱり、それはブラッドリー・クリーンファルトが、他国にまで名が届く程の名将だからなのだろうか。



「ふむ、解った。それでは真剣勝負を認めよう。じゃが、お互いに怪我はさせんようにな。それではあまりに長引かせても、メアリーが心配を始めるでな。やるなら、さっさと始めるとしよう。武器は互いに使い慣れた物、もしくはこの訓練場にあるものを使うがよい」



 ロゴー・ハーオンが私の目の前に立った。双剣。



「これは、剣士同士の試合。命の奪い合いではありませぬが、勝負するからにはその一歩手前まではいくと覚悟して下さい」


「もちろん。あなたもね」



 ロゴー・ハーオンの私を見る目は、明らかに敵を見る目だった。


 酒場での一件、彼も根に持っている。私とロゴーの丁度間に、真っ白なフルプレートメイルの男が立った。審判なんだろうけど、てっきりそれは、長男のエリック王子かブラッドリーが務めると思っていた。


 つまり、この人もフィリップ王に審判を務める事を任されるような人物という事になる。



「それでは、今この場にいる誰もが注目してやまない試合!! 我が国が誇るパスキア四将軍が一人、ロゴー・ハーオン殿と、クラインベルト王国のうら若き天才剣士だと称されるアテナ王女!! この二人の歴史的腕比べを、不肖ながらこのトリスタン・ストラムが務めさせて頂く!!」



 えええ!! トリスタン・ストラム!! この真っ白い鎧を着た大男が、ブラッドリーと並び、パスキアの双璧と言われる男。現パスキアの英雄的存在。



「それではお二人ともよろしいか!!」



 トリスタン・ストラムが、私とロゴー・ハーオンを交互に見た。


 ツインブレイドを抜くと、トリスタンは「始め!!」と声をあげようとした。しかしその直前に、訓練場に大男がズカズカと入ってきて、トリスタン・ストラムと同じように私とロゴー・ハーオンの間に立った。予期せぬ飛び入りで、全員が驚く。



「いきなり邪魔をするが、許されたし!! トリスタン・ストラム程の英雄が、審判を務めて頂けるなればこの上ない事だが、やはりパスキア王国の者である事は違いないのでな。これが単なる余興だとしても、家臣である者は、主に恥をかかせたくはない。よって、この俺はクラインベルト王国側審判としてトリスタン・ストラムと共にこの試合の審判を務めさせてもらう!! よろしいか、フィリップ陛下!!」


「え? いや、その……あ、うむ」



 ここぞという時に、ヒーローのように現れるトリスタン・ストラムにも負けない大男。そしてちょっと前にも、私と仲間達をドルガンド帝国の刺客から盾になって助けてくれた人。



「無事だとは思っていたけど、来てくれたんだ。アシュワルド」


「御意、姫様」



 クラインベルト国境警備司令官、アシュワルド・ブラスコネッガー。


 パスキア王国にもトリスタン・ストラムと、ブラッドリー・クリーンファルトという英雄がいるように、私の国にもゲラルド・イーニッヒと並ぶ、このすっごく頼りになる守り神がいる。


 お父様やエスメラルダ王妃を押し切って冒険者になった時、私は自分一人で何事においてもやっていく決意をした。


 なのに……なのに、お父様にゲラルド、爺、それにアシュワルドには、いつもこうして私の心配してくれたり、支えてくれているのだなって痛感した。

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