表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
928/1402

第928話 『訓練場へ向かいながら』



「あれ? マリンは、わたくし達と一緒にいかないのかしら?」


「うーん。どうせ結果は、見えているから。それよりも……」


「解ったわ。直ぐに、マリンに書庫の鍵を届けさせるわ。でも書庫は結構広いし、王宮内に3か所もあるの。蔵書も物凄い量だから、もしかしたらお目当てのものがあるかもしれないけれど、探すとなるときっと骨が折れるわよ」


「なるほど、それは興味深い。望むところだよ。それじゃ、頼むよ」



 マリンは相変わらずベッドの上から降りようともせずに、そう言った。そんな訳で私は、クロエと共に訓練場へと向かう。もちろん、イーリスとカミュウ王子も一緒。


 向かうまでの途中、イーリスがクロエに近づいて手を握った。



「ひ、ひっ!」


「変な声をあげないで。あなた、目が見えないのでしょ。仕方がないから、訓練場まではこのわたくしが、手を引いて連れて行ってあげますわ」


「ええ!? お、おお、王女様がわたしの手を!?」


「なに? わたくしでは不服かしら? アテナお姉様がわたくしの本当のお姉様になれば、アテナお姉様のお友達であるあなたも、必然的にわたくしのお友達になるのですから、当然でしょ」


「わ、わ、わ、わたしが、王女様とお友達!? そ、そんな……そんな事……」


「クロエ。こういう時は、ありがとうって素直に言えばいいのよ」


「あ、ああ、ありがとうございます!!」



 クロエとイーリスが手を繋いだ。それを後ろから微笑ましく眺める。


 パスキア王国には、むかーし私が幼い頃、まだ師匠とも出会っていない時に、お父様やお母様、姉のモニカと一緒に一度だけこの国に訪れた。その時には、イーリスにもカミュウ王子にも会っていない。二人とも、まだ産まれていなかったから……


 あれからこの国には、ずっと来てはいない。この国が今はどうなっていて、どんな人達が国を動かしているのかも解らないけれど、少なくともイーリスとカミュウは、とても好感の持てる感じの子達だと思った。


 クラインベルト王国だって一枚岩ではない。パスキア王国も同じなのだろう。


 前を歩く、仲良く手を繋ぐ可愛い二人。イーリスはこちらを振り返り、カミュウ王子の方を向いて何か目配せをした。ふむ、さては何か仕掛けてくるな。


 そう思っていると、カミュウ王子が私の直ぐ隣に来た。



「ア、アテナ王女!」


「アテナと呼び捨てにして頂いて、結構ですよ」


「う、うん。じゃあ、アテナも普通にしてくれ。僕の事もカミュウで」


「じゃあ、これからは、親しみを込めてカミュウって呼ぶね」


「え? う、うん」



 カミュウは、また顔を赤らめた。これだけ可愛いとなると、もしも女の子に生まれていたらモテモテだっただろうね。


 訓練場に向かいながらも、会話を続ける。



「アテナは、怖くないの?」


「え、何が?」


「だ、だって、セリューは凄く怒っていたよ。それにこれから、ロゴーと勝負するんだよ! ロゴーはパスキア四将軍で、物凄く強いんだよ! アテナも強いって噂を聞いたけれど、でもパスキア四将軍は最強なんだよ!」


「へえ、そうなんだ。それなら、パスキアの双璧。トリスタン・ストラムとブラッドリー・クリーンファルトとでは、どちらが強いのかな?」


「え? そ、それは……きっと互角位かな。トリスタンやブラッドリーも物凄く強いから。しかもトリスタンの弓は、百発百中なんだよ」


「百発百中!! そんなに凄いの?」


「うん。メルクト共和国の……今はもう独立したっていうか、もともと国の一部だったけれど自治都市があってね。リベラルって所なんだけれど、そこでトリスタンはあの伝説の弓、『フェイルノート』を手に入れたんだ。トリスタン自身は、奇跡的な出会いだったって言っていたんだけど……僕は必然だったと思っている」



 『フェイルノート』。特急品の弓で、私も名前くらいは知っている。ゲラルドが欲しいって言っていたのを耳にして、彼が欲しいっていう位のものだから、どれ程のものなんだろうって思って、その時に調べたんだっけ。


 矢を放てば、その矢が自動で獲物目がけて飛んでいくという極めて特殊な弓。弓が下手でも命中させるというけれど、それを弓の名射手が使うとどうなるのか――



「と、兎に角、お願いだ。僕は血が見たくない。しかもこんな試合だなんて、無意味だよ。僕とイーリスも一緒に謝るから、アテナは、セリューに頭を下げて許しを請うて欲しい。それで丸く収まるから」



 心配して言ってくれているのは、解るんだけど……


 訓練場に到着。少し時間が早かったせいか、まだ人は集まっていなかった。見渡すと、一人の男が木に吊り下げられたサンドバッグを延々と叩いている。


 黒髪長身、カイゼル髭のよく似合うその男は止まることなくサンドバッグを殴り続けていたが、やがて私達の気配に気づくと殴る事をやめてこちらに歩いてきた。そしてイーリスとカミュウに向かい、跪いた。イーリスが声をかける。



「楽にしていいわ、ブラッドリー」


 !!



 ブラッドリー!! この人が、パスキアの双璧と名高い、ブラッドリー・クリーンファルト。


 確かに強者の持つ、何かそういうオーラのようなものを感じる。そういう気配を勿論、師匠やゲラルド、アシュワルドも持っている。


 あっ、そう言えばアシュワルド、大丈夫かな。パスキアへ入国して直ぐに、ドルガンド帝国の将軍二人と、ルーラン王国の騎士らしき女に襲われた。


 ジーク・フリートとジュノ・ヘラー、あとルーランの騎士はベレスと言っていたような気もするけれど……


 あの二将の強さは底知れない感じで、途中でアシュワルドが現れて後を任されてくれたけど……彼の事だから絶対大丈夫だとは思うけれど、やっぱりちょっと心配かも。



「イーリス様、カミュウ様。このような所に、いらっしゃるなんて。どうされましたか?」


「そういえば、ブラッドリーは、玉座の間に居なかったものね。実はね――」



 イーリスは、パスキアの双璧と呼ばれる名将ブラッドリー・クリーンファルトに、セリュー王子とパスキア四将軍との事……表向きには、その問題を試合で解決させると言っているけれど、それを余興にしか思っていない父、フィリップ王の事などを話した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ