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第924話 『セリュー・パスキア その2』


 玉座の間にいる者達の視線が、私に集まった。


 ううーーん、どうしたものか。私がセリュー王子の子分をら伸しちゃったのは事実。エスメラルダ王妃とエドモンテ、二人の信じられないという視線と共に、離れていてもじりじりと伝わってくるセリューの怒り。


 酒場に押し入ってきて、無礼を働いたうえに挑んできたのは向こうから。だけど他国の私が、どう言い訳をすればいいのか。どうしたものかと考えていると、メアリー王妃の隣にいた女の子が大笑いし始めた。



「オーーッホッホッホ! クラインベルトの第一王女と、第二王女のお話はよくお耳にしますけれど、やはり第二王女のアテナ様はとてもユニークな方ですわね。我が国へ入国するなり、もうセリューお兄様の部下を倒してしまうなんて! これじゃセリューお兄様も、その自慢のパスキア四将軍と言われた者達も形無しですわね」



 綺麗なドレスに身を包んでいる4人のうちの1人……一番高い身長からして、王女の誰かという事は推測できるけれど……



「なんだと、ミネロッサ! それは大きな間違いだぞ! 我がパスキア四将軍は、アテナ王女とは、別に正式に試合をした訳ではない。ロゴーの油断が招いた結果だ」


「先ほど、セリューお兄様ご自身がおっしゃったではありませんか。打ちのめされたと……っぷ、フフフフ」


「おのれ、ミネロッサ!」



 ミネロッサと言えば……昔、会った事があるかも……幼い時の記憶が少しずつ蘇ってくる。


 確か、パスキア王国の第一王女。もっと幼い時にお父様やお母様達とパスキアへお邪魔した時に会って、少し遊んでもらった記憶がある。私の姉のモニカとも、仲が良かったかな。


 玉座の間から退席しようとしていたフィリップ王が、溜息を吐いてセリュー王子とミネロッサの間に口を挟む。



「やめんか、お前達。ここにおるのは、クラインベルト王国の王妃と王女だぞ。慎め」


「いえ、父上。このままでは、このセリュー・パスキアが軽んじられます。私の直轄の配下であるパスキア四将軍は、パスキア最強の将軍達です」


「そうかの? 確かにハーオン達パスキア四将軍は、我が国が誇る将軍達である事は違いないと思うが……トリスタンとブラッドリーこそが、最強であると思うが」



 トリスタンとブラッドリー。その名が出ると、エスメラルダ王妃は明らかに表情を崩した。それがどういう心境でなのかは解らないけれど、驚いているように見えた。


 だって、トリスタン・ストラムとブラッドリー・クリーンファルトという二人の将軍は、今や他国にもその名が轟く名将なのだから。



「それなら改めて、アテナ王女と試合をさせてもらいたい」


「はあ? それは、ロゴーとアテナ王女で試合をするという事かの?」


「そうです、父上」



 セリュー王子のとんでもない発言で、玉座の間は更にざわついた。


 エドモンテが私の隣に来て、囁くように言った。



「本当なのですか、姉上?」


「なにがよ」


「呆れた。話を聞いてなかったのですか?」


「聞いてたわよ、うっさいわね! 私がセリュー王子のお使いを、伸したかどうかって話でしょ。伸したわよ」



 エドモンテは、溜息を吐く。呆れた溜息。



「まったく、姉上は……どうしようもない人だとは思っていましたが、本当にどうしようもないですね」


「キーーーー、何よ!!」


「それで、そのセリュー王子の配下」


「パスキア四将軍のロゴー・ハーオンさんね」


「そう、その男と再戦したとして、姉上は勝てるのですか?」


「そりゃー、勝てると思うけど。でもね、勝負っていうのは時の運だから、勝てるからって油断していると足元をすくわれるし、その日のコンディションだってあるから。師匠が言うにはね、そのコンディションを整えておくのは当然の事で、戦いはその試合が始まる前から始まっているから……」


「もういいですよ、姉上。その話は興味ありませんから」


「なによ、キーーー!! 聞いてきたのは、あなたでしょ!」


「それでは、勝てるという事でいいですね。それならこれは、望む所という訳だ。姉上を高く売り込める」



 エドモンテはそう言って、私の前に出た。セリュー王子とフィリップ王に顔を向ける。



「今日、我々がこの素晴らしき英雄達の集う国、パスキアを訪れた理由は我が姉の縁談を進める為です」



 頷くフィリップ王と、メアリー王妃。



「ですがその前に、私の姉はパスキアの守護者である四将軍の1人、ロゴー・ハーオンと問題を起こしてしまいました。ですので、ここはセリュー王子の言われる試合――つまり決闘で、丸く収めたい……どうでしょうか? 」



 エドモンテの決闘という言葉を聞いて、周りの者達がざわめき、驚きの声をあげる。



「ちょ、ちょっとエドモンテ」


「姉上、黙っていてください。セリュー王子は、信頼している子飼いの部下が姉上のような能天気なお調子者なんかにやられてしまって、気が立っています」


「言い方!! な、なによ、それ!!」


「それに姉上の狂暴さも疑っていますよ。ですからこんな引くに引けないような公の場で、セリュー王子はこのような事を申されてしまったのです。ですからこの場は、さっさと話しに乗って、片付けてしまえばよいのですよ。幸いその力が、姉上にはある。大事なのは、縁談と同盟」


「エドモンテ……あなたね」


「勝てるのでしょ?」


「勝てるよ」


「それじゃ、特別問題はありませんよ」



 エドモンテの発した決闘の申し出。セリューは、フィリップ王と向かい合い、私とパスキアが誇る将軍のどちらかが強いか、はっきりさせておきたいと言った。



「ふむ、確かに余も興味はある。アテナ王女の噂、色々と耳にしておるしな。しかし決闘は認められん。他国の王女の命を奪う事になってしまった場合、間違いなく国同士の問題に発展し、戦争になるやもしれんからな。それに余は、アテナ王女の幼き時を知っておるのでな。よって、決闘は認めん代わりに試合を許可しよう」



 ものは言いよう。公の場で、こう言っておけば、もしもの事が起きても……って事なのかな。


 こうして2時間後、私とパスキア四将軍ロゴー・ハーオンとの試合が行われる事になった。

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