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第921話 『ボクはしがない魔法使いさ』



 ――――パスキア王国王都、パスキア城。


 私はルシエル、ルキア、ノエル、カルビの4人と別れ、マリンとクロエと共にパスキア城へ入城した。


 城門に着くと、そこには鎖鉄球騎士団副長のガイ・メッシャーが私の到着を待っていて、そのままスムーズに城の中へと誘導してくれた。



「ご苦労様、ガイ」


「はっ! ゾルバ団長は、ゾーイ・エルや他の騎士団と共に王妃の護衛にあたっておりますので、私が客間へご案内致します」



 ゾーイ・エル。まあゾルバがここへきているんだから、当然いるとは思ってはいたけれど、そうなんだ。やっぱりあの前髪ぱっつんの黒髪鉄球娘もいるんだ。


 あれ?



「ガイ?」


「はっ!」


「このまま直ぐに玉座の間に通されると思っていたんだけど……」


「殿下には一度、客間の方へと移動して頂きます。こちらもそうですし、あちらもまだ用意ができていないとの事でありますので」



 マリンと顔を見合わせる。



「ボクに聞いても、こういう事は全く解らないよ。なんせボクは、王族でも貴族でもないからね。単なるしがない魔法使いさ」


「なにそれ、いつも自分の事を自分で偉大な魔法使い的な事を言っているじゃない」


「そうだっけ? 忘れたよ」



 マリンとそんな下らない会話を続けていると、客間についた。クロエは、ずっとおどおどとして少し震えているので、私は彼女の手を優しく握った。



「あっ……アテナさん……アテナさん、わたし……」



 目が不自由でも、クロエはこの物々しさを感じ取っている。


 マリンが今さっき言ったことだけれど、王族でも貴族でもなく、ブレッドという名の喫茶店の盛んな街で暮らしていた普通の街の住人のクロエにとっては、隣国の王がいるお城にやってくるなんて、想像を絶する緊張をしている事だろう。



「クロエ、大丈夫だから安心して。私もマリンも一緒にいるし、もっとリラックスしていいから」


「そうだよ、ボクみたいにね」


「マリンは、ちょっとリラックスし過ぎだと思うけど」


「えーー、そうかな?」


「それじゃ、中に入るわよ」



 ガチャリッ



 ガイが客間の扉を開けて後ろへ下がと、私は彼に「ありがとう」と言って、部屋の中へと入った。



「やっと来たようですわね」



 部屋に入るなり、エスメラルダ王妃に睨まれた。


 見回すと、部屋の中には他にエドモンテと、エスメラルダ王妃の連れてきた侍女達がいた。二人とも椅子に座っている。


 そう言えば考えていなかった。この二人と一緒に、パスキアの面々に会うんだった。


 まいったなーー。いつもは、お父様やルーニが間にいてくれたりするからいいんだど……とてもやりにくい。



「何をしているのですか、アテナ。さっさとこちらへ来て、まずは座りなさい」


「はーーい……」



 嫌だな嫌だな、帰りたいな帰りたいなって思いを胸に抱きながらも、エスメラルダ王妃とエドモンテ――二人と対面する席へと座る。そして私の両隣に、マリンとクロエが座った。


 私にとっては、いつもの事だし特に何も問題のない事だったけれど次の瞬間、エスメラルダ王妃は烈火の如く怒りを見せた。



「無礼者!!!!」


「はい? な、なな、なに!?」


「なんなんですか、この汚い者達は!! 何処から連れてきたのです、全く汚らわしい!!」



 激しい王妃の怒りにも、マリンは全く動じていない様子。対してクロエは震えていて、慌てて立ち上がろうとした。そんなクロエの腕を掴んで、再び座らせる。



「エスメラルダ王妃。もしかしてそれは、ここにいる私の大切な友人に対して言っているのではないですよね」


「友人? この者達が? 何処の貧民街から拾ってきたんだか解らないこの者達が、あなたの友人……まったく、信じられないわね。馬鹿も休み休みに言いなさい!」



 マリンとクロエは、私の大切な友人だと言った。なのに王妃は……私の大切な人達を侮辱するなんて……許せない。やっぱり私は、この人が大嫌いだ。この人は、私やモニカのお母様の代わりになんて、絶対になれない。


 友人を侮辱されて、頭に血が上る。エスメラルダ王妃に対して、「謝って!!」と大声で言いかけた。その時、マリンが呟いた。



「誰? この偉そうなおばさん」


 !!!! 


「お、おばさん!! おおおお、お、おばさんだと、言ったのか⁉ このわたくしの事をおばさんだと、この汚らわしい何処で拾ってきたかも解らぬ端女如きが、このわたくしに向かっておばさんと……許せない……許せないわ」


「え、おばさんじゃないのかい? なるほど、そうでなければ、おばさんに見えるだけで実年齢は、もっと若いとかそういう事なのかい。それなら、失礼したね。いや、でもそれでも別に、謝る理由にはならないと思うけれど。ボクはあなたに対してちゃんと、さんってつけているし」


「っぷ!」



 エスメラルダ王妃に対してのマリンの態度。それが面白すぎて、噴き出してしまった。クロエは、もう今にも倒れてしまいそうな位に、真っ青な顔になってしまっている。



「ぐぬぬぬぬ!! 端女、お前名前はなんという!!!!」



 私が笑った事に気づいたエスメラルダ王妃は、更に顔を真っ赤にして怒った。そしてマリンに対して、鬼の形相で迫る。



「ボクは端女でも召使でもないよ。しがない魔法使いだ。さっきアテナが言ってくれたように、ボクもアテナの事を友人だと思っている」



 エスメラルダ王妃は、目の前のテーブルに置いてあったティーカップを手に取ると、マリンに向かって飲みかけの紅茶をかけた。



「無礼な!! 下賤の者が王族に対して、なんたる口の利き方!! 友人だというのもおこがましい!!」



 バシャアッ



 エスメラルダ王妃が、マリンに向かってかけた紅茶。ここまでエスメラルダ王妃が怒るなんてちょっと予想だにしなかったけれど、更に予想できない事が起きた。


 紅茶はマリンにかからずに、マリンのすぐ目前で静止する。更にスライムのように宙でふよふよと浮遊しているかと思うと、マリンがパチンと指を鳴らすとエスメラルダ王妃の持っているティーカップへと戻った。


 それはまるで、時を巻き戻しているかのような光景で、私だけでなくエスメラルダ王妃やエドモンテまでもが言葉を失う程に驚いていた。

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