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第92話 『デスマッチレース その3』 (▼ルシエルpart)







 先頭集団で戦闘を繰り広げているオレ……


 先頭で戦闘……ぷぷぷぷ。


 どうやら今日のオレの、レースの走りっぷりとジョークのキレは、両方ともかなり調子がいいようだ。フハハ! これならいける! いけるぞ! そう思っていたら、ランスの先端部分が飛んできた。



「っと! あぶねえ!!」


「くっ! 避けられたか。エルフってのは、こんなにも素早くて反射神経に優れているのか!!」


「アチキが仕留めてやるよ!!」



 刹那、ボルトのランスとチギーの槍がオレを襲ってきた。なんとか、かわしたがチギーは騎乗しているオレの足ばかりを狙ってきやがる。まったく、嫌な攻撃をする。ボルトは、真後ろに着くと、ランスを前方へ倒して突撃をかましてきた。それも、どうにか避けるが2対1は、流石にきついなー。


 ついさっきまで、先頭集団はオレを合わせて6人走っていた。だがボルトお得意の、狙いをすました後方からのランスの突撃で、前に出た3人は蹴散らされてしまった。


 第4と書かれたチェックポイントを通過してから、もうずっとこんな戦闘を繰り広げている。



「大怪我しないうちに、いい加減リタイアした方がいいよ!! 優勝は、アチキが頂いてやるからさー!」



 そう言って槍を突き出してくるチギー。その攻撃を弓で受けつつ、そこから矢を放つ。チギーはそれを槍で弾いた。これは、なかなか歯ごたえのある相手だ。


 第7チェックポイントを通過した。ここを通り抜けると、折り返してカッサスの街へ引き返す。いよいよゴールが見えてくる。


 チェックポイントを通過し先頭を走る者同士でやり合っていると、すぐ後方の集団から、雄叫びや悲鳴があがった。何事かと、オレに続いてボルトやチギーもそちらを振り返った。



「なんだ? 魔物の集団か!!」



 ――――ケンタウロス。上半身が人で、下半身が馬の魔物。剣や槍、弓矢を装備している。――角笛の音。軽く40匹以上はいそうだ。そして奴らが徐々に接近してくるにつれて、奴らの狙っている獲物が、レースに参加しているオレ達全員だという事が解った。



「かかってくるなら、かかってこい! 皆、返り討ちにしてやるぞ!!」



 騎手同士の戦いに加えて、ケンタウロス集団の襲撃も含めての大乱戦となった。この中継が流されているレース場は、きっと観客達も大興奮で大盛り上がりになっているだろう。


 ボルトが迫りくるケンタウロス達と戦闘しているのが目に入った。よし、今のうちにチギーと決着をつける。チギーの方へ弓矢を構えると、チギーもこちらを向いて構えていた。向こうもそのつもりのようだ。


 チギーの足を狙って矢を放つ。しかし、矢は槍で払われた。



「ヒャハハ。そんな矢がアチキに通用すると思ってんの? 今度は、こっちの番だから覚悟しなよ!! ルシエル!」


「面白い。じゃあ、かかってこい。言っておくがオレは、まだまだ全力じゃないからな」


「エルフが!! 言ってろーーっ!!」



 チギーが槍の穂先を向けて、接近してきた。ここで決める。オレは、矢筒から一度に矢を2本指に挟んで取り出した。そして、その2本を一緒に弓に添えて引き絞った。



「やああああ!! ルシエル! 覚悟おお!!」


「チギー! オレの勝ちだ! ――――二連式射撃矢(ダブルスナイプ)!!」

 


 ――――十分引き付けて矢を放つ。1本は槍で弾かれたが、もう一本は深々とチギーの左肩に突き刺さった。悲鳴。チギーの騎乗するクルックピーの速度が落ちていく。その後ろから剣を持ったケンタウロスがチギー目掛けて追い上げてくる。



「嘘だろ? まずい! チギーー!! 後ろから、ケンタウロスが接近しているぞ!! どうにかしろ! 殺されるぞ!!」


「え?」



 チギーの真後ろにまで迫ったケンタウロスが、チギー目掛けて迫り、剣を振り上げた。首を刎ね飛ばす気か⁉



 グオオオオオオオ!!



「ひいいいい!! 嘘--!! アチキ、まだ死にたくなーーい!!」



 ――――剣。首が刎ね飛ばされた。



「へ? アチキ、助かった?」



 アテナだった。刎ね飛ばされた首は、チギーではなくケンタウロスのものだった。アテナが、ケンタウロスの首を刎ね飛ばして、チギーを救ったのだ。



「ルシエル!! このまま優勝を狙って賞金ゲットよ!!」


「ああ!! もちろんだ!!」



 立て札。第9チェックポイントと表記してある。レースももう終盤だ。


 ――――更にスピードをあげて爆走中。先頭集団は順に、オレ、アテナ、ボルト。それにジェニファーがここであがってきた。その少し後ろの方に、ヘルツと肩を負傷したチギー。他の騎手は、リタイアしたか更にもっと後続を走っているのか姿が見えない。


 ――殺気。少し後ろの方からだ。振り返って見ると、その殺気の出何処が解った。なんとヘルツだ。身内で上位入賞は望みだと言っていたが、やはり優勝は自分のものにしたいようだ。ボウガンで狙われている。狙いは肩か――面白い。


 オレは走り続けるクルックピーの背中に両手をついて、立ち上がった。疾駆するクルックピーの背に立つオレの姿を見てボルトやジェニファー、チギーだけでなくアテナも驚いている。さあ、こいこい。


 ヘルツもその光景に一瞬怯んだようだが、オレ目掛けて矢を放った。狙いはやはり肩。



「すまーーん!! ルシエル!! 俺ッちも、優勝してーんだよ!! 申し訳ないが、堪忍してつかーさいっ!!」



 だがあまいぞ、ヘルツ! ヘルツが放った矢を、オレは肩に突き刺さる直前で掴んだ。



「嘘だろおおお!! そんなの人間業じゃねえぞ!!」



 ヘルツの雄叫び。



「当たり前だ! エルフ業だ!!」



 掴んだヘルツの矢は、お返しとばかりにすぐさまヘルツ目掛けて打ち返した。ヘルツの「ぎゃっ!!」っという悲鳴。もちろん、狙った箇所は肩だ。


 オレは再びクルックピーに跨り、ゴールを目指す。いよいよ第10チェックポイント通過だ。


 ここからは、再び武器の使用は禁じられ、通常レースのルールでゴールを目指す。カッサスの街も見えてきた。


 先頭をオレ、続いて順にボルト、アテナ、ジェニファーだ。


 ワーーーーっていう歓声が聞こえてくる。――――気分がいい。オレを応援してくれる多くの声が聞こえてくる。


 街に入った。そこで、アテナとジェニファーがボルトを追い抜いた。



「ルシエル!! 勝負よーー!!」


「アテナか!! おもしろい!! だがアテナには悪いが、ここはやはりオレがチャンピオンになるぞ!!」



 アテナの後ろにジェニファーが、がっちりとついてくる。


 オレは、吠えた。




「いけええええええ!!!!」




 ――――ゴーーーール!!!!




 その時、観客席で立ち上がって必死に応援している、ルキアとハリルの姿が見えた。


 司会者が、レースの結果を発表する。




「優勝は、ルシエル・アルディノア!! 優勝は、ルシエル・アルディノアです!!」




 ――――歓声が広がる。大地が揺れている。




「準優勝は、アテナ・クラインベルト! 続いて3位、ジェニファー・ローランド! 4位、ボルト・マックイーン! 5位、ヘルツ・グッソー! 6位、チギー・フライド! ………………」




 クルックピーに乗って、悠然とレース場を歩き回る。オレは両手を掲げ、鳴りやまない歓声を浴びた。


 エルフの里では、何もなかったこのオレが、今はこの大勢の人たちに賞賛されている。


 アテナとジェニファーも、近くに来て笑顔でおめでとうと言ってくれた。最高だ。



 やった。オレは、クルックピーレースのチャンピオンになった。


 






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ケンタウロス 種別:魔物

上半身が人で、下半身が馬の魔物。集団で行動し、集落を作りそこで暮らす魔物。好戦的な性格で、人を見つけては襲って金品や装備を強奪する。その際、人を殺したりはするが人肉は食べない。基本的には狩りをして、獣を食べる。火も使える魔物で、剣や槍や弓を好んで武器にする。人馬一体となっている為、白兵戦においてはかなり危険度の高い魔物。


〇角笛 種別:アイテム

ケンタウロスだけでなく、ゴブリンなどもの魔物も好んで使用する獣の角で作った笛。攻撃や撤退などの合図に使用したりし、中には時計の持たない魔物の間ではコボルトなどがお昼や夜タイムの合図として吹いていたという話もある。もちろん、人間も使用している者もいる。


二連式射撃矢(ダブルスナイプ)

弓術。人差指、中指、薬指を使って一度に二本の矢を放つ技。熟練者になってくると、それで相手の喉と心臓を狙い射ちする事も可能。ルシエルは威力重視で、近距離からこの技を放つのが好きなようだ。


〇エルフ技

そんなものはない。ルシエルが言っただけ。しかし、相手の放った矢を目前で掴み、その掴んだ矢を使って射ち返すというアーチャーは実際にいる。もちろんそんな芸当は、誰でもはできない達人技である。


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