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第914話 『少し肌寒い朝』



 ――――早朝。


 目を開けると、直ぐ隣でクロエとルキアが横になっていた。その間には、カルビ。つまり向こうのルシエルテントには、ルシエルの他にノエルとマリンが一緒に眠っている。


 そう考えると、やっぱりちょっと窮屈だよね。パスキアの王都で、もしもいいテントが売っていたらルキアに買ってあげよう。っていうか、ノエルとマリン――二人にも各々買ってあげてもいいかも。


 マリンは、本がどうとか言っていたけど、パスキアについて自分の用事を済ませたら、セシリアとテトラのもとへ向かう予定だという。だからマリンへのテントは、いい餞別になるかもしれない。


 ふと可愛い3人の寝顔を覗きみると、ルキアがヨダレを垂らしていた。最近随分としっかりしてきたと思っていたけれど、考えてみればまだ9歳なんだよね。


 ハンカチを出して、緩みきったルキアの口を拭いてあげる。



「う……ううん……」


「おっと、起こさないように、起こさないように」



 朝が来たとは言え、まだ陽が顔を出していないだろうし早いからね。もう少し寝ていればいいと思う。なんせ、寝る子は育つというし、ルキアもクロエもカルビもまさに今は育ちざかりだしね。


 そんな事を言ってみる私も、実はまだ16歳。だけど3人よりは、お姉さん。



「そーーっと、そーーっと」



 ゆっくりと慎重に動く。眠っている3人を起こさないようにして、テントの外へと這い出た。


 うわーー、まだ薄暗いなー。でも空気が澄んでいて、ちょっと寒いけど気持ちがいい。



「北方の国に比べたら、ここはぜんぜんまだヨルメニア大陸の真ん中だけど、それでも国一つ分は、パスキアの方がクラインベルトよりも北にあるからね。その分は、きっと寒いよね」



 独り言を呟きながらも、ごそごそとテントの傍に置いていた荷物を漁る。


 マグカップと、手鍋と珈琲。朝は珈琲からやっぱり始めないと、シャンとしない。


 まだ薄暗い中、周囲を見回す。昨日、ルシエルとマリンが水を調達してくれた小川が直ぐ近くにあるはずなんだけど……確か、あっちだったかな。


 あった! 少し歩くと、小川があった。そこは私達のキャンプが見える程の近い距離。水の流れる音に癒されながら、手鍋を使って小川の水を汲む。一口……ごくりっ。


 ぶるる……



「美味しいけど、さっぶ! 物凄く冷たい水! まあ、解ってはいたけどね」



 今度は多めに水を汲み上げると、さっさとキャンプに戻って焚火に駆け寄った。あれ? 火が消えている。



「うーーん、薪を足さないといけないな」



 昨日既に集めてた薪を手にとって、それを焚火へと加える。そして棒を手に取り、焚火の中を少しいじくると、確かに赤く灯っている種火を見つけたので、それを弄る。程なくして、ボウっという音とともにまたメラメラと焚火は炎を燃え上がらせた。



「ふう、これでよし。それじゃ、これに手鍋を乗せて、湯が沸騰する間に珈琲を落とす準備をしておこうかな」



 以前から珈琲は大好き。キャンプとの相性もあってか、私の中ではお茶とともに必需品。午後一息いれたい時は、お茶だったりするけれど、やっぱり朝は珈琲。


 ブレッドの街でコナリーさんと出会って、色々と美味しい珈琲をおとす為のコツなどを教わった。


 あれから確実に珈琲のおとす腕は向上した感じがあるし、格段に美味しくなったと思う。いや、美味しくなっているのは間違いないかな。


 湯が沸くと珈琲を淹れて、それを愛用のマグカップに注ぐ。うーーん、いい香り。珈琲という飲み物は、味だけじゃなくて香りや雰囲気にも癒されるものだから、じっくりと楽しむ。


 ごくりっ


 まずは一口。



「ああ、美味しい。やっぱりこの朝起きて最初の珈琲は格別だなー。ふいー」



 焚火の前に座り込んで、ホッと一息。


 ゆったりと深呼吸して、辺りの空気を全身に取り込む。そして吐き出す。また珈琲を一口。



「あああ……美味しい……」


 ぶるるっ


「ふーーー、やっぱりちょっと寒いな。ちょっとマントか毛布、とってこよう」



 立ち上がって再び、テントの中へ入る。するとクロエが座っていて、なにやらボーーっとしていた。



「あれ? クロエ、起きちゃった?」


「は、はい。もう目が覚めました。それで手を伸ばして辺りを調べたら、アテナさんがいなくなっていたので……もう起きたのかなって……」



 手を伸ばして調べた? っていう事は、眠っているルキアや、カルビを触って確かめたんだ。そんな光景を想像してクスリと笑ってしまう。



「うん、ちょっと早く起きちゃってね。でも外は、まだ陽も昇っていないし、薄暗いし肌寒いよ。ルキア達もまだ眠っているし、クロエももうひと眠りしたらどう?」



 もじもじするクロエ。



「もしかして、おしっこ?」


「いえ……そうではなくて、アテナさんはもう眠らないのかなと思って」


「うん、もう完全に起きちゃったし、珈琲も入れて飲んじゃっているからね」


「そうですか……あの、わたしももう起きてもいいでしょうか?」


「え? まあそれは、クロエの自由だけど……後で眠くなるよ」



 クスリと笑うクロエ。私は彼女の手を引くと、マントと毛布を手に取ってまたテントの外へと出た。


 焚火の前にクロエを誘導すると、彼女は両手を火へ翳した。やっぱり寒そうにしているので、毛布を肩にかけてあげる。そして私はいつも愛用のマントを、身に着けた。

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