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第908話 『今はこの時を楽しもう』



 村で少し食糧やらを買って、再び馬車に乗り込んで出発した。


 御者をするのは、やっぱり私。そして隣には、今度はノエルが座っていた。



「それで、どうするんだ?」


「どうするって……何が?」


「このまま王都へ行くのかって話だよ。間もなくなんだろ、パスキアの王都?」



 そうなんだよね。実は、その事も既に考えていた。私はノエルの顔を見ると、にこりと笑った。



「な、なんだよ」


「王都に入ればさー、知っての通り私はお城に呼ばれて、野暮用を片付けなきゃならないんだよね」


「パスキアの王子、カミュウとの縁談だな」



 馬車の後ろの方で、ルシエルとルキアの騒いでいる声が聞こえる。すると唐突に、ルキアの止まらない笑い声が聞こえてきた。まーーたルシエルは、ルキアにコチョコチョ地獄をしているな。


 まあ、ルキアはとてもいい子だし物凄く可愛いから、ちょっかいを出したくなる気持ちも解らないではないけれど。



 でもちょっと騒ぎすぎじゃない? 馬車だって、ちょっと揺れているんだけど。マリンの「プフー」っていう、特有の笑い声も聞こえてくる。本当に旅を楽しんでいるなあ。



「それで、アテナはどうなんだ?」


「なにが?」


「パスキア王子との結婚だよ。ひょっとして、その可能性もあるのか?」



 ノエルが気になるのは、とうぜんだと思う。だってもし、パスキア王子と私の縁談がトントン拍子に進んじゃったら、私は冒険者もキャンパーも引退しなきゃだろうし。そうなったら、このパーティーは解散することになる。


 その可能性は、私的には完全にゼロなんだけど、もしもそうなったら皆どうなっちゃうのかなっていう、思いは正直ある。ルシエルはエルフの里に帰るのだろうかとか、ノエルもノクタームエルドに戻るとか……


 マリンはそもそもパスキア王国まで一緒に旅をしようって話だったし、セシリアやテトラと直ぐに合流しに向かうんだろうけど。



「あはは、ないない。これは断言しておくし、パスキア王子には悪いけれど、私は全く結婚する気はないから」


「パスキア王都には、アテナの義母であるエスメラルダ王妃と、弟のエドモンテ王子も向かっているんだろ? それでも結婚しなくてはならなくなった場合は、どうするんだ? 正直、可能性はあるだろ」


「あるけど、そうなったら私の全力をもってしてもパスキアを脱出します」



 呆れたような顔をして、仄かに笑うノエル。



「だって私、まだ16歳だよ。まだまだ世界を歩いて見て回りたいし、心躍る冒険だって続けたい。それにこの先、キャンプができなくなるなんて嫌だからね」



 ノエルの方へ身体を倒して、もたれかかる。



「お、おい!! どういうつもりだ、アテナ!!」


「くんか、くんか……」


「やめろ! ニオイを嗅ぐな!!」


「アハハハ、ノエルってなんか甘いミルクのいい匂いがふんわりして落ち着くんだよね」


「なんだよ、気持ち悪い……」


「まあ、だからさ。私は冒険者もキャンパーもやめる気はないから。この縁談はいわば、あれだから。ドワーフの王国をなんとかする為に、エスメラルダ王妃の鎖鉄球騎士団に助力してもらったから。そのお返しに、王子と会うだけならって言ったものだから」


「そうなのか」


「そうなの。因みに、パスキア王国にも幼い時に来た事がある程度だし、その時は王都から王都への旅で寄り道もせずまた帰るって感じだったから、どんな国だったのかよく覚えてないしね。だからこそ、今回は折角ここまで来たんだから、この国に何があるのか、色々と見て回りたいし」



 色々と見て回りたい――そういうと、ノエルは周囲を眺めた。見渡す限りは、平原が広がっている。


 そう、パスキア王国にもそりゃ森や山もあるけれど、大半は平原。クラインベルト王国よりも、広い感じもする。



「だけど流石に、あたし達全員でぞろぞろと城まで行く訳には、いかないだろうからな……」


「確かにそうだね。王都へ入ったら、私は皆と別行動になっちゃうと思う。クラインベルト王国なら、お父様やルーニも喜ぶし、皆を連れていけるんだけどね……」


「生憎、ここは他国だしな」



 表向きにもここへ来た名目は、私とパスキア王子の縁談。極めつけにエスメラルダ王妃と、あの憎ったらしいエドモンテまで来るとなると……パスキアの重臣の方々にも会う事になるだろうし、流石にそこへ冒険者仲間ですとノエル達を連れて行くのも……


 またエスメラルダ王妃や、エドモンテとバチバチして火花を散らす事になりそうだしね。


 ノエルは、笑った。



「まあ、いいじゃないか。アテナとルシエルとルキアだって、ノクタームエルドを旅してドワーフの王国に到着した時に、それぞれ別行動して色々楽しんだんだろ?」



 そう、私は二人にちゃんとした剣をプレゼントしたくて、材料になる鉱石探しやノエルのお爺さんのデルガルドさんに出会った。


 ルシエルもメール達とラーメンを食べに行ったり……あっ、ノエルも一緒に行ったんだっけ? そしてルキアは、ドゥエルガルの友達を沢山作ったんだよね。



「だからそれと同じだよ。また戻ってきてくれるなら、いいさ。あたしらはあたしらで、適当にパスキア王都を楽しんでいるから、アテナは気兼ねなくその野暮用とやらを片付けてきてくれ」


「ふふ、ありがとう、ノエル。くんかくんか……」


「やめろ!! だから、あたしのニオイを嗅ぐな!!」


「えへへ。それじゃあ、ここらで到着――」



 平原のど真ん中、木が少し生えている場所に馬車を停車させる。ノエルが首を傾げる。



「なんだ? 着いたって、着いてないじゃないか?」


「うん、でも着いたんだよ。王都に着いたら、私ちょっとお城に缶詰めになっちゃうかもだからね。その前にもう一回、キャンプを楽しんでおこうかなーって思って」


「なるほど、そういう事か。よし、お前ら!! 到着だ、馬車を降りるぞ!!」



 ノエルは馬車の後方に振り向くと、ルシエル達にそう叫んだ。


 パスキア王都での事を考えると、相変わらず気が重い。だけど今は、この時間を楽しもう。

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