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第903話 『絶品でした! カチャトーラ!』



「ふう、腹いっぱいだ」


「いやー、食ったね食ったね」



 とても満たされた顔をしながら、パツパツになったお腹を摩るノエルとルシエル。妊婦さんみたい。


 十分に満足した所で他の客席を眺めると、皆とても笑顔になっている。どうやら、私達はパスキア王国に入国するなり、とてもいいお店に入ることができたみたい。


 うーーん、でも気になるのはこのカチャトーラの味。とても美味しかった。トマトベースなのはとうぜんだけど、この味にはいくつか更に味付けがされている。



「ニンニクだ」


「え?」



 振り返ると、後ろに店主が立っていた。



「企業秘密だ。だから、これは独り言だ。ニンニク、バジル、ローズマリー、ローリエ。あとは、鶏肉や玉ねぎが素材の味を引き出してくれる。因みに調味料も至ってシンプル、塩と胡椒、それにオリーブオイルだ」


「へえ、なるほどなるほど。バジルとローズマリー、二つのハーブに加えて更にローリエが入っていて、よく味が喧嘩しませんね。それに胡椒は、高級品なのに……」


「通常は、ローズマリーだけだったりするんだろうが、うちはこれでやっている。胡椒については確かに高級品だがな。これがあるとないとでは違うし、なんと言っても味が引き立つ。知り合い価格で、仕入れてんだ。あと鶏肉にもこだわりがあってな、うちは兎肉はつかわねえ」



 カチャトーラという料理は、【ハンター】つまり狩人が得意とする料理だ。昔、何処かの地方で狩人が獲物を狩りに出かけた時に、一緒にちょっとした食材とトマトなど持って行って、獲物を仕留めるとその場で捌いて肉にして調理していた料理。


 それがとても栄養満点で、美味しくて一般的に知れ渡った。基本的には、鶏肉か兎肉で作ったりするらしいけど、どちらかというと私も鶏肉の方が好み。



「ありがとうございます、マスター。折角教えてもらったし、今度は自分で作ってみようかな」


「嬢ちゃんなら、間違えなく上手く作れる」



 店主は、今度は明らかに笑った。


 ようやくお腹もご満悦になったし、とびきり美味しいカチャトーラの事も聞けた。もう少し、ここでゆっくりと休みたい所だけれど、ずーーっとここに居る訳にもいかない。



「それじゃ、お腹もいっぱいになった事だし、そろそろ王都に向かおうか」



 再び出発する。そう告げると、ルシエルが嫌な顔をする。



「ええーー!! 今日はもうゆっくりしようぜー。もう、動きたくないよー」


「はいはい、駄々をこねるのはもういいから、さっさと準備しなさい。もう少しで、王都なんだから。ね、マスターそうですよね?」



 急にマスターにふる。だけどマスターは、ちゃんと答えてくれた。



「そうだ。お前ら王都に向かうってんなら、今直ぐここをたてば夜にはなるだろうが、今日中には王都に入れる」


「ほれ見ろー!! 夜になるっつっているぞ、おっさん!! 今日はもう、この村で宿でもとってゆっくりしよーぜ、なあ。いいだろう? 皆もそう思うよなー?」



 必死になって、皆に同意を求めるルシエル。



「私は、アテナの判断が正しいと思います」


「わ、私も同様です」



 ルキアとクロエの言葉に、地団太を踏むルシエル。



「でたーーー!! はい、でましたよーーー!! アテナの子分その1と子分その2が出ましたーー!!」


「こ、子分って……」


「うるせー、こうなったら仕方がない。ノエルとマリンは、オレと同じ意見だよな。ちょーっと休憩したいよな」


「休憩って言っても、お前が言っているのは、ここに宿泊するっていう意味だろ。ならあたしは、アテナに従う。大事な予定があるのはアテナだしな。勝手についてきたあたしは、それに合わせるまでだ」


「くっそーー!! ノエルめ、お前もアテナの手先か!! ならマリンは! マリンはどうだ? ああん?」


「ボクは、どっちでもいいよ」


「あ、そう。ならマリンはこっちだ!! こっちさ来いマリン!」


「え? ちょっと引っ張らないでほしい。やめないか、ルシエル。ちょっと……」


「うるせー、こっちさこーーい!!」



 マリンと戯れるルシエルをよそに、店主にお会計を払う。



「とても美味しかったです。ご馳走様でした」


「そうか、ならまた食べにくればいい」


「是非また食べにきますよ。カチャトーラは食べたから、今度は私もハンバーグを食べようかな」



 ルキアとクロエが、仲良く微笑む。



「すっごくハンバーグ美味しかったですよ」


「プリンもです! プリンも凄く美味しかった」



 ルキアとクロエの反応に、店主は凄く満足げな表情をした。


 なるほど、やっぱりドワーフの王国で知り合ったジボールと同じで、一見とっつきにくい感じの人でも、この店主のように実は、とても優しい人っているんだなってしみじみと思う。



「それじゃ、次はハンバーグを注文しますんで。ご馳走様でした」


「ああ。また懲りずにこい」


「ほら、ルシエル、マリン! 行くよ」


「えーーー、まとわりついてきているのは、ルシエルなのに、なぜボクが怒られるのー?」


「いつまでも、そうやってふざけてないで。他のお客さんにもご迷惑でしょ」



 このお店の料理はとても美味しくて、居心地もいい。だからか、次から次へとお客さんが入ってくる。だから邪魔にならないように、外へ出ようとした。


 カランカランッ


 ほら、またお客さんが入ってきた。



「邪魔をする。楽しんでいる所申し訳ないが、ここにアテナ様はおいでか?」



 アテナ様という言葉に、お客さん全員がキョロキョロと周囲を見回す。


 私達も誰が私を探しているのかと振り向くと、そこには5人の男が立っていた。とても冒険者には見えない立派な鎧に、えらそうなマント。そしてその鎧には、パスキア王国の紋章が刻まれていた。

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