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第900話 『四ヵ国目! お待たせしました、パスキア王国だよ!』



 ドルガンド帝国のジュノー・ヘラーと、ジーク・フリート。そしてベレスという名のルーランの騎士。


 アシュワルドとその麾下の者達の活躍で、私達はジュノーらから、無事に逃げ切る事ができた。なので今は、パスキア王国の王都へと向かっていた。


 もちろん、ルキア達とも無事に合流済み。今は、再び馬車で王都を目指している。御者は私で、隣の席にはルキアが座っている。



「アテナ、あれ見てください」


「ん? もしかして村?」


「はい、村が見えますね」



 あれから平坦な道が続いている。その道の向こうに、村が見えてきた。遠めに見ても、畑があって……周囲には、牛や羊などが放牧されている。のどかで、素朴な印象の村。


 村が見つかったと声をかけようと思い馬車の中を覗き込むと、そこにはげっそりしたルシエルとマリンの姿があった。


 お腹が減っているのは解るけれど、まだ餓死とかするレベルでもないはず。なのに二人は、何か喰わせろと、まるで当てつけのように、腹減ってもう死にそうアピールをして、この私に必死に訴えている。


 ノエルはそんな二人を死んだ魚のような冷たい目で眺めていて、クロエはカルビを抱きしめて何か囁いては、頬ずりを繰り返していた。


 ふむ、どうしようかな。ルキアが言った。



「村によるんですか?」


「そうだね、よってもいいかもしれないね」



 私のセリフを聞いて、ルシエルがすっくと起き上がり、叫んだ。マリンは転がったまま、ヨボヨボとしている。



「腹減ったああああ!! 腹減った腹減った腹減った!!!!」


「うるさい、ルシエル!! 解ったから、ちょっと、大人しくしなさい!! 余計にお腹が減るわよ」


「え? 村によって食事にすんのか?」



 私はまたルシエルの方へ振り返って、微笑んでみせた。飛び跳ねるルシエルとマリン。そこから2人で腕を組んで踊りだしたので、走る馬車の中で騒ぐなとノエルに怒られていた。


 村が近づいてくるにつれて、ルキアがキョロキョロとし始める。



「わあーー。ここはもう、パスキア王国の村なんですよね」


「うん、そうだよ。クラインベルトにガンロック、ノクタームエルドときてパスキアかあ。四カ国も旅して、ルキアももうすっかりベテラン冒険者だね」


「ベ、ベテランなんてそんな……私なんてまだまだだから……」



 頬を少し赤くして、もじもじとするルキア。この子は、本当に正直な子だな。フフフフ。


 パスキア王国の王都を目指す私達の馬車は、少し道をそれて村へと入った。結構、人がいる村みたいだし、私達のような旅人らしい人もちょろちょろと見かける。ルキアもその事に気づいた。



「この村……結構、冒険者や行商人のような、私達のような旅人も沢山見かけますね」



 身に着けている装備、例えば大きなザックを背負っているとか、一目でそうだと解ったりする。



「そうだね。もしかしたら、もう王都が近いからかもしれないね」


「え? 王都が近い村だと、旅人が多いんですか?」


「決まってはいないけど、そういう村も多いよ。だいたいその傾向があるっていう、一般的な例ってことね。例えば私達みたいに、王都を目指している人で、王都に入る前に近くの村で一泊してから王都入りするとか。そういうのって、結構鉄板だからね」


「なるほど、そうなんですか」


「ほら、あっちとこっち。こんな素朴な村なのに、宿屋は一つじゃないし、酒場なんかもいくつかあるでしょ? あれは、王都入りする人達が、まずこの村に立ち寄る事が多いって証拠だよね」



 へえーっと感心している様子で、辺りを見回すルキア。そんな好奇心旺盛で、なんでも新鮮に感動をする、彼女の表情に癒されながら、馬車を停車できる場所を探す。


 すると、馬車を停車させておけるスペースがある酒場を見つけた。うん、ここがいいかもしれない。

 


「ちょっと! ここでいいかなー?」



 後ろに向かって聞くと、馬車からルシエルが飛び降りた。そのままスタタタと店の前まで行って、置き看板に目をやると忙しくまた戻ってきて馬車に飛び乗った。



「どうだった?」


「いい感じだったぞ! 肉料理もあったし!」


「それじゃあ、ここにしましょう」



 そう言って、早速馬車を停車させた。


 馬車から全員降りると、店の方へ向かう。


 初めて来る場所な上に目が不自由なのだから当然だけど、クロエはちょっと戸惑っている。私は彼女の手を引こうとしたけれど、先にルキアが気づいてクロエの手を握った。クロエの顔に笑みが灯る。


 カランカランッ


 酒場に入る。中は結構広くて、カジュアルな感じ。お客さんも沢山いて、賑わっていた。


 店主と思われる人は頭がツルツルで、片目に傷。髭が生えていて、ちょっと怖い感じの人だった。その人が私達に気づいて声をかけてきた。



「なんのようだ?」

 


 な、なんのようだって? それは、いくらなんでも初対面でないんじゃないの? そう思ったけれど、ふとノエルの顔を伺うとスキンヘッドの店主を睨みつけている。


 私は慌てて今度は、ルシエルに視線をやると、ルシエルははっと私が言わんとしている事を察して、こっそりとノエルの後ろに回って抱き着いた。



「ノッノッ、ノエルちゅわーーん」


「ひゃああっ! おい、やめろ!! なんだ、いきなり抱き付いてきて、気持ち悪い!!」


「抑えて、抑えてー。そんないつも怒ってると、駄目だよー。平常心、平常心。すりすりー」


「ううわああああ! き、気持ち悪い!! 離れろ、このバカエルフ!!」



 ルシエルは、嫌がるノエルから離れようとしない。そして私の顔を見て、ウインクした。思っていた感じじゃないけど、まあノエルを落ち着かせてくれたからいいか。



「それでなんの用だ、嬢ちゃん達? ここは、嬢ちゃん達が気に入るような店じゃねーと思うがな。だから用がないなら、帰りやがれ」



 なんでこんなに攻撃的なんだろうか。


 周囲を見ると、沢山のお客さん。店主が多少粗暴な感じでも、普通にやっていけるからかもしれない……そんな事を一瞬思ってしまったけど、余計な事を考えなくていいと思い直し、首を振って雑念を振り払うと、店主に食事できるかどうかを聞いた。

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